青、黒、ベージュ
やかましい日差しの中を歩いて、ようやくショッピングモールに辿り着いた。日曜日だからかショッピングモールの中は人で溢れ返っていて、人を気にしながら歩かなければいけなさそうだ。
「水着買いに来たんですよね?」
そう問いかけると、隣を歩いていた林檎さんは笑顔で頷いた。
「そうだね。とりあえず水着買っちゃいたいかな。早めに用事済ませて落ち着きたいし」
「そうですか。水着売り場ってどこにあるんです?」
「たしか二階だったかな? 二階に水着売ってるお店があったような気がする」
「それなら二階に移動しますか」
「うん。そうだね。翔太郎くんには悪いけど、水着選ぶの付き合ってくれる?」
「もちろんです。そのために来たんですから」
林檎さんの水着姿が見れる。それを楽しみに、今日は林檎さんの買い物にお供しているのだ。
それを分かってか分からないでか、林檎さんは「頼りにしてる」と上品に笑った。
エスカレーターを使用して、二階の水着売り場までやって来た。
水着を売っている場所なんだから、男性ものも女性ものもあるだろう。そう舐めていた。
「待ってください林檎さん。男ものの水着はどこにあるんですか?」
「ん? ここは女性ものの水着しか売ってないよ?」
そう。店内には右を見ても左を見ても、女性ものの水着しか置いていなかった。しかも店内には男性の姿はなく、十代から二十代くらいの女性しかいない。
これは気まずい。とても気まずい。男の俺なんかが、こんな場所に居てもいいものか。
「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。ここのお店は男子禁制ってワケじゃないから、堂々としてて」
にへらと笑うと、林檎さんは水着選びを始めてしまった。一人取り残された俺は、周りの水着を見ているワケにも行かず、一人で棒立ちしているしかなかった。
暇だ。気まずい。二つの感情が合わさって、今日は家で大人しくしてるんだったと後悔する。
「翔太郎くんはビキニとワンピだったらどっちが好き?」
一人で気まずい思いをしていると、林檎さんに話し掛けられた。
「ビキニとワンピですか?」
「そうそう」
ビキニとワンピとは、水着のことを言っているのだろう。でもビキニは分かるが、ワンピとはなんだ? どんな水着なのか全く想像できず、俺は強制的に前者を選ぶしかなかった。
「それならビキニですね」
「ほうほう、意外と素直ですねぇ」
林檎さんはからかう口調で言うと、ケタケタと肩を揺らした。
うん? もしかして俺、二択を間違えたか? でもビキニしか知らないのも事実だし、堂々としていよう。
それから林檎さんはビキニのコーナーに行き、十分ほど悩んでいた。
「よし! 候補は決まった! 今から試着してみるから、翔太郎くんが好きな水着教えてね」
来ました! 試着タイム!
俺はこの試着タイムのために、気まずいのを我慢していたのだ。俺は「はい!」と元気よく返事をして、林檎さんのあとを着いて行く。
試着室には幸いにも、他の客の姿はなかった。
「じゃ、候補は三つあるから、その中から選んでね」
「うっす。了解です」
俺が頷いたのをきっかけに、林檎さんは試着室の中に入ってカーテンを閉めた。
ガサゴソ。ガサゴソ。林檎さんが服を着替えている音が聞こえてくる。今まさに、このカーテンの裏では林檎さんがすっぽんぽんになっているのか……っていかんいかん。危うく恋人のお姉さんの裸を想像するところだった。
「出来たよ〜」
カーテンの向こうから、林檎さんの声が聞こえてきた直後。しゃっと音を立ててカーテンが開いた。
「おぉ……」
目の前に現れた水着姿の林檎さんを見て、思わず声が漏れてしまった。
手足はスラッと長く、室内の電灯を反射するくらい白い。服の上からでも分かるくらいの大きなおっぱいは、小ぶりのスイカくらいありそうな気がする。クビレと太ももはきゅっと引き締まっていて、何かしらのトレーニングをしているのは明らかだ。そんなモデル顔負けのスタイルをした林檎さんは、上下水色のビキニを着用していた。
「どうかな? 変だったりしない?」
照れているのか、林檎さんはやや頬を赤く染めながら首を傾げた。
「そんな、めちゃくちゃ可愛いと思います! すごく似合ってますよ!」
俺は思ったことを正直に口にすると、林檎さんは安心したように息を吐いた。
「よかった。ビキニが似合わないなんて言われたらどうしようかと思っちゃったよ」
「本当に似合ってるので安心してください」
「あはは、それはどーも。次の着てみるね」
「はい! 楽しみにしてます!」
林檎さんは笑顔のまま、カーテンをしめた。そしてまた、カザゴソと着替えている音が聞こえてくる。楽しみに待っていると、カーテンが開かれた。
「次はこういうの着てみたんだけど、どうかな」
そこに現れた林檎さんは、真っ黒のワンショルダービキニを着用していた。相変わらずデカいおっぱいは置いておいて、ワンショルダーという名前なだけあり片方の肩が露出されている。黒色という落ち着いた色も相まって、さっきよりも随分と大人っぽく見える。
「へぇ、黒を着るだけで大人っぽくなるんですね」
「そうなの? 自分ではよく分からないけど」
「いい感じですよ。林檎さんの魅力が発揮されてます」
「そ、そんなに? そう言って貰えると嬉しいけど……最後のも着てみるね!」
「はい! 楽しみにしています」
俺が頷いたのを確認すると、林檎さんはまたカーテンを閉めた。例のごとく、ガサゴソと着替える音が聞こえてくると、さっとカーテンが開いた。
「これはどうかな? ちょっと子供っぽい?」
そこに現れた林檎さんの水着は、上下にフリルがついているベージュ色のビキニだった。フリルのついている水着なんてあまり見たことがないので、その新鮮さにドキリとする。
「全然子供っぽくないですよ! すごく似合ってます」
「あはは。そう言ってくれると嬉しいよ」
林檎さんは笑顔のまま、腰の前で手を組んだ。
林檎さんの水着姿……特におっぱいに見惚れてしまう。
「それで、三着の内どれがいいかな?」
そうだ。この中から林檎さんに似合うと思う水着を選ばなくてはいけないのだ。俺は腕を組み、三着のビキニを思い出す。一着目は水色のビキニ。二着目は黒色のワンショルダービキニ。三着目はフリルのついたベージュ色のビキニだ。どれも可愛らしいデザインだったが、林檎さんによく似合っていた一着がある。
「それなら黒色のビキニですかね。林檎さんの大人っぽさが倍増されるというか、一番林檎さんらしかったです。あと、個人的に黒色の水着が好みでした。片方だけ肩が出てるのも、個人的に高ポイントです」
俺の力説を聞いた林檎さんは、嬉しそうに微笑んだ。照れているのか、彼女の頬は桃色に染まっている。
「よしっ、それじゃあ今年は翔太郎くんが選んでくれた黒色のビキニを着るね。着れなくなるまで、絶対に大事に着るから」
林檎さんはこれでもかと嬉しそうに笑うので、俺もなんだか嬉しくなってしまった。嬉しい気持ちになった一方で、林檎さんの「着れなくなるまで」という言い方に引っかかって、俺の視線は無意識に彼女の大きな胸を捉えていた。




