1-4-2 実家がナゴヤの聖女アビス!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ー恵比寿飛翔ー
〜ヤマノケ線〜
「ッぜぇ、ぜぇ……よ、ようやく撒けましたわね……」
「ッあ、あのヒステリックババアめ……ふざけた真似しやがって……」
主に新入りのサギシノを狙ってレゴブロックを乱射してきやがった聖女──じゃなかった──アラサー邪神教徒アビスからなんとか逃げ延びることができた。
「はぁ、はぁ……てか、マジ怖かったんだけど……アビスっちっていつもあんな感じなの?」
「あいつらナゴヤ帝国民は余ったレゴブロックをいつも鞄に入れていて、子どもに会うと配ってるんだ。布教活動の一環なんだってさ」
「パないじゃん」
「だけど途中でバテてくれてよかった。あいつがあと10歳若かったら殺されてたかもしれない」
「あーし達レゴブロックで死ぬところだったの?」
「打ちどころが悪ければ、な」
これで【聖雀の騎士】は4人になった。俺たちはこの新しいパーティーで、シンジュクダンジョンを攻略しようとしていた。
「しかしチャンネルのメンバーが減るというのは寂しいものですわね」
JK悪役令嬢デスワの表情は、憂いを帯びている。
「ひとり増えたし問題ねえよ。きっとアビスも草葉の陰で喜んでるさ」
「死んでませんわよね」
そう。これは避けようのない運命だったのだ。
それにアビスならきっと、どこの刑務所でもうまくやっていける。
揺れる吊り革を見上げていると、アビスとの想い出が蘇る。
初めて会ったとき。
それからこれまで。
本当に色々な事があった。
【──実家の川で採れたシャチホコです。知ってますか?シャチホコの旬は春なんですよ……えっ食べたくない?さては背信者ですか?──】
【──トーキョーモンのゴブリンは知恵が足りていないですねえ。これならまだ猿の方が賢いですよ──】
【──あの味噌をもっと飲みたい?ふふ、シーフもようやくヤバトン神への信仰に目覚めたのですね。え?どうでもいいから味噌をくれ?だめですよ、お祈りが終わってからです──】
……おかしいな。ロクな思い出が甦らねえ……。
記憶領域の無駄だから消しとこう。
『♪〜次は〜〜シンジュク〜〜シンジュク〜〜』
ああっもうすぐシンジュク駅だ!
感情に浸っている暇はない!今は目の前の配信に集中だ!
俺達はヤマノケ線を降り、最寄りのダンジョンに辿り着く。
「装備!オン!」
俺達はダンジョン用の装備を身につける。着替えの面倒がないのは助かるな。それから配信用自動追跡ドローンをセットすれば、準備は完了。
【聖雀の騎士】のダンジョン配信の開始だ!
「リスナーのみんなメリクリ〜」
◇はじまった
◇メリクリ〜
◇メリクリ
◇いま9月ですよ
◇初見帰
「今日も今日とてシンジュクダンジョンを攻略していきますわ」
「それとお知らせだが、アビスのバカは追放した」
◇草
◇草
◇もう普通に追放って言ってる…
◇取り繕うの面倒くさがるな
◇正直にいえて偉い!
◇そんな…アビスおばさん…
◇18歳だっつってんだろトーキョーもんが!!
「代わりに新メンバーを紹介する!」
「リスナーのみんなメリクリ〜!最強白魔導ギャルのサギシノで〜っす♪シーフっち達も、リスナーのみんなも、あーしの白魔法で癒しちゃうぞっ♥」
◇ギャル?
◇やさしい
◇かわいい
◇かわいい
◇若さを感じる
◇癒されちゃうぞっ♥
「アハっ♪リスナーくん達の反応かわい〜wマジウケんだけどw」
◇きゅん
◇しゅき
◇ノーチェンジ
◇笑顔が眩しい
◇俺もこんな青春送りたかったよ
「それじゃみんな〜!気合入れていくぞ!!」
「「「おーっ!!」」」
俺たち4人は士気を高めると、ダンジョンの奥に向かって進んでいく。
女子大生女騎士ユリ。
JK悪役令嬢デスワ。
期待の新星ギャル魔導師サギシノ。
そしてこの俺、自称勇者のシーフ。
全員、ネット評価ではSランクの探索者だ。
たとえアビスが居なくたって、俺達【聖雀の騎士】は、ダンジョンなんかにおそらく絶対に負けたりしないッッッ!!!
◇ん?あれ?誰か忘れて──?




