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浮気は大罪

 蜜柑の手に持たれているプリクラを見て、俺の背筋は一瞬にして氷ついた。

 マズイ。非常にマズイ。一番見られてはならないものを、蜜柑に見られてしまった。

 そう言えばプリクラを撮ったあと、無意識で財布の中にしまったような気がする。それからプリクラの写真の存在を忘れてしまい、家に置いてくるのを忘れていた。


「そ、それは……」


 何かいい案よ降りてこい。なにか。なにか言い訳を考えるんだ。蜜柑が居る前で林檎さんと小桃ちゃんと会ったのは遊園地の時のみ。そうだ。遊園地の時に撮ったことにすれば、軽傷で済むかもしれない。


「遊園地の時だよ。遊園地の時に蜜柑を待っている間に撮ったんだ」


「なんで嘘つくの?」


「嘘じゃない。本当だ」


「だって遊園地の時の翔太郎の服と全然違うんだけど」


 蜜柑は怒りと悲しみを混ぜた表情で、語気を強める。

 そ、そっか。遊園地の時と林檎さんとデートに行った服装は違う。それに気がつくとは、さすがは俺の彼女──って今は感心している場合じゃない。この状況からの打開案を早急に考えなくては。何かいい案はないか……なにかいい案はないか……。


「しかもこの日付け、先週の日曜日だよね。翔太郎が家族と出掛けるって言ってた日」


 終わった。終わった終わった。

 プリクラの写真に日付けが刻まれていたらしい。日付けがバレたらもう、言い訳なんて出てこない。

 蜜柑の表情から笑顔が消える。こちらを見る目が、今までにない以上に冷たいものになる。


「そう言えばあの日、林檎お姉ちゃんと小桃は遅くに帰って来たけど、もしかして……」


 段々と怒りで語気が強まって行ったのだが、最後の方は掠れていた。きっと蜜柑の中では、怒りと悲しみがごちゃ混ぜになっているんだ。

 ここからでも、どうにか言い訳をすることは出来るのだろうか。日付けもバレて、林檎さんと小桃ちゃんが家に不在だったことも蜜柑は知っている。こんな状態で言い訳が出来るのか……今考えられる分には、無理だろう。


「ご、ごめん……林檎さんと遊びに行ったわ……」


 もう正直に言うしかなかった。これ以上なにか喋れば、どんどんと墓穴を掘っていくような気がしたから。それを聞いた蜜柑の表情が、みるみる内に赤く染まった。


「はあ!? なに考えてるの!? 彼女の姉妹と遊びに行くなんて!」


 蜜柑の怒りに滲んだ大声に、廊下を歩いていた生徒がチラチラとこちらを振り向く。人々の視線を集めるが、蜜柑は気がついていないようだ。


「で、でも小桃ちゃんとは偶然会っただけだ」


「じゃあ林檎お姉ちゃんと二人で遊びに行ったってこと!? それじゃデートじゃん!」


 ごもっともだ。でもここで反抗しなければならないと思った。


「で、デートではない。ただ二人で遊びに行っただけで……」


「それをデートって言うの! なんで二人で会ってるの? しかもわたしには内緒で」


「そ、それは……買い物があってだな……」


「家族と買い物に行くって翔太郎言ってたじゃん! じゃあなに? 林檎お姉ちゃんは翔太郎の家族なの?」


「はい。そうかもしれないです」


「違うでしょ!?」


 どんどんと蜜柑の声が大きくなっていく。それにつれて、周りにもギャラリーが増えてくる。しかし蜜柑はそんなことなど気にしている間もないくらい、頭に血が昇っているようだ。


「ねえ、これ浮気だよね」


 蜜柑から出た『浮気』のワード。だが俺は反射的に、首を横に振っていた。


「ち、違う。これは浮気じゃない」


 ちゃんと俺は蜜柑のことが好きだ。でも林檎さんと小桃ちゃんも好き。でも姉妹二人とは付き合っているワケじゃない。ただ、仲がいいだけだ。


「いつから浮気してるの?」


「い、いつからって……だからこれは浮気じゃ……」


「これは浮気! いつから林檎お姉ちゃんと小桃とこんなことしてるのかって聞いてるの! ちゃんと答えて!」


 拳をぎゅっと握って、蜜柑が悲鳴にも似た声をあげた。その目元は涙で滲んでいて、泣かせてしまったのだと気がつく。

 蜜柑を悲しませた。あんなに俺のことを好きだと言ってくれた蜜柑を泣かせてしまった。その事実に喉の奥がきゅっとなり、足に力が入らなくなる。でもここで俺が膝から崩れ落ちるのはおかしいからと、気力だけで踏ん張る。


「付き合った当初から……」


「え……?」


「付き合った当初から、林檎さんと小桃ちゃんと仲よかったです……」


 あえて『遊んでいた』とは口にせず、仲がよかったという表現をする。今出来る最大の、悪あがきだった。しかし俺の言葉を聞いた蜜柑の表情が、徐々に歪んでいく。その大きな瞳から一筋の涙が滑り落ちると、蜜柑はこちらに背を向けた。


「ほんと、ありえない」


 かすれた声でそれだけを言うと、蜜柑はどこかへと走って行ってしまった。その姿が見えなくなるまで、俺は呆然としているしかなかった。


「これからどうすりゃいいんだ……」


 林檎さんと小桃ちゃんと遊んでいるのがバレて、蜜柑を泣かせてしまった。それに相当怒っていたはずだ。

 謝って済む問題だろうか。きっとただ謝るだけでは済まない。浮気って、大罪だろうから。


 これからどうすればいい。頭が真っ白の中でそう考えると、俺は無意識で林檎さんと小桃ちゃんに連絡をしていた。

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