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帰り道の後悔

 小桃ちゃんと別れて一人帰路に就く。

 大通りから逸れているので周りに人の姿は少なく、アパートや家屋から漏れる光のおかげで明るい道を一人で歩く。


 今日は楽しい一日だった。やはり俺にとって小桃ちゃんは癒しだ。小桃ちゃんは俺と居るだけで楽しそうにしてくれるし、あの大人しくてお淑やかなところは彼女からしか摂取出来ない栄養素だ。しかもあの食いっぷり。見ていて気持ちがよかった。


「はあ……楽しかったなあ」


 周りに誰も居ないので独り言を呟きながら、俺は喉が乾いたのでスクールバッグの中に手を突っ込んでペットボトルを取り出そうとする。するとペットボトルではなく、袋のようなものが手に当たった。


「ん、なんだこれ」


 なにも買った記憶はない。一体なんだろうと思いながら袋のようなものを取り出してみると、可愛くラッピングされた小袋だった。その小袋の中には、白と黒のクッキーが五つ入っている。


「あ、蜜柑から貰ったクッキーか」


 これはたしか蜜柑を家の近くまで送った時の別れ際に、彼女からプレゼントされたクッキーだ。しかも料理をしない蜜柑の手作り。そう思うと、どういう味をしているのか気になってしまった。

 さっきまでドーナツを食べていたが、甘いもので胃を満たす日があってもいいだろう。そう思うことにして、俺は小袋を開けてみた。試しに小袋の中の匂いを嗅いでみると、クッキー特有の甘い香りが鼻をくすぐった。


「ちゃんとクッキーじゃねえか」


 初めてクッキーを作ったと言うのでもしかしたら焦げた匂いでもするのかと思ったが、俺は少し蜜柑を甘く見ていたようだ。

 食べられるものだと分かると、俺は小袋の中から白色のクッキーを取り出す。


「いただきます」


 ここには居ない蜜柑に向かって言ってから、俺はクッキーを丸ごと口に入れてみた。サクサクとした食感が楽しく、バターの香りが口いっぱいに広がる。


「なんだ、ちゃんとクッキーじゃねえか」


 きちんと食べれるものを作った蜜柑に感心しながら、俺は次に黒色のクッキーを取り出して口に入れる。今度はチョコの風味が口の中に広がった。

 どうやら白と黒のクッキーは、プレーン味とチョコレート味だったらしい。


「うん、どっちも美味い」


 これは明日学校で蜜柑に会ったら、「美味しかったよ」と言うべきだな。きっと美味しかったと言ったら、蜜柑も喜ぶことだろう。喜んでいる蜜柑の笑顔を思い浮かべると、心にズキリとした痛みが走った。


 きっと蜜柑は俺の喜ぶ顔を想像しながら、このクッキーを作ったに違いない。料理も出来ない蜜柑がこんなに美味しいクッキーを作れるようになるまでには、何度も何度も失敗したことだろう。それでも諦めずに、このクッキーを完成させた。いつも俺にお世話になっていると、それだけの理由で。


「俺、なにやってるんだろうな」


 なのに俺はなにをやっているのだろうか。蜜柑からクッキーを貰ったことなんか忘れて、小桃ちゃんと二人きりでデートを楽しんで。


 もう一枚クッキーを食べる。やっぱり美味しいし、そこらの市販のものよりも数倍は美味しい。どうしてこんなに美味しいのだろうかと思ったが、答えはすぐに出た。それは俺が蜜柑のことを好きだから。


 いくらワガママな子だとは言え、蜜柑は俺のことを好きになってくれた唯一の人物。ワガママな態度も俺にしか出さないし、それはもしかしたら蜜柑が心を許してくれている証なのではないかと、薄々勘づいていたのに……俺は蜜柑に内緒で小桃ちゃんと二人で会って……。


 きっと俺が小桃ちゃんと二人でデートをしたと知ったら、蜜柑は悲しむことだろう。とってもワガママだが、蜜柑は世界に一人だけしか居ない俺の恋人だ。そんな大切な彼女を悲しませるなんて、やってはいけないこと。


「ごめんな、蜜柑」


 本人の前では言えないから、ここで謝っておく。

 いくら蜜柑がワガママでも、これからは浮気をするような真似はしないようにしよう。

 それにこんなに美味しいクッキーを作ってくれたんだ。今度デートをする時くらいは、蜜柑のワガママを聞いてやるとするか。


 もう浮気はしないし、今度くらいワガママを聞く。俺は心にそう誓って、残り二枚のクッキーを一気に頬張った。


 ──第一章 完──

第一章まで読んで頂きありがとうございました!

第二章からは十八時頃に一日一話ずつアップしていく予定なので、お付き合い頂けましたら幸いです!

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