1-1-1 女子大生女騎士ユリ!今日限りでお前はこのチャンネルから追放する!ーちょっとリスナーと寝ただけなのにー
〜カラオケボックス・ジャイサウンド〜
「ッな、なんだって……!?もう一度言ってくれ、シーフ!!」
「だから追放だよ、ユリ。お前には今日限りでこのダンジョン配信チャンネル【聖雀の騎士】を抜けてもらう」
俺がそう吐き捨てると目の前の女子大生は、まさに青天の霹靂といった表情をする。
俺の名は椎名・風馬。配信者名はシーフ。
年齢14歳。両親は仕事で長いこと海外に行っており、俺は両親の借りている安アパートに暮らしている。
目元が隠れるくらいに伸びた茶髪の癖毛が悩みの種。
俺がダンチューバーになった理由は、2つある。
ひとつは仕送りだけでは生活費が心許ないこと。
そしてもうひとつは──8年前に俺が巻き込まれた事件の真相を追うためだ。
「シーフ……そんな……私がなぜ……っ」
そして女子大生の名は大神・ゆり。配信者名はユリ。
年齢20歳。
銀髪のポニーテール。王子様のように凛々しく整った顔立ち。
ダンジョンから与えられたジョブは【女騎士】。俺達のチャンネル【聖雀の騎士】では、前衛を務めている。
◇えっ追放?なんで?
◇仲良くしてくれなきゃやだ!
◇初見は帰れなのだ
リスナーの皆さんも不安がっていらっしゃる。
まあ【大切なお知らせ】って雑談枠取っちゃったからな。
お別れくらい言わせてやろうという粋な計らいだ。
「ッく──そんな馬鹿な!いったい私のどこが至らなかったというのだ──!?」
◇それな
◇ユリちゃんって結構強かったよな
◇ユリちゃんは戦闘面では常に役に立っていた。タンク役として敵を引きつけるだけじゃなく、カウンターで一気に葬り去る技量もある。それ抜きにしてもユリの剣技は世界トップクラスだし、タンク必要ないときは攻撃に出しても申し分ない
◇急に早口になるのはやめるのだ
「ほら!皆もこう言っている!」
「まあその点は申し分ねえよ?」
「ならば何故──!?」
「……お前のことで良くない噂がたってるんだよ」
「ッ噂だって!?仲間の事より、くだらない噂なんかを信じるというのかい!?」
女子大生女騎士ユリは憤慨し、剣のようにマラカスを構える。
俺も少しだけ身構えたが、ユリはそのマラカスを右手で高々と掲げ、宣言した。
「我が心に一点の曇りなし!騎士の誇りと、この剣にかけて!この大神ユリ!やましいところなど、いっさいないッッッ!!」
◇マラカスで草
◇マラカスなんだよなあ
噂など気にする必要はないと、断言する女騎士。
その表情は凛と輝いている。
てか騎士の誇りってお前、女子大生だろ。
仕方ない。
俺は現実を突きつけてやることにした。
「本当だな?」
「ああ、誓っていいとも!なあみんな!」
◇嘘つけ絶対やましいことあるゾ
「嘘じゃない!」
「そうか──じゃあマイク持って」
「え?」
「マイク。持って」
「あ、はい」
ユリがマイクを持つと、俺は自前のボサボサ髪を掻き上げる。
「────ローズ、チェリー、パンジー……」
ぴくっ。
女子大生女騎士の眉がわずかに痙攣した。
今挙げたのは、メンバーシップにも入っている三人のリスナーのニックネームだ。ちなみに全員女性。
「この名前を聞いて、身に覚えはあるか?」
「ど、どこでそれを……?」
「質問を質問で返すなッ!」
「はは、顔が怖いぞシーフ?どおどお……」
「お前──この三人に何をした?」
ユリの額に、ぶわっと脂汗が滲む。
「べっ、べべべ、べ別にな何もしていないぞ?ただ、日頃応援してくれているだろう?メンバーシップにも加入してくれてるし!」
「ほー」
「DMでやりとりもしていたんだが、やはり直接会って感謝を伝えたいと!そう思ったわけだ!それからまあ喫茶店に誘ったんだが」
「へー」
「すっかり楽しい時間を過ごしていたら、いつの間にか月が出ているではないか!夜にひとりで歩かせるのは危ないだろう?だから家まで送ろうと申し出たんだ」
「ふーん」
「家に送り届けるつもりだった!本当だ!騎士の誇りにかけて!」
「うんうん」
「でも丁度よく、女二人で泊まれるピンク色の宿屋があってな!しかもたまたまVIP会員割引の日だった!私もたまたまお金を持っていたし一泊することにしたんだ!」
「それで?」
「それで、あの、ほら──わかるだろ?」
「だから?」
◇あっ…(察し)
◇なんの話?
◇大人になればわかるのだ
◇VIP会員なのか
「くっ………………」
女子大生女騎士は観念したかのように、マイクに向かって細長い息を吐き出した。
「えっちなことをしました」
「やましいことシッカリやってんじゃねえかあああああああああ!!!」
「うわあああああっごめんなさいいい!!」
俺が掴みかかると、ユリはどーどーと手で押し返してくる。
◇鼓膜ないなった
◇うるさいのだ
◇通報しました
◇ローズ¥5000:ユリ様は悪くありません!
◇チェリー¥5000:そうよ!非モテにはわからないわ!
◇パンジー¥5000:抱かれて悔いなし
◇ビオラ¥5000:非モテの僻みでしょ?
◇ドクダミ¥5000:ユリ様の花びらとても美しかったです
◇詳細希望
◇ソースはどうした
◇チンパンジー¥5000:同意の上ならよくない?
おい急にスパチャで擁護してくんじゃねえ!
しかも三人どころじゃねえし。
とりあえず非モテって言ったやつはブロックするか。
「お前さあ〜!女なら誰でもいいのか?」
「誰でもいいわけないだろう?騎士の誇りにかけて、私は可愛い女の子にしか興味はないゾ」
「んなことを自慢げに言うな」
◇何人くらいヤったんや?
「20人くらいから先は数えてないな」
「ッんなことを自慢げに言うなああああああああああ!!」
まだこのチャンネル作ってからたいして経ってねえってのに、どんだけリスナー食い散らかしてんだこのクソビッチが!!リスナーさんはお前の朝食バイキングじゃねえんだぞ!?
「っていうか、リスナーだけじゃないからな。ダンジョン攻略中とかも他の女の子に声掛けたり、とにかく女癖が悪いんだよお前は」
「うっ──」
「もうこれ以上お前の面倒は見切れない。悪いけどチャンネルからは抜けてくれ」
「ちょっと待ってくれたまえ、シーフっ!」
「……なんだよ」
女子大生女騎士ユリはマイクをテーブルに戻すと、腰を90度に曲げて礼をする。深い謝罪の意だ。
「この通りだ。私が悪かった」
「──ふ、ふん!今更そんな態度をとられても──」
「私は確かに女好きのクズかもしれない。最低のゴミだ。死んだ方が世のためになるカスだ」
「いや、なにもそこまで言わなくても……」
「だが、このチャンネルとリスナーの皆をなによりも大切に思っている。これは本当の気持ちだ」
「……。」
そう真っ直ぐに言われると、悪い気はしない。
確かにこいつは素行にこそ問題はあるが、ダンジョン攻略配信にはしっかり貢献してきた。女の尻を見て暴走するこいつを止められなかった、こちらにも非があるのかもしれない。
「もう二度と、このような不貞な真似はしない。騎士の誇りと、腰の剣にかけて誓おう」
「腰の剣?」
「心の中にある!!」
「──わかったよ、ユリ」
「シーフ……ありがとう」
ユリは、俺の両手を固く握りしめる。
それから彼女はカメラの方に向き直り、迷惑をかけたリスナーに向かって軽く頭を下げる。
「すまなかった、皆。心配をかけてしまった」
◇謝れてえらい
◇謝れてえらい
◇謝れてえらい!
◇もうゆるしてやったらどうや
◇ゲスト¥3000:ゆるして欲しければカメラに尻を向けろ
「ぐすっ、ありがとう、ありがとう!」
こうしてユリは元鞘に収まった。
すると丁度、扉をノックして店員の女性が顔を覗かせた。
「すみませんハニトーお持ちしました〜」
次の瞬間、ユリは驚くべき速さでドアの方に移動していた。
「ああ、ありがとう。あれ?キミ、見掛けない顔だね。新人さんかい?」
「そうなんですよ〜昨日からアルバイトで〜」
「こんな美しい方に逢えるなんて光栄だな」
「ええ〜お客様ったらお世辞が上手ですね〜」
「いやいや、お世辞ではないよ。騎士の誇りとこの剣に誓って」
「お姉さんウケる〜それマラカスだし」
「ははっ、まったくキミのボーイフレンドが羨ましいな」
「え〜?うちずっとフリーだよ〜?」
「ははは。世の中の男どもは見る目がないなあ!キミ、名前は?私は大神ユリ。しがない女騎士で、女子大生さ。ああそうだ!仕事は何時に終わるのかな?もし他に予定がなければ、今晩夕食にでも────」
「………………………………。」
◇……。
◇……。
◇……。
◇おつユリ〜