淡い空
…そんなこと起こるわけないって?僕もそう思う。僕が攻略されることはまずない。
そもそも、僕の恋よりいちごのことの方が大切だ。
でも、この世界では何があるか分からない。もしかしたら、ゲームの強制力のようなものが働くかもしれない。
僕が好きになることはなくても、無理やり好きにさせられる可能性があるということだ。
恋に落ちないよう、対策をしなければいけないな。
でも、どうやって?
…なんだか、どんどん本題からずれていっているような気がする。
「結局なにも分からないままだ」
廊下の窓から見える桜が美しいということしか、僕には分からなかった。
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4月12日、今日からようやく授業が始まる。
「今日は使い魔についての説明をします」
「そもそも使い魔とはなにか分かりますか?アイビーくん」
リーマ先生がアイビーに問いかける。
「パートナーの魔動物のことですよね。」
「そうです。使い魔は2年生になると持つことを許可されます。皆様には使い魔を春が終わるまでに決めてもらいます。」
春が終わるまでか…期間は短いな。ちなみに、僕の使い魔はまだ決まっていないらしい。
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「ということで今日から補習をします。よろしくね、ソラくん」
「よろしくお願いします。あの、リーマ先生、質問があるのですが…」
「はい、なんでしょう?」
「使い魔って、持たないという選択肢はないんですか?」
僕が元の世界に戻ったとき、使い魔がどうなるのか分からない。ならば、最初から使い魔を持たない方が良いんじゃないかな。
「今まで聞いたことないですね。使い魔を持つのは強制だと思います。平民の生徒ならまだしも、ソラくんは王族ですし…」
「そうですか…もし、使い魔を従えている人が居なくなったら、使い魔はどうなるんですか?」
「使い魔を従えている人が亡くなった場合、使い魔は野生の魔動物に戻ります。使い魔になる前に戻るという感じですかね」
「なるほど…」
それなら、僕が使い魔を持っても大丈夫そうだ。
「すみません、急に変なことを聞いて」
「いえ、大丈夫ですよ。では今日は使い魔について、詳しく説明しましょう。」
「はい、お願いします」
「使い魔とは、言うなれば君の相棒です。使い魔は普通の動物ではなく、魔動物でなければなりません。」
ここまでは、いちごから聞いたことがある。
「例えば、わたくしは鳥、レグルスくんは犬、リーラさんは狐を使い魔にしています。」
魔動物といっても、普通の動物と種類は変わらないみたいだ。
「へえ…魔動物によって使える魔法は変わるんですか?」
「ええ、もちろんです。魔法の種類も魔力の強さも異なります。使い魔との相性が悪いと魔法が上手く出せなくなるので、使い魔選びはとても大切なのです」
「僕はその使い魔選びを今春中にしなければならない、ということですね?」
「はい、その通りです。といっても、まだ使い魔が決まっている人の方が少ないですし、焦らなくても大丈夫ですよ。最悪、学園が魔動物を用意しますから。」
うーん、用意された魔動物より、自分で決めた方がいいよね…
「分かりました。でも、頑張って使い魔を見つけようと思います」
「いいですね、わたくしに手伝えることがあれば言ってください」
「ありがとうございます、リーマ先生」
リーマ先生は自分のことをあまり話さないが、親身に寄り添ってくれる優しい人だ。だから、生徒にも人気があるんだろうな。
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今日はたくさんのことを教えてもらった。おかげで頭がパンクしそうだ。
僕は今日も校内を散策している。コルチカム学園は屋上の出入りが自由らしいし、今日は屋上に行ってみよう。
僕の高校は屋上立ち入り禁止だったので、ちょっと楽しみだ。
「わあ…!」
屋上の扉を開けると、目の前に淡い夕焼け空が広がる。桜の花びらが空を舞っていて、あまりの美しさに僕は息を呑んだ。
「すごく綺麗…」
「そうだね」
ん…?今、誰かの声が聞こえた?
屋上には誰もいないようだ…空耳だったかな?
「この夕焼け、懐かしいな。あの頃を思い出すよ」
もしかして、僕の足元に居る黒猫が喋ってる…?