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王の鏡と廻る時計  作者: 蒼井のあ
第1章 何度目の桜だろう
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抗えない現実


「ソラ。次こそは邪魔させないから。」



それだけ言い残して彼女は去っていった。



次こそは?意味がわからない。そもそも僕と彼女は初対面だと思うんだけど…?



悪い予感が脳裏をよぎる。



「え、いや……嘘でしょ」



ああ、僕は気づいてしまった。長い夢から醒めたような、そんな気分だ。



「ここってもしかしてゲームの世界…?」



疑惑が確信に変わる。だってこんなロココ調の家具がびっしり並んでいる部屋、現代の日本にはなかなかないはず。



彼女の着ていたドレスも、近世ヨーロッパの貴族のようだった。日本人はめったに着ない服だろう。



それなのに、彼女は日本語を流暢に話していた。



なにより彼女は、ゲームの悪役令嬢にとても似ている……というより同一人物だといわれたほうがしっくりくる。



僕は頬を引っ張ってみた。



…うん、夢じゃない。全く現実味を帯びていないが、ここがゲームの世界というのならばすべて説明がつく。信じられないし、信じたくないが、およそ疑いない。



「次こそは邪魔させない」という言葉の意味は未だ分からないままだが。



どうやら、僕はあの鏡の光で転移したみたいだ。転移したのは僕1人だけだろう。



ん…?僕がゲームの世界に来たら、元の世界にいるであろういちごはどうなるんだ?僕が面倒を見なかったら誰がいちごの面倒を見る?



…帰ろう。元の世界に。どうやって帰るのかすら分からないけれど、絶対に帰ろう。というより、帰らなきゃ。



そもそも急に異世界に飛ばされて、元の世界へ帰りたいと思わない人なんて居ない。



僕はあのゲームをしたことがないので、ゲームの知識はいちごから教えてもらったものしかない。



とりあえず、いちごが教えてくれたゲームの知識からなにか使えるものがないか考えないと…



「ソラ様、失礼致します」



落ち着きのある低い男性の声が聴こえた。初めて聞く声だが、とても心地よく感じる。



「はい。どうぞ」



カチャという音とともにドアが開いた。そこには先程喋った黒髪の男性と、黒いフロックコートを羽織り、眼鏡をかけている男性がいた。彼の髪色はグレーで、年齢は40代くらいに見える。



「おはようございますソラ様、わたくしは医者のロイドと申します。」



「はじめまして、ロイドさん。」



僕の言葉を聞いて2人は顔を見合わせている。一体なにがあったのだろう…?



「なあロイド、ソラは大丈夫だよな?」



「そうですね…一応目立った外傷はなさそうですが、こればっかりはまだなんとも言えませんね」



「そうか……」



「陛下、少しソラ様と2人にしていただけませんか?」



え?陛下?……もしかしたら、あの黒髪の彼は王様なのかもしれない。僕、彼に対して失礼な態度を取っていないだろうか…?



「ああ、分かった。ソラを頼んだぞ。」



ということはここは王宮なのだろうか?なら尚更僕はなぜここにいるのか分からない。謎は深まるばかりだ。



「かしこまりました。」



陛下と呼ばれる彼が部屋から出ていった。



「ソラ様、少し質問してもよろしいでしょうか?」



ロイドさんが僕に問いかける。



「はい、構いませんけど…」



「貴方はなぜここにいるのか、覚えていますか?」



「いえ……覚えてません」



「そうですか……やはり記憶喪失の可能性があるな」



僕は記憶喪失だと思われているらしい。確かに、ここに来るまでの記憶はない。でも記憶喪失ではなく、本当は異世界からやってきたんです…なんて言えるわけない。



このまま記憶喪失の振りを続けるべきか否か…



ふと、黒髪の彼と最初に喋ったときの心配そうな顔を思い出した。……なんだかこのまま嘘をつくのは罪悪感を感じる。



「自分の名前は覚えていますか?」



「えっと、佐藤そらです。」



「え……?砂糖?」



あれ?彼らは僕の名前を知っていたんじゃないのか?苗字までは言っていなかったのかな。



「…ソラ様、貴方のお名前はソラ・アイリス・ノワールです。」



「え……?」



ソラ・アイリス・ノワール?それっていちごが教えてくれた、僕によく似たゲームのキャラクターの名前だよな?



え?ちょっと待って……



僕は「佐藤そら」としてではなく「ソラ・アイリス・ノワール」としてこの世界にきていたってこと!?




…でも、なるほど、確かにそれなら色々と説明がつく。王様であろう彼が僕のことを心配していたのは息子が記憶喪失かもしれなかったからだし、悪役令嬢が僕と喋ったことのある素振りだったのは異母姉弟だったからだ。



…悪役令嬢の「次こそは邪魔させない」という言葉の意味はまだ分からないままだが。



この部屋の鏡に映る僕はいつもの僕と何も変わらないように見えたし、「そら」という名前も同じだったので全然気がつかなかった。



「ソラ様、混乱するのも無理ないです。ゆっくりでいいですからね」



ロイドさんは僕が混乱のあまり沈黙しているのだと思って気を遣ってくれた。優しさが身に染みる。



さて、ここからどうしようか。記憶喪失のふりは簡単だが、どうしても罪悪感が拭えない。かといって全て正直に話すわけにはいかないし…。



「いえ…大丈夫です。少しだけ、思い出せました。」



「本当ですか!!何を思い出せましたか?」



「僕には兄と姉がいること。僕はメラン国の第2王子だということ。名前はソラ・アイリス・ノワール。先程部屋を出ていかれた男性は僕のお父様だということまでは思い出せました。」



最後のだけゲームの知識ではないが、先程陛下と呼ばれていたし、多分当たっているだろう。



「そうです…!他にはなにか思い出せましたか?」



「……ごめんなさい。これ以上は思い出せそうにないです。」



「いえいえ、構いませんよ。ソラ様のおっしゃる通り、ソラ様は第2王子です。ですのでわたくしに敬語を使う必要はございません。」



「ああ、そうだよね。…ねえロイドさん」



「ロイドとお呼びくださいませ。」



「分かった、ロイド。次は僕から質問しても良いかな?」



「ええ、もちろんですよ。わたくしで分かるものでしたらお答えいたします」



「僕はどうしてここで寝ていたの?」



「実は…屋敷の階段で足を踏み外し、頭を強打されたのです。それから2日間眠っておられました。」



「そうだったんだ…今日の日付は?」



「本日は4月8日でございます。」



この世界の暦は日本と変わらないといちごが言っていたはず。



「あれ、学校は…?」



「確か春季休暇だったかと。次の登校日は3日後の4月11日です。」



なるほど。元の世界に帰るにはどうするか、3日間の間である程度目処をつけておかないといけないな…



「お医者さんなのによく知っているね」



「わたくしは王宮医者ですので、王族の方のことは詳しいんです。」



「そうなんだ…!ねえ、僕って何年生?」



「ソラ様は11日から2年生になられます」



いちごによると、悪役令嬢やレグルスお兄様たちはソラの1学年差だ。つまり、悪役令嬢たちは11日から3年生になるということだ。そして、ゲームの舞台となるコルチカム学園は日本の高校と同じ3年制。


ゲームのエンディングは悪役令嬢たちが卒業するまでだから、ゲームが終わるまであと1年くらいあるのか。



「沢山答えてくれてありがとう、ロイド。まだまだ聞きたいことはあるけれど、ここまでにしておくね」



「いえいえ、お役に立てれば幸いです。」



「先程も申し上げましたが、ソラ様は頭を打って2日間眠っておられました。ですので、まだ体調は万全ではないでしょう。無理はしないでくださいね。わたくしはまた明日も様子を見に来ますが、何かございましたらすぐにお呼びください。」



「わかった。ありがとうロイド。明日もよろしくね」



「よろしくお願いいたします、ソラ様。」



ロイドは柔らかく微笑んだ。



「それでは失礼致します」



部屋に扉の閉まる音が響く。



ロイドは面倒くさがらず、丁寧に僕の質問に答えてくれた。ロイドが優しい人で本当に良かった。



はあ、なんだか今になってどっと疲れが出てきた。まだ考えないといけないことは山ほどあるのに。




……それにしても僕はこれからどうやって元の世界へ帰ればいいんだろう?



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