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1-4-1 実家がナゴヤの聖女アビス!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ー都民を洗脳して国家転覆を企てただけなのにー

 〜カラオケボックス・ジャイサウンド〜


「ッな、なんと……!?聞き間違いではありませんか、同志シーフ!この私を追放にすると聞こえましたが──」

「だから追放(クビ)だよ、アビス。お前には今日限りでこのダンジョン配信チャンネル【聖雀の騎士(サイレント・ナイト)】を抜けてもらう」


 俺がそう吐き捨てると、目の前の女性は、信じられないという表情で頭を振る。


 女性の名は恵比寿(えびす)飛翔(ふらい)。配信者名はアビス。

 本人は18歳と言っているが実年齢はおそらく30歳を超えている。

 清廉という言葉がよく似合う黒いワンピース。


 ダンジョンから与えられたジョブは【聖女】。俺達のチャンネル【聖雀の騎士(サイレント・ナイト)】では、主に回復役として活動している。


◇くたばれアビス

◇どの面下げて出てきやがった

◇実家に帰れなのだ


 リスナーの皆さんも不安がって──ないな。

 まあニュースとかで散々騒がれたしな。


◇え?なにかあったんですか?

◇どういうこと?みんな喧嘩しないで


 といってもまだ事情を知らないリスナーも多いみたいだな。


「私は唯一神ヤバトンの意思によってここにいます。それを追放するという事は、ヤバトン神、ひいてはナゴヤ帝国に逆らうという事になるのですよ?」

「なにが唯一神ヤバトンだ。うちは代々キリスト教徒だ」

「なんと罰当たりな──おお神よ、どうかこの異教徒(トーキョーもん)に慈悲を──」


 両手を組み、天に祈るポーズをするアビス。

 実際には天ではなく、ナゴヤ城の方角に祈っているだけなのだが。


◇ナゴヤ帝国に栄光あれ

◇ナゴヤ帝国に栄光あれ

◇謝れトーキョーもん

◇おいナゴヤ帝国民が湧いてきたぞ

◇ナゴヤ帝国に栄光あれ

◇ゲスト¥758

◇ゲスト¥758

◇ゲスト¥758

◇無言スパチャの連投やめろ怖いから


「まあいいでしょう。信仰は個人の自由ですからね。いずれ改宗させてみせますよ」

「自由どこいった?まあいいんだよそんな話は。問題はコレだ」


 俺は削除対策済みのニュースを流す。

 そこに映っているのは、興奮したレポーターと都内にある黄色い看板のラーメン屋だった。


『──私はいま、都内の某人気ラーメン屋の前に来ています!ボリューム系として名を馳せたあのラーメン屋が、いまとんでもないことになっているんです──』

『──ざぁこ♥ざぁこ♥ソフトクリームマシマシ♥──』

『──インタビューしてみましょう!大将、どうして急にラーメン屋の経営方針を変更したんですか?──』

『──唯一神ヤバトン様のため!この【三郎系ラーメン】は【メスガキヤラーメン】として生まれ変わったのだ!ざぁこざぁこ♥ナゴヤ帝国に栄光あれ♥──』


 映像の中では黒シャツに強面の店主が腕組みのまま、わからせたくなるような頭の悪いワードを連発していた。


◇メスガキヤはナゴヤ帝国の和風豚骨ラーメン店だ。特徴は非常にリーズナブルな価格であることと、デザートにソフトクリームがマシマシされること、そして店員も客もすべてメスガキ口調でいなければならない暗黙のルールがあることなどが挙げられる

◇急に早口になるのはやめるのだ

◇俺もナゴヤ帝国に出張したときにいったことあるけど、ちゃんと下調べしてなかったからメスガキ口調で注文するのが難しかったな

◇ラーメンにソフトクリームってあうのか?

◇実際ソフトクリームは美味い


 映像はまだ続く。


『──ソフトクリームマシマシかわい〜♥トッピングもつけちゃえ〜♥──』

『──変わってしまったのはこのラーメン屋だけではありません!都内にあるすべての三郎系ラーメンがすべて、ソフトクリームとラーメンを同時に出すメスガキヤに変わっているのです!──』


◇は?すべて?

◇どういうこと?


 そう。すべてだ。

 都内にある三郎系ラーメンは、一夜にしてすべてメスガキヤに改修してしまったのだ。

 まるで秀吉の一夜城のように。


『──いったいなぜこんな事になったのか!?我々が情報を探っていったところ、とんでもない映像が手に入りました!──』

 

 そして映像は深夜の公園に切り替わる。

 そこではラーメン屋の店主らしき人々が円陣をつくり、その中央で、黒服に身を包んだ聖女が天に両手を掲げていた。

 

『──しゃちほこ──』

『『『──シャチホコ、シャチホコ──』』』

『──しゃちほこ!!──』

『『『──シャチホコ、シャチホコ、シャチホコ!!──』』』

『──みなさんは、なんですか?──』

『『『──はい、私たちは、ラーメン屋です──』』』

『──違います。みなさんは迷える子羊達。そしてみなさんを導くのは、唯一神ヤバトン様なのです!──』

『『『──ヤバトン!ヤバトン!ヤバトン!──』』』

『──みなさんはヤバトン様がお作りになったナゴヤ帝国の領土を拡大させるための尖兵です──』

『『『──ナゴヤ帝国万歳!ナゴヤ帝国万歳!──』』』

『──みなさんの店は明日からメスガキヤです。みなさんはそのメスガキ店長として、ラーメンを食べにきた若者にソフトクリームを恵むのです。わかりましたね?──』

『『『──りょうかい。ソフトクリームだいしゅき♥ざぁこ♥ざぁこ♥──』』』

『──では解散ッ!しゃちほこ!──』

『『『──しゃちほこ!ざぁこ♥ざぁこ♥──』』』


 ラーメン屋の店主達はふらふらと公園から出て行った。

 ここで映像は終わっている。


「 な に し て ん の ? 」


「あらあら〜まさかバレていたなんて、恥ずかしいですね」

「言うまでもなくSNSのトレンド一位だ、おめでとう」

「ありがとうございます、同志」

「コレ洗脳だよね?」

「誤解です。地道な布教活動ですよ同志。聖女ですからね」

「ナゴヤ帝国の領土を拡大?」

「はあ……いいじゃありませんか、いずれこの国はナゴヤ帝国の属国となるのですから。早いか遅いかの違いですよ」


 このアビスという女、奇行の多いパーティーメンバーの中で普段は常識人の皮をかぶっているのだが、一皮剥けばぶっちぎりで頭のおかしい女なのである。

 彼女の実家であるナゴヤ帝国の神ヤバトンとやらを狂信しており、その教えを広めるためなら文字通りなんでもするようなヤツなのだ。


 最近おとなしいと思って目を離していたら爆弾を投下してきやがった。


◇神も仏もあったもんじゃねえのだ

◇有罪

◇有罪

◇有罪

◇ナゴヤ帝国万歳!ナゴヤ帝国万歳!ナゴヤ帝国万歳!

◇しゃちほこ!

◇しゃちほこ!!

◇ゲスト¥758:ソフトクリーム代

 

「ほらほら応援してくれるリスナーもいますし」

「あいつらは帝国民じゃねえか!!きゃらぶきでも食わせておけ!!」


◇天むすにきゃらぶきじゃなくてしば漬けが付いてるとがっかりするよね

◇しば漬けの方が合うやろ

◇じゃあ敵だね


「はあ〜!?どうせ三郎系ラーメンなんて豚の餌じゃないですか!」

「最近は清潔感とか味のクオリティもかなり上がってるんだよ!!ここ数年で女性ファンだって増えてるんだぞ!!」


◇そうだそうだ!

◇とんでもねえことしてくれやがって

◇豚だけに?

◇やかましいわ!!

◇豚を信仰してるやつが豚の餌とかいうな


「あ!そこのコメント!唯一神ヤバトン様を侮辱しましたね!祟りがありますよ!?」


◇やってみろッ!そんなシャバいオドしにビクついてリスナーがやってられるかどうかはテメエ自身がよく知ってるハズだぜッ!


「ッババアのオドしですって!?!?」


◇目が霞んでんのかババア

◇眼科行けBBA


「ッぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!」


 リスナーとプロレスしてんじゃねえよBBA。


「まあまあまあまあ、みなさんヒートアップし過ぎですわよ」


 向かいの席で優雅に紅茶を啜っていたデスワが、俺達を止めに来る。俺とアビスは、デスワからティーカップを受け取る。


「さ、落ち着く紅茶ですわ。こちらをお飲みになって」

「あ、ほんとだ美味しいですね。流石は同志デスワ」

「それにいい香りだな。こんなのドリンクバーにあったっけ?」

「わたくしが取り寄せた紅茶ですわ」

「チャンネルの運営費で?」

「チャンネルの運営費で」

「いくらしたんだ?同志デスワ」


 にっこりと高貴に微笑むデスワ。


「ほんの7万9800円ですわ」

「ッまずテメエから血祭りにあげてやらあああああああ!!!」

「お、落ち着くのですわシーフ!!話せばわかっ──」

「装備!オン!!」

「ッちょっおま、剣を!剣をしまうのですわ!!」

「ッやかましい!」


 元社長令嬢デスワはそそくさと引き下がっていった。


「まったくデスワさんには困ったものです」

「ほんとだよな。これから4人になるんだしもうちょっとしっかりしてほしいもんだぜ」

「そんな、考え直してください同志シーフ!」

「いまさら遅い」

「私が居なくなったら、誰がみなさんの防御と回復をするんですか?」


 ……………………あー。

 ……………………あー?


◇あ

◇あ

◇あ

◇あーそうきたか

◇新しいパターンだな、うん

◇考えてなかった

◇愚かなりトーキョーもん

◇トーキョーもんなのだ


「アイテムボックスにありったけポーション入れてけばいいだろ?」

「そうですね。それだけのポーションを購入できればですけど」

「てっ、適当な白魔導士を見つけるさ」

「そうですかあ♪だけど私達が挑んでいるシンジュクダンジョン、ネットじゃこの国で最高難易度とも言われているらしいじゃないですか?」

「そっ、それがどうした?」

「うふふっ♪ついて来られる評価Sの白魔導士が、果たしてそう簡単に見つかりますかねえ?」

「ッぐ…………!」

「ん?言い返せないなら私の勝ちですが?」

「ぐぐっ…………!!」

「ヤバトン神よ!今日も私は勝利しました!信仰の勝利です!シャチホコ!!」


 聖女スマイルと謎のポーズを見せつけ、勝ち誇るアビス。こ、こんのドグサレ聖女があぁ……!!

 ──まあ、でも、コイツのこういう強かで賢いところが、このパーティーを救ってきたのも事実だ。腹立つけど確かに実力はあるし。


◇もう仕方ない…

◇今回は負けだよ…

◇撤退しよ?

◇詰んだもんなのだ…

◇ババアに生殺与奪の権を握らせるな

◇ナゴヤ帝国の勝利だ!シャチホコ!


 ……ここは俺が大人になるしかないのだろうか?


「おーい二人とも、なにを話しているんだい?」


 頭を抱える俺の元に、ドリンクバーからユリが戻ってきた。


◇流れ変わったな

◇どうせ流れ変わらねえぞ

◇こいついつも配信中に勝手にどこかいくな

◇首輪つけとけ

◇もう無理だよ駄犬

◇ドリンクなに持ってきたんだ駄犬


「なんだよ、今忙しいんだから──ん?また新しい女を捕まえたのか」


 ユリは、ひとまわり小さな少女を連れていた。


「ああ。この子をナンパしていたら、我々のチャンネルに興味があるらしくてな」

「ど〜も〜ナンパされてきました、鷺忍(さぎしの)(まこと)で〜す!アハっ♪てかユリっちの友達?マジかわいいじゃんw」


◇ギャル

◇ギャル

◇ギャル

◇オタクに優しいギャル?

◇それは非実在存在だぞ


「あ〜リスナーちゃんじゃん!メリクリ〜」


◇メリクリ〜

◇メリクリ〜

◇メリクリ〜

◇オタクに優しいギャルは存在したんだ

◇駄犬が女神を連れてきた


「あーしもダンチューバーやってんだ〜♪サギシノチャンネル!みたいな?知らないかw」


◇ごめん知らない

◇ごめんね…

◇これから覚えるから!


「アハっ♪いいのいいの!けどいい加減ぼっちも辛くてさ〜どっかのチャンネル入りたいなって思ってたら、ユリっちに声かけられちゃったみたいな?」

「サギシノさんはなにができるの?」

「サギシノでいいよ〜wあーしはね〜白魔法がめっちゃ得意なんだよね!どんくらい得意かっていうと〜100階層くらいならヨユーでいけちゃうくらいかなw」

「なるほど、そう来たか。俺はリーダーのシーフだ」

「シーフっち!マジかわいい!頭撫でていい?てか小学生?」

「中学生だよ!」

「え〜ウケんだけど!あーしもシーフっちと一緒にメリクリってやつしたいなぁ〜」

「もちろんだよ、今ちょうど回復役のおばさんが用済みになって枠が空いたところだ!ようこそ【聖雀の騎士(サイレント・ナイト)】へ!」


 俺とサギシノは、硬い握手を交わした。






「………………………………。」


◇……。

◇……。

◇……。

◇おつババア

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