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解決策は

 林檎さんと小桃ちゃんと一緒に、公園で蜜柑のことを待つ。これからどうするかを三人で決めてから、俺たちの間にはほとんど会話がない。でも気まずは全くなかった。気まずいと思っている余裕さえ、今の俺にはなかった。


「翔太郎」


 本当に蜜柑は来てくれるのだろうかと疑念が湧き上がってきたその時、声を掛けられた。その声に三人が顔を上げると、公園の中に蜜柑が入って来ていた。


「蜜柑」


 俺と少し距離を取って立つ蜜柑。散々泣いていたのか、彼女の目元は痛々しく赤に染まっていた。俺のせいで蜜柑を泣かせてしまったらしい。

 蜜柑の姿を見て小桃ちゃんはベンチから腰を上げたが、林檎さんは座ったままだった。


「それで、どうしてわたしをこんなところに呼び出したの? みんな揃ってわたしをいじめるつもり?」


「そんなことするワケないだろ。蜜柑ときちんと話そうと思ったんだ」


 俺はきちんと、蜜柑の目を見ながら話す。しかし蜜柑はオドオドとしながら、俺と姉妹の顔を交互に見ている。

 今、蜜柑の目には何が映っているのだろうか。俺は浮気をしていた彼氏。その浮気相手の姉妹二人。蜜柑から見たら、本当に敵しか居ないんだろうな。


「話すことなんてあるの?」


 蜜柑は冷徹な瞳を俺へと向ける。その冷たい視線に背筋がゾクリとしながらも、俺はぎこちなく頷くことが出来た。


「ああ、これからのことを話したい。それと、謝罪も込めて」


「謝罪?」


「ああ」


 俺は頷くと、その場で腰を折り曲げて頭を下げる。


「蜜柑が悲しむってことも分からずに、林檎さんと小桃ちゃんと遊んでてごめん。今は本当に反省してるし、蜜柑にも悪かったって思ってる」


 そのまま顔を上げると、蜜柑の表情からはまだ怒りが見えた。そんな蜜柑はまだ口を開こうとしない。ただ黙ったまま、俺に冷ややかな視線を送ってくる。


「でも、蜜柑を悲しませようと思って林檎さんたちと遊んでたんじゃないんだ」


「理由があるって言うの?」


「そうだ。付き合った当初から、俺は蜜柑のワガママに気が滅入ってたんだよ。お金はむしり取るし、ワガママだし。そんな蜜柑と付き合って、精神面で結構やばかった時期があったんだ。そこで俺を慰めてくれていたのが、林檎さんと小桃ちゃんだ。それで林檎さんたちと仲良くなって、個人的に会ったりもしてた」


 きちんと浮気していた理由を話さなければならないと思った。

 それを聞いた蜜柑は、一瞬だけ動揺したように瞳を大きくさせた。しかしすぐに、蜜柑は顔から感情を消す。


「わたしのせいで浮気したってこと?」


「そういうことでもないが……それも関係してるというか……」


 そういう言い方はズルいだろ。全て蜜柑のせいではないが、彼女のせいでメンタルが参っていたのも事実。でも蜜柑のせいにするのは、なんか違う気がする。

 俺はどうしようかと頭を悩ませていると、蜜柑はムッと唇を尖らせた。


「だって甘え方が分からなかったんだもん」


 その蜜柑のセリフに、俺だけでなく林檎さんと小桃ちゃんも眉をひそめた。


「甘え方が分からなかった?」


「うん、甘え方が分からなかった。だって今まで恋人なんて出来たことなかったから」


「だからってあんなに俺に色んな物を買わせたのか?」


「彼氏持ちの友達はみんな色々なものを買って貰ってたから、それが普通なのかと思ってた。だけど友達に注意されてそれが普通じゃないって分かったの。あの時は本当にごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げる蜜柑。それを見て、俺と林檎さんと小桃ちゃんは困惑気味な目配せをした。

 甘え方が分からなくて、あんなワガママを言っていたのか。ということは、別に悪気があったワケではないということだ。なんだかそう思うと、俺の方が悪くないか……?


「えっと、そうだったんだな。気付いてあげられなくて本当にごめん」


「あれはわたしの方が悪かったから、全然大丈夫。でもそっか。わたしのワガママのせいで浮気してたんだね」


 蜜柑は下を向いて、目に見えて申し訳なさそうな顔をする。恐らくは自分に非があると思っているのだろう。

 俺も自分に非があると思っているし、蜜柑も自分に非があると思っている。だからお互いに頭を下げた。互いに自分が悪いと思っている。これからの話をするなら、今が絶好のチャンスなのではないだろうか。


「なあ、それでこれからの話をしたい」


 俺がそう口にすると、蜜柑は目をつむって唇を噛んだ。そのまま両手をぎゅっと握ると、蜜柑はこくりと頷いた。


「俺は蜜柑のことも好きだし、林檎さんのことも小桃ちゃんのことも好きだ。俺はこの場に居る全員が好きなんだよ。だからこれからは、蜜柑と林檎さんと小桃ちゃんと恋人でいたい。そうすれば浮気じゃないだろ」


 俺と林檎さんと小桃ちゃんが三人で出した解決策を聞いた蜜柑は、思わずといった具合で目を開いて何度も瞬きを繰り返した。ようやく俺の言葉の意味を理解したのか、蜜柑は素っ頓狂な声を上げる。


「はぁ?」

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