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謎の自信

 昨日は蜜柑と植物園にデートしに行った。植物園でも蜜柑のワガママは健在で、デートを楽しめた反面にストレスも溜まってしまった。でもちょっとくらいストレスが溜まったっていい。だって今日は日曜日。林檎さんとデートをする日だ。


 楽しみすぎて朝は早くに目が覚めてしまい、ずっと今日はどんな服を着ていこうかと悩んでいた。その末に俺が選んだのは、青色のTシャツに白色のカーゴパンツだ。俺にしては、気合いを入れすぎたかもしれない。蜜柑と遊ぶ時は適当なTシャツにスラックスなんだけどな。


「よしっ、行くか」


 オシャレをした自分の姿を鏡で確認して満足したので、俺はスマホと財布をズボンのポケット中に突っ込んだ。部屋の時計を確認してみると、針は十時半を指している。林檎さんとの待ち合わせは、最寄り駅に十一時。ぼちぼち家を出てもいい頃合いだ。


「ふぅ……なんだか緊張してきたな」


 蜜柑とデートをする時にはない緊張感。

 林檎さんとは何度も会っているはずなのに、どうしてデートとなると緊張してしまうのだろう。でもきっと、林檎さんと顔を合わせてしまえばこの緊張もなくなるに違いない。


「落ち着け俺……ただの買い物だ。ただ水着を買いに行くだけ……」


 そう。林檎さんとは買い物以外になにもしない。蜜柑みたく手を繋いだりするワケではないし、恋人らしいことをしなければいけないワケじゃない。なのに俺はどうして、こんなに緊張をしているんだ。


「よし。緊張するんじゃなくて、楽しみだと思おう。うん、そうしよう」


 右胸を撫でながら、俺は自分に言い聞かせる。

 林檎さんとの買い物デート。楽しみだなあ。何度もそう思うことによって、緊張を頭の片隅に追いやっていく。

 そうするとようやく胸のドキドキが治まってきたので、一度深呼吸をしてから家を出る覚悟を決める。

 俺は気合いを入れるためにも頬を軽く叩いてから、楽しみなことだけを考えて家をあとにした。


 ☆


 日曜日だからか、駅の中は人で溢れていた。

 その人混みをかくようにして進みながら、改札の前へと辿り着く。時間を確認してみると、まだ待ち合わせ時刻まで十分ほどあった。スマホをインカメラにして、自分の前髪を整える。これで大丈夫。あとは林檎さんを待つだけだ。


「あれ、翔太郎くん早いね〜」


 あと十分は待ちぼうけだなと思っていると、聞き覚えのある声が俺の名前を呼んだ。顔を上げてみるとそこには、ベージュ色のワンピース姿の林檎さんの姿があった。ワンピースがよく似合う巨乳美人お姉さんを前に、俺は思わず息を呑んだ。


「林檎さんも早かったですね。おはようございます」


 林檎さんの美しさに圧倒されながらも、俺はなんとか口から挨拶を吐いた。


「ふふふ。おはよう翔太郎くん。と言っても、もうすぐでお昼時だけどね」


 林檎さんはクスクスと笑いながら、そんなことを言った。たしかに今の時刻は午前十一時。あと一時間もすれば、正午になってしまう時間帯だ。


「たしかにそうですね。ぼちぼちお昼だ」


「お昼と言えばお昼ご飯。お腹も空いちゃった」


「お昼ご飯はどうします? どこかで食べますか?」


「うーん。どうせ今からショッピングモールに行くじゃない? そうしたら、ショッピングモール内にレストランが入ってるんじゃないかな。フードコートもあるだろうし」


 林檎さんとは今から、電車に乗ってショッピングモールへと行くことになっている。ショッピングモールに行けば、たしかにフードコートやレストランなどもあることだろう。


「そうですね。お昼ご飯はショッピングモールで食べましょうか」


「うん! そうしようそうしよう。それじゃとりあえず、ショッピングモールに向かう感じで」


「了解です」


「おーけー、楽しみだー、レッツゴー」


 林檎さんは嬉しそうに拳を突き上げると、俺の手首を掴んで歩き出した。突然手首を掴まれて、俺の心臓はドキリと跳ねる。これじゃあまるで恋人同士だ。手を繋いでいるワケではないが、恋人っぽく見えてしまいかねない。

 しかもここは学校の最寄り駅でもある。もしもクラスメイトに見られたりしたら……そこから口伝えに蜜柑の耳へと届いて……そこまで想像したところで、背筋に冷たいものが走った。


「あ、あの、林檎さん」


 だから俺は声を掛ける。さすがに手首を掴んで歩くのは、周りの目が気になってしまうから。

 目の前を歩いていた林檎さんは、こちらを振り向くなり目を丸くさせた。


「ん、どうしたの? なにかあった?」


 純粋無垢な瞳を向けられて、また俺の心臓はドキリと跳ねる。

 きっと林檎さんは、悪気があって俺の手首を掴んでいるワケではない。それなのに俺は、周りの目なんかが気になって……せっかく林檎さんが手首を掴んでくれたのに。そうだな。周りの目なんて気にすることないよな。どうせ誰も見ていないだろうし。


「あ、いえ。なんでもないです」


 だから誤魔化すように、俺は首を横に振った。林檎さんは一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに「そっか」と笑ってくれた。


 大丈夫。きっと蜜柑には、林檎さんや小桃ちゃんと個人的に会ったりしていることはバレない。どうしてだか、俺には謎の自信があった。

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