見飽きた光景
「ん……?」
いつのまにか僕は寝ていたみたいだ。そろそろ起きて学校に行かないと。今何時だろう…?
時計を見るために重たい瞼を持ち上げる。ぼやけていた視界がだんだんクリアになる。
あれ…?時計が見当たらない。というか、ここは僕の部屋じゃない。
体を起こすと、そこには見慣れない光景が広がっていた。ロココ調の家具一式が並んでおり、天蓋の付いた真っ白なベットに僕は寝ていた。置かれている雑貨は全てヴィンテージ物らしく、気品のある雰囲気だ。
え?ここは…?
周りを見渡すと1つの大きな鏡があった。身長くらいの高さがある鏡にはきょとんとする僕の顔が映し出されている。鏡に映る僕は白いネグリジェのような服を着ていた。確か、昨日は制服を着たままだったと思うけど。
いつ服を着替えたっけ?そもそも、ここはどこだろう?なぜここにいるんだ?疑問ばかり頭に浮かぶが、何一つ答えは見つからない。
確か、部屋にある鏡に触れたらそこらじゅうが目も開けられないほどの強い光に包まれて…それ以降の記憶はないが、眠っていたのだろうか?
自分の置かれている状況が理解出来ず狼狽えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ソラ、入るぞ」
ドアを開けた男性は黒髪の短髪で爽やかな印象だ。30代前半くらいか…?僕の親世代より若くみえる。贅沢に宝石が散りばめられた服を着た彼は僕を見ると同時に息を飲んだ。
「ソラ!起きたのか!体調は大丈夫か?」
僕の名前…?彼とは面識がないのになんで僕の名前を知っているんだろう?
「あの、聞きたいことがあるんですけど。」
「なんだ?なんでも聞いてくれ!」
「ここは、どこですか?僕はなんでここにいるんですか?」
彼は僕の発言に目を丸くした。信じられないということが表情だけで伝わる。
「ごめんなさい、びっくりさせて。僕ここに来るまでのこと何も覚えていなくて」
「いや、大丈夫だ。ええっと……とりあえず医者を呼んでくるから、ここで待っていてくれ。」
動揺を隠せないといった様子の彼はふらふらとした足取りで部屋を後にした。
…彼、大丈夫だろうか?だいぶショックを受けていたようだけど。心配だ。
いや、今は自分の心配をしなくては。本当に、僕はどうしてここで寝ていたんだろう?
「あら、ようやく目覚めたのね」
頭上から声が聞こえた。顔を上げるとそこには黒いレースをあしらった葡萄色の派手なドレスを身に纏った少女がいた。
いつの間にか部屋に入っていたみたいだ。物思いに耽っていて気がつけなかった。
「もう二度と起きないのかと思っていたわ」
「あの、貴方は一体…?」
「あら、もう全て忘れてしまったのかしら?」
彼女は可笑しそうにくつくつ笑う。
「え…?どういうことですか?」
「ふふっ、まあそんなことどうでもいいわ。」
彼女は僕の質問に答えてはくれないみたいだ。というか、僕の質問自体聞いていないようだ。
……にしても彼女の派手な服装、妙に大人びた顔つき。
いちごの見せてくれたゲームの悪役令嬢にとても似ている。いや、似ているというより…
「ソラ。次こそは邪魔させないから。」