僕と黒猫
猫が喋ってる?
…この世界では動物が喋るのも普通のことなのかもしれない。
「ねえ、今、君が喋ってたよね?」
僕は黒猫の目線に合わせてしゃがみ、声をかけた。黒猫はびっくりしたのか、大きな目をさらに見開いて僕を見つめている。
「お前、ボクの声が聞こえるのか…?」
「うん、聞こえるよ。君は何処から来たの?」
「ボクは…違う世界から来た。」
え…!
「僕と同じじゃん!」
「は?」
「僕も違う世界から来たんだ!日本ってところに居たの」
「…お前も日本から来たのか!?」
この様子だと黒猫も日本から来たんだろう。この世界で初めて同じ境遇の人と出会えて嬉しい。…いや、人じゃなくて猫か。
「お前、なんでそんな驚かないんだ?猫が喋って「異世界から来た」なんて言ってるのに…」
「多分、最近驚く出来事が沢山ありすぎて、耐性がついてきてるんだと思う。あと、僕自身が異世界から来てるっていうのも大きいかな」
…そうだとしても、こんなに落ち着いているのは自分でもおかしいと思う。どんどん感覚が麻痺してきている。
「まあ、それよりさ、君は元の世界に帰りたいって思ってるの?」
「ああ、帰りたいに決まってる。家族もいたしな…」
「良かった。なら、僕と一緒に元の世界に帰らない?」
「え?」
「僕もまだ帰り方はよく分かってないんだけど…一緒に帰ろう、元の世界に!」
沈黙が流れる。黒猫は考えこんでいるようだ。いきなりすぎただろうか…?
「…いいよ、一緒に帰ろう」
「やったあ!ねえ、君の名前はなんていうの?」
「ボクの名前は…ない。だから、お前が決めてくれ」
そんな重要なこと、僕に任せていいのかな?
「じゃあ、君の瞳は僕と同じ水色だから…シアンって名前はどうかな?」
「意外といい名前だな。分かった、今日からボクの名前はシアンだ。よろしく、えっと…」
「僕の名前は佐藤そら。よろしくね、シアン」
「ああ、よろしくな、そら。」
心強い友達に出会ってしまった。
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2日目の授業がようやく終わった。今日は座学ばかりで少し疲れた。まだ授業は慣れないな。
「今回は神話についてお話します」
今日も僕は補習を受けている。リーマ先生はこの世界の常識を1から教えてくれるから本当に助かるな。
「この世界では、人は魔法を使えません。神話によると、大昔の戦争で人の魔法による被害が大きくなりすぎたため、神が人の使う魔法を制御し、人は魔法を使えなくなったのだと言われています。」
あの本で読んだ物語のまんまだ。
「普通、人が魔法を使えることはありませんが、一つだけ、魔法を使えるようになる方法があると言われています。」
ん?それは本に書いてなかったな…
「魔法の時計と契約すると、人でも魔法が使えるようになると言われています。」
ちょっと、理解が追いつかない。この世界で何度も驚いて免疫がついてきたと思っていたが、まだまだだった。
「どうして魔法が使えるようになるんですか?」
取り敢えず、ふと疑問に思ったことを質問してみた。
「契約すると時計の魔力を借りることが出来るので、契約者が魔法を使えるようになるとされています。」
「また、時計の魔法は魔動物の魔法より遥かに魔力が強いです。そのため、魔法の時計と契約すると直ぐに死んでしまいます。実質的には時計に命を捧げているような形ですね」
そこまでして魔法を使いたい人なんて、居ないんじゃないのかな?
「まあ、全て神話です。実際に時計と契約した人や、魔法が使えた人はいません。物語に過ぎないので、安心してください」
うーん…僕はこの世界線なら全然有り得そうな話だと思う。動物が魔法を使える世界なら、人が魔法を使えても何らおかしくない。まあ、使おうと思う人はなかなか居ないだろうけど。
そのとき、視界の端でなにか黒いものが動いた。
「あら、黒猫が入ってきたみたいですね。誰かの使い魔かな。」
あ、あれはシアンだ。
「ボクは使い魔じゃない!」
「でも、初めて見る子ですね。誰の使い魔だろう?」
リーマ先生、シアンの話、聞いてない?
「だーかーら!ボクは使い魔じゃないっ!」
「うーん、分かりませんね…どうしましょうか?」
シアンの声は全く届いていないみたいだ。僕から先生に伝えてあげよう。
「あの、リーマ先生。使い魔じゃないって言ってますよ」
「え?言ってる?誰がですか?」
そんなの、シアン以外居ないでしょ。
「そら、普通の人間はボクの言葉が聞こえないんだよ。」
シアンが呆れたように告げた。
「え、そうなの!?」
「ソラくん…?」
先生は首を傾げている。
「お前が特殊なんだよ。」
そうだったのか…それ、早く教えて欲しかった。
「ソラくん、大丈夫ですか?」
「あ、すみません!…えっと、この子は使い魔じゃないと思います!僕、この子が昨日ひとりで学校に居たのを見たんです」
「ああ、そうだったのですか。確かに、野良猫のようにも見えますね」
先生は僕の奇行を受け流してくれた。それにしても、なんで僕だけシアンの声が聞こえるんだろう?
というか、野良猫が学園内に居るのは別に良いのかな?僕の高校だったら有り得ない光景だけど…
「ちょうど良いので、魔動物について少し説明しましょう」
「魔動物は瞳の色で使える魔法の種類が変わります。この子なら、水魔法が使えますね。」
「え、この子、魔法使えるんですか?」
「ええ、使えると思いますよ。基本的に黒い動物は魔法が使えますから」
「え、ボク魔法使えるのか」
シアンも今知ったようだ。魔法が使えるかどうかって、本人も分からないものなんだな。
「じゃあ、僕はこの子を使い魔に出来ますか?」
「ええ、もちろん出来ますよ」
「そうですか…!」
僕は席を立ち、シアンの耳元で囁いた。
「ねえシアン、僕の使い魔になってくれない?」
本日の投稿、少し遅くなってしまいました。申し訳ないです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます·͜·♡