私を想って
僕の言葉を聞いたシアンは少しの間固まっていたが、ふっと笑みをこぼした。
「…ああ、もちろん。」
シアンが僕の膝の上に飛び乗った。
「ボクがまた誰かの物になるなんてね」
え、どういうこと…?シアンの言葉の真意が分からない。
「この子、ソラくんのことを気に入ったみたいですね。」
リーマ先生は軽く微笑んで、僕らを見ていた。
「リーマ先生、僕、この子を使い魔にしようと思います」
「え!?」
…こんなに大きなリーマ先生の声、初めて聞いた。
「…ふふ、ソラくんは思い切りが良いですね。なら、この子に名前を付けてあげてください」
「この子の瞳は水色なので…シアンにします。」
「良い名前ですね。この子にぴったり」
「そうだろう?ボクに相応しい名前だ。」
シアンは僕の腕の中で満足げな顔をしていた。
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翌日、僕はアイビーと屋上で昼ご飯を食べていた。屋上には僕ら以外誰もいない。
桜はほとんど散ってしまっている。学食で買ったサンドウィッチはシンプルだが、とても美味しい。
「なあ、お前、使い魔決まりそう?」
アイビーが心配そうに僕に尋ねてくる。
「うん、もう決まったよ」
「え、マジで!?速すぎだろ」
「この子だ!って子がたまたま居たんだよ」
「そうか…すげえなお前、記憶喪失なのにすぐ使い魔決めれて」
確かに、普通じゃないかもしれない。
「ありがと、褒め言葉として受け取っておくよ。」
僕らは笑い合う。アイビーともだいぶ仲良くなったな。
「アイビーは使い魔決まったの?」
「俺はまだ。はあ、絶対ソラより先に決まると思ってたのに」
「そっか、僕に手伝えることがあれば教えてね?」
「ああ、よろしくな」
この世界での生活も慣れてきている。シアンと一緒に元の世界に帰るため、頑張らないと。
「あ!そういえばさ、ルイス先輩について聞きたいんだけど」
「え、ルイス先輩?」
ルイス先輩はお兄様の護衛をしている騎士で、ゲームの攻略対象だ。僕らが元の世界に帰るには、ゲームの登場人物たちが深く関わってくる可能性が高い。なるべく情報は多い方がいいよね。
王族には普通、護衛がつく。まあ僕には居ない。レザン様が圧力をかけているから付けられないのだとツバキが言っていた。
僕としては、護衛が居ない方が自由に出来るし、気が楽で良いんだけどね。でも、王子が護衛なしで大丈夫なのかは不安になる。
「お前の方が詳しいんじゃね?」
「…ねえアイビー、僕、記憶喪失だよ?」
「ああ、ごめん、そうだった。お前、全然変わらなさすぎて忘れてたわ」
僕とソラはほんとに似ているんだな。
「ルイス先輩は、レグルス様の護衛で、俺らの1個年上だ。王族騎士団所属で、史上最年少で王子の護衛まで上り詰めたらしい。」
「へえ、どんな性格なの?」
「優しい人って感じだな。レグルス様をとても尊敬してて、レグルス様と同じく正義感が強い人だ。学園では基本的にレグルス様と一緒に行動してるな。まあ、俺はあんまり先輩のこと知らないけど」
「先輩は生徒会所属だし、お前と沢山関わってるだろうよ。」
「そっか、でもまだ記憶を失ってから、会ってないや」
「まあ、そのうち会うと思うよ。生徒会の奴らはお前が記憶喪失だって知ってると思うし、安心したら?」
アイビーのさり気ない優しさが身にしみる。
「分かった。ありがと、アイビー」
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放課後、僕はリーマ先生の補習を終えたあと、また校内を歩いていた。今日教えてもらった数学は、僕の高校と同じ内容だったので、すんなり終わった。リーマ先生はなんの教科でも教えられるみたいだ。流石だな…
ちなみに僕が毎日学校を散策しているのは、校内を覚えるためだけではない。攻略対象を見つけたり、お姉様がヒロインを虐めているところを見つけたりできるからだ。攻略対象にはなるべく近づいておきたいし、僕が毎日見回っていたらお姉様はヒロインを虐めにくいだろう。
今日はある人に会うために訓練場に来てみた。学園には騎士を志す生徒が沢山いるので大きな訓練場がある。魔法の訓練場とはまた別で、剣術や弓術専用の訓練場になっている。
訓練場には1人しかいなかった。こんなに広いのに…
奥で短髪の青年が琥珀色の髪を靡かせて剣を振るっていた。
僕はどうやら運が良いみたいだ。