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大失態

 昼休みになり、いつも通り蜜柑と昼食を食べた。昼食を食べ終えても、あと二十分ほど昼休みの時間は残っていた。

 なんか暇だなと意見が合ったので、俺と蜜柑は教室を出て校舎の中を散歩することにした。


「それでね。もうすぐで受験なワケじゃん? だからそろそろ志望校を決めたいなって思って」


「なんだ、まだ決めてなかったのか」


「え、その言い方だと翔太郎は志望校決めてるの?」


「いや、俺もまだだ」


「なんだぁ、ビックリした」


 ポツリポツリと人が居る廊下を、蜜柑と雑談をしながら並んで歩く。

 高校三年の夏ともなると、そこら中で進路の話が話題に上がる。それは俺と蜜柑の間でも同じだった。


「蜜柑は大学に進学するんだよな?」


「そうだね。進学一択かな。翔太郎も大学でしょ?」


「うーん。なんか専門学校もいいなって思って来た」


「えっ、専門? なにかやりたいことあるの?」


「いや、特にないけど」


「じゃあ大学でいいじゃん。わたしもやりたいことないから、なんとなく大学にしようかなって思ってるし」


「大学なあ……四年間も勉強するのか」


 俺が大学進学を尻込みしている理由は、四年間も勉強しなくてはいけないということだった。正直勉強は好きじゃないから、高校よりも長い授業を受けられる自信がない。そんな苦痛な時間を四年も過ごさなくてはいけないのかと思うと、気が滅入りそうになる。


「いっそのこと就職したいんだけどなあ」


 特にやりたいことはないが、勉強はしたくない。だから高校を卒業したらすぐにでも働きたいのだが、なんせウチの高校は普通科。高卒で働けるスキルなんて、俺はなにも持ち合わせていない。だからウチの高校三年生の進路は、自然と大学か専門学校への進学に偏る。


「何も決まってないならさ、一緒の大学に行こうよ」


 蜜柑は俺の顔を見上げながら、そんな提案を投げかけて来る。


「一緒の大学か」


 蜜柑と一緒の大学か。それは考えてもいなかったな。恋人と同じ大学に行くというのは、果たして進学理由として正しいのだろうか。たったそれだけの理由で、親に莫大な学費を払わせるのも悪い気がする。


「うーん、蜜柑は国立と私立だったらどっちに行くんだ?」


「普通に私大かな。わたし、国立の大学に受かるほど頭よくないし」


「だよなぁ」


「だよなって失礼じゃない? もっと否定してくれてもいいのに!」


 蜜柑がふざけた調子で俺の肩を叩いてくる。

 でもこれは俺にとっては問題だ。正直に言うと、俺は国立と私立の両方が視野に入れられるくらいの学力はある。だから親が負担することになる金銭面のことを考えると、学費が高い私立よりは国立を選びたいと思っている。でもまあ、それは大学に行くならの話だが。


「俺は私立には行かないかもなあ。もちろん国立に落ちたら私立に行くかもしれないけど」


「えー、じゃあ一緒の大学には行けないのかー。翔太郎頭いいもんなぁ」


 がっくりと肩を落として、蜜柑は目に見えて残念そうにしている。

 そうか。蜜柑は俺と一緒の大学に行きたかったのか。それはなんとも可愛らしい考え方だ。蜜柑らしいと言えば、蜜柑らしいのかもしれない。


「だったら蜜柑がもう少し学力上げてくれ。お前も学力悪い方じゃないんだから」


「えー、でも毎日勉強してこれだよ? これ以上なにを勉強したらいいの」


「理数系の科目だな。蜜柑は理数系の科目が足を引っ張ってるから、数学と化学を勉強しろ。高校の化学は物理より簡単だ」


「だって理数系を勉強したって、私立の受験では使えないんだもん。勉強したって意味ない」


「そう言ってる時点で国立は難しいな」


 国立を受験するには、全科目で満遍なく点数を取らないといけないからな。私立は三教科や二教科だけでも受けられるところがあるから、自分の不得意科目を捨てる選択肢を取れる。それが私立大学を受験するメリットでもある。


「ぶー、頭がいい翔太郎にはわたしの苦労なんて分からないよ」


「別に頭はよくないけどな」


「五教科で偏差値五十越えてる人は、わたしから見たら全員頭いいですー」


「ちなみに昨日返された模試は、五教科で偏差値五十五だったぞ」


「うわ! 自慢だ! 聞きたくない!」


 蜜柑は自分の耳を塞ぎながら、俺から一歩距離を取った。偏差値五十五って、俺の感覚では普通なんだけどな。友達の健なんて、偏差値六十はあったようだし。


「蜜柑はどうだったんだよ」


「三教科で四十五です……」


「ありゃりゃ」


「ありゃりゃって言わないで! これでも毎日二時間は家で勉強してるんだから!」


 蜜柑は家で二時間も勉強してるのか。俺は家で勉強なんてしないんだけどな……と言うと火に油を注ぐことになりそうなので、口にはしないでおく。

 でもそろそろ本気で進路を決めなくては。そう思いながら廊下を歩いていると、目の前に自販機が現れた。


「あ、喉乾いたな。なんか飲もうぜ」


 俺はそう言って、自販機の前に立つ。すると隣に居た蜜柑も、その場で足を止めた。


「え! 奢ってくれるの?」


「ああ、奢ってやる」


 そう会話をしながら、俺は手早く麦茶を購入した。麦茶が飲みたい気分だったのだ。

 自分の飲み物を買えたので、俺は「ほれ」と言って蜜柑に財布を渡す。蜜柑は俺から財布を受け取ると、中から小銭を取り出そうとする。が、蜜柑の眉間に皺が寄った。


「え、なにこれ」


 蜜柑はそう言うと、俺の財布からあるものを取り出してみせた。


「あ、」


 彼女の手に持たれていたのは、林檎さんと小桃ちゃんと撮ったプリクラの写真だった。

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