葡萄色の野心
日曜日の朝、僕はお父様の部屋に呼び出されていた。
「ソラ、学校はどうだ?」
「リーマ先生に色々教えていただいているので、だいぶ慣れてきました」
「そうか、それは良かった。来月にはテストがあるだろう。まあ今回は成績は気にしなくていいから。なにか困ったことがあれば言ってくれ」
「ありがとうございます、お父様。期待に応えられるよう、精一杯頑張ります」
「応援しているよ」
「ありがとうございます。では、失礼致します」
そう言って僕はお父様の部屋を出た。
「あら、ソラ。何をしていたの?」
部屋の前にレザン様が立っていた。何故ここに…?
「お父様から呼び出しを受けまして、学校生活について話しておりました」
僕は笑顔を貼り付けながら答えた。レザン様からなるべく話しかけられないようにしてたのに、これは予想外だ。
「そう。最近は大人しくしていると思っていたけれど、違ったようね?」
王の呼び出しを断れるわけないこと、分かっていないのかな?レザン様は僕とお父様が関わるのが心底嫌いみたいだ。
「ご不快な思いをさせてしまったでしょうか?申し訳ございません」
「はあ…そういえばソラ、次のテストは1位を取るわよね?」
「え?」
「記憶喪失の上に成績も落とすなんて、王族の恥となることはこれ以上しないでね」
レザン様はそう言い残して去っていった。
…ソラは毎日これに耐えていたのだろうか?辛かっただっただろう。母も居らず、父にも相談できないなんて。
…ちょっと寄り道しよう。
僕はソラのお母様、セレステ様の絵の前まで来た。この前、お父様と一緒に見たときと同じように、胸が締め付けられる。
ソラのためにも僕が学年一位を取ってあげたい。こんな、遣る瀬無い思いをしてるなんて可哀想だ。
セレステ様、僕がソラの分も頑張りますね。
今日は涙を流すことなく、セレステ様に笑顔を向けられた。
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「あー訳わかんない」
僕は社会学の勉強でつまづいていた。
「名称不明の人物が多すぎる」
この世界では、魔法により歴史が改変されたことがあったようで、100年以上前の人物は9割くらいが「名称不明」とされている。名称不明の人が多すぎるせいで、誰がだれだか分からなくなる。
「仮でも名前付けてくれればよかったのに…名称不明Aとかさあ」
窓の外は日が傾きかけていた。何時間勉強してただろう?
もっと勉強しないと…ソラの分まで頑張ろう。
「そういえば、図書室に行かなきゃいけなかった」
この王宮には図書室がある。僕は直ぐに図書室へ向かった。
「あ、あった。これだ、貴族名鑑」
そう、僕は前から貴族名鑑を読みたいと思っていたのだ。
これから色々な人との交流があるだろうし、貴族の名前は覚えておいた方が良いと先生から教えてもらっていた。
「え、国内の貴族だけで700家…」
英単語帳と変わらないくらいの量だ。これ、みんな覚えてるのだろうか…?
すでに頭がパンクしそう…
「あらソラ。また会ったわね」
え、嘘…?
「こんにちは、レザン様。」
また、レザン様に会ってしまった。
「まあ、貴族名鑑…これ、もちろん全て覚えているのよね?」
まずいことになってきたな…
「現在勉強中でして、まだ覚えられておりません。…申し訳ございません」
完全に油断してた。もう少し考えて行動するべきだった。
「これで学年一位?笑わせないで」
ここまで直接的に悪口を言われる経験がないので、こういうときはどうしたらいいのか分からない。
「すみません、精進してまいります。」
そもそも、レザン様はどうして僕のことが気に入らないのだろう…?
「こんなの誰でも覚えているのに」
…予想だけど、ソラが優秀なのも不快なポイントなのかもな。あと、この前はセレステ様について言及していたし、なにかしら思うところがあるのかもしれない。
「まあいいわ。私は忙しいから、もう行くわね。せいぜい頑張りなさい」
僕の視点からはレザン様の悪い所が目立っているが、レザン様の視点から見るとなにか僕にも非があるのかもしれない。
だからといって、暴言は許されないけど。
僕はこの世界の人じゃないからある程度割り切れているが、ソラはとても辛かっただろう。
部屋に戻ろうとしたそのとき、机に置いてあった1つの本に目を奪われた。
これは、花言葉図鑑…?
夜遅くの投稿になり、申し訳ないです…明日の投稿も遅くなってしまうと思います߹~߹
ですが、よければ明日も読んで頂けると嬉しいです…!