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なにしてるのかな

 ♥


 じわじわと意識が現実に戻る感覚。まだ眠たいまぶたを開くと、そこには真っ白な天井が広がっていた。もう随分と見慣れてしまった、わたしの部屋の天井だ。


「ふぁぁ」


 小さくあくびを漏らしながら、蜜柑は起きたての目を擦る。

 今日は日曜日。昨日は翔太郎と植物園にデートしに行った。蜜柑が植物園に行きたいと言ったワガママを、翔太郎が聞いてくれたのだ。


「植物園楽しかったなあ」


 昨日の植物園はすごく楽しかった。色々な植物を見ることが出来たし、なにより翔太郎とずっと手を繋いでいた。あの大きくて男の子らしい翔太郎の手が、蜜柑はすごく気に入っていた。

 蜜柑は自分の手を布団から出して、軽く握ったり開いたりしてみる。昨日繋いだ翔太郎の手の感覚を、まだ覚えている。


「んふふ。翔太郎のことすごく好きだなあ」


 翔太郎のことを思い出すだけで、胸がトクトクと高鳴る。ずっと初恋をしているような気分かもしれない。

 翔太郎のことを考えただけで、朝からこんな幸せな気持ちになれるなんて。わたしの彼氏は本当にすごい。二ヶ月前に勇気を出して、翔太郎に告白した甲斐があった。


「んっ、うぅ……」


 寝転がりながら、蜜柑は腕を伸ばして伸びをする。でもまだ眠たいから、もう少し布団に入っていよう。

 蜜柑はまだ布団にくるまっていることを決めて、枕元に置いていたスマホを手に取る。画面に表示された時刻は、午前の十一時を少し過ぎたところだった。

 もうすぐでお昼ご飯の時間だ。昨日は翔太郎と遊びすぎて、疲れていたのだろうか。いつもよりも二時間くらい長く寝てしまった。


「んー、写真写真」


 だったら開き直って、昼食の時間まで布団にくるまっていよう。そう決心した蜜柑は、スマホを操作して写真のフォルダを開いた。そこには昨日撮影した写真が、ずらっと並べられている。それらをひとつひとつ、スクロールして眺める。

 植物の写真。翔太郎の横顔。植物の写真。植物の写真。翔太郎の横顔。翔太郎の笑顔。植物の写真。

 こうやって写真を見返してみると、翔太郎の写真も沢山撮っているんだなと改めて気がつく。翔太郎に気付かれないように撮っているから、その横顔ばかりだけど。


「んー、二人の写真がないよぉ」


 翔太郎が一人で映っている写真ならいっぱいある。でも蜜柑と翔太郎が二人で映っている写真は、一枚も見当たらなかった。

 翔太郎のことを隠し撮りするのは容易だが、「一緒に写真撮ろ?」と声を掛けるのには勇気がいる。


「でも二人の写真も一枚は欲しいよね」


 翔太郎の写真ばかりなのもいいが、一枚くらいは二人のツーショットが欲しい。こうなったら、今度会った時にでもツーショットの写真を撮ろうと駄々をこねてみようか。照れ隠しで駄々をこねるのは得意だ。


「よし、今度のデートの時は翔太郎と一緒に写真を撮る。決まり」


 自分に言い聞かせるように、そっと口にしてみた。それだけで、胸がドキドキとしてくる。

 こうやってドキドキしていると、わたしって恋してるんだなと実感する。翔太郎と付き合えただけで、わたしは幸せだ。


「翔太郎、今なにしてるんだろ」


 そう言えば昨日、明日はなにをするのか翔太郎に聞いた気がする。たしかその時に、翔太郎は家族と買い物に行くと言っていた。どこになにを買いに行くのかは分からないが、翔太郎は今頃買い物をしているところだろうか。


「電話したら迷惑かな」


 昨日デートをしたばかりだと言うのに、翔太郎の声が聞きたくなってしまった。翔太郎の声を聞くだけで、今日も一日頑張れそうな気がする。

 でも家族との買い物中だったら、やっぱり迷惑かな。迷惑だって思われたら、少しだけ寂しい気もするし。


 うーん。どうしようか。

 林檎お姉ちゃんは友達と遊びに行っていて家にいない。小桃はきっと一階のリビングに居る。わたしの方は誰にも聞かれることはないし、電話をする絶好の機会だ。

 でも翔太郎の方はどうだろうか。きっと今は家族と一緒に居るはず。となれば、翔太郎はわたしと電話をしているところを家族の人に聞かれてしまう。恋人との電話を家族に聞かれるのは、少し恥ずかしいだろうか。


「んー、でもでも、電話したいもんなぁ」


 翔太郎の声を聞きたい欲求を抑えきれない。きっとここで翔太郎に電話をしなかったら、今日はずっとモヤモヤとした気分のままだ。

 きっと翔太郎は出たくなかったら、電話に出ないはず。そう思うと一か八かで、電話をしてみようと思った。

 画面を操作して、電話のアプリを開く。あとは発信ボタンを押すだけで、翔太郎に電話が掛けられる状態だ。

 蜜柑はベッドから体を起こして、背筋をピンと伸ばして座る。こうしていた方が、電話しやすいから。


「すー、はー、」


 緊張を解すためにも、一度大きく深呼吸をしてみた。すると心なしか、胸のドキドキも落ち着いてきた気がする。


「よし。頑張るぞ」


 自分に言い聞かせるように、蜜柑は拳をきゅっと握った。

 翔太郎の声が聞きたい。それだけの想いで、蜜柑はスマホの発信ボタンを押した。


 ♥

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