一体だれが
あれから何日経っても僕はあの子とは話せなかった。いやまあ、別に話さなくてもいいんだけど…
「ソラ、早く食べないと冷めるんじゃないか?」
シアンの言葉で現実に引き戻される。考え事をしていたので、食べる手が止まっていたようだ。
「ああ、そうだね」
シアンはずっと空を見ていた。今日は雲一つない青空が広がっている。
シアンの瞳は今日の空と同じ、澄んだ水色だ。まるで空を鏡で映しているような瞳だな…
ふと、リーマ先生が瞳の色で使える魔法が変わると言っていたのを思い出した。
「…そういえばさ、シアンって魔法使えるんだよね?」
「さあ?そもそもボクは、どうやって魔法を使うのかすら知らないけど」
「そっか…」
確かに…魔法ってどうやって使うものなんだろう?
…遠くから足音が聞こえてくる。だんだん、こっちに近づいているような?
「ソラ…!屋上にいたのか…」
アイビーが息を切らして駆け寄ってきた。なにをそんなに急いでるんだ?
「どうしたの?アイビー」
「お前が…」
「記憶喪失だって噂が広まってる…」
「…え!?」
―――――――――――――――――――――――
「…あ、来たよ」
教室に入った瞬間、好奇の目に晒された。もうここまで広まっているのか…
「…ソラ、絶対に記憶喪失とは言うなよ?」
アイビーが小さな声で僕に警告してくる。
「わ、わかった」
こういう嘘をつくのは苦手だな…いや、嘘ではないんだけど。
「おい、ソラいるか?」
何人かの男子生徒たちが教室に入ってきた。…口調からして先輩たちだろう。
「居ますよ、僕に何か用ですか?」
「…お前、記憶喪失なんだろ?」
「どこからそんなことを聞いたのでしょうか?僕は記憶喪失ではありません」
「はあ?…じゃあ、なんか証明してみろよ」
「そんなん無理だろ、どうせ記憶ないんだから」
「お前ら、いい加減に…」
「アイビー、いいから。」
怒るアイビーを止め、僕は男子生徒たちに目を向ける。
彼らは僕を馬鹿にして笑いあっていた。…これ、仮にも王子に対する対応ではないよね。ソラとはどういう関係性なんだろうか?
「ねえ、なにかあったの?」
…教室の外にも多くの人が集まってきているようだ。これ以上、騒ぎになったら困る。
「…じゃあ次のテストで学年1位を取ります。記憶喪失なら、1位なんて取れませんよね?」
―――――――――――――――――――――――
先輩たちは居なくなったが、教室はどうも居心地が悪かったのでアイビーと一緒に屋上へ来た。
「…とりあえず、誰がバラしたか分からない。リーマ先生から聞いたが、生徒会の3年生と俺だけが記憶喪失だと知っていたらしい。…生徒会のやつら、警戒しておけよ」
生徒会の3年生、つまりゲームに出てくる人達ってことか…
「俺は先生に報告してくるから、ソラはここで待っててくれ」
「うん、ありがとうアイビー」
…はあ、また悩み事が増えたな。
「ソラ、大丈夫か?」
「あ、シアン」
まだシアンも屋上にいたんだ。
「ボク、今の話を聞いてたんだけど…」
「あの、アイビーってやつ?あいつにも気をつけておいた方がいいんじゃないか?」
「え…?」
「アイビーってやつが、記憶喪失のことを言ってる可能性もあるんだろ?」
「…多分、違うと思うけど」
「なぜそう言える?あいつだって、お前が記憶喪失なのを知ってたんだろう?」
「うーん、確かにそうなんだけど…」
「…まあいい。可能性はあると思っておいた方がいいと思う」
「うん、そうだね…」