怒りの矛先
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気分は最悪。
あんなに仲がいいと思っていた翔太郎が浮気をしていた。しかも林檎お姉ちゃんと小桃と。
「はぁ……」
自分の部屋のベッドにて。自分の布団にくるまりながら、蜜柑は大きくため息を吐いた。
学校を早退して家に帰って来てから、ずっと泣いていたので目元がヒリヒリする。
裏切られた。そんな気持ちよりも、自分の知らないところで翔太郎と林檎お姉ちゃんたちが遊んでいたのがショックでならない。しかも付き合った当初から仲がいいなんて。
「翔太郎、わたしのこと好きじゃないのかな……」
どうして付き合った当初から、翔太郎は林檎お姉ちゃんたちと浮気をしてたんだろう。どうしてわたしを差し置いて、お姉ちゃんたちと仲良くしていたのか。もしかしてわたしのことじゃなくて、初めから林檎お姉ちゃんと小桃のことが好きで……?
「んー、分からないよぉ」
翔太郎が浮気をしていた理由も分からないし、もうなにもかもが分からない。今日の昼間から、頭がこんがらがって仕方がない。
でも翔太郎に浮気をされていたのは事実。それに林檎お姉ちゃんと小桃に騙されていたのも事実。わたしが怒るべき相手は、一体誰なのだろうか。
翔太郎にも、林檎お姉ちゃんにも、小桃にも問い詰めたい気分。でもわたしには味方が誰も居ない。もしかしてわたし、このまま一生一人ぼっちなんじゃ……? そう思うと、また鼻の奥がツンとした。
「ほんと翔太郎……最低」
本当に本当に浮気なんて最低だ。ずっとわたしのことを騙してきたなんて。わたしたち、お似合いのカップルだと思っていたのに。
でも頭でなにを考えても、翔太郎のことは嫌いになれない。翔太郎との今までの思い出は嘘にしたくない。翔太郎とこれからも、思い出を作って行きたい。そう思ってしまう自分の気持ちに気付いているから、また泣きたくなる。
「翔太郎……なにしてるかな……」
きっと今の時間だと、学校が終わって家に帰ったところだろうか。でもこれだけ時間が経っても、わたしには連絡ひとつしてくれない。近くに置いてあるスマホは、うんともすんとも言わなかった。
今日は感情的になって早退して来ちゃったけど、今はきちんと翔太郎と話したい気分だった。きちんと話し合って、どうして浮気していたのかを知りたい。そしてあわよくば、翔太郎を許して──そこまで考えたところで、スマホから着信音が聞こえて来た。電話が来た時の音楽だ。
蜜柑は慌てて布団から出ると、近くに置いてあったスマホを手に取った。その画面に表示されていたのは、『翔太郎』の名前。ようやく電話をしてくれたんだという気持ちと共に、どうして今更という気持ちもある。電話に出るか出ないか。そう悩んだ挙句。
「はい」
スマホを耳に当てていた。
心臓がドキドキと音を立てる。それは緊張からか気まずさからか。自分でも分からない。
『あ、蜜柑。少しだけ話せるか?』
「……うん」
翔太郎の声に、どこかほっとする。翔太郎の声を聞くだけで、落ち着くようになってしまった。
『林檎さんと小桃ちゃんのことは、ホントごめん。蜜柑をそんな気持ちにさせたいワケじゃなかった』
「うん」
『そのことで今から蜜柑と面と向かって話したい。今、林檎さんと小桃ちゃんと一緒に居るんだ。三人で考えてみて、蜜柑と話さなくちゃいけないと思った』
林檎お姉ちゃんと小桃と一緒に……? わたしに連絡を一切しない間、林檎お姉ちゃんと小桃と会っていたのか。酷い。そう思うのに、口が勝手に動く。
「うん」
『蜜柑の家の近くにある小さな公園。そこで俺たちは待ってる。もし蜜柑がよかったら、ここに来て欲しい。自分勝手なのはすごく分かってる。でも、蜜柑ときちんと話したい。俺たちのこれからのことを』
これからのことを。そう言われて、胸がズキリと痛んだ。もしかして翔太郎は、わたしを捨てて姉か妹の方に行く気だろうか。そうしたらわたし、どんな気持ちで林檎お姉ちゃんと小桃とこれから接して行けばいいのだろう。これから二人と、姉妹を続けていく自信がない。でも、行ってみなければ分からないのも事実。
「うん。分かった」
蜜柑はそう言ってから、返事も待たずに電話を切った。これ以上翔太郎の声を聞くと辛くなる。
でも、きちんと顔を合わせて話さなければならない。今後のことが掛かってるんだ。
蜜柑は自分にそう言い聞かせて、外に出るための準備を始めた。
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