第1話 移動中
お待たせ致しましたー
約束の日。
僕はフランツを背負い、ギルドに向かう。宿屋の朝ご飯をたっぷり食べたので、今日も元気いっぱいの足取りだ。
「おはようございます!」
中に入るなり、挨拶すれば職員の人達が挨拶を返してくれた。エイミーさんに許可をもらって、エクレアさんのいる執務室に足を運ぶ。そちらに行くと、扉の前でちょうどマシュさんがドアノブに手をかけるとこだった。
「あ、マシュさん。おはようございます」
「まあ、トラディスさん! おはようございますですの!」
相変わらずは独特の口調だけど……今日も綺麗で可愛い。エルフさんって種族からかもしれないが、さらっさらのプラチナブロンドをツインテールに結んで、動きやすい服装にしていても可愛いんだもの。長命種族と美貌の化身、恐るべしと思うしかない。
けど、ここで立ち止まっているわけにはいかないからと、僕が中に声をかければエクレアさんがどうぞと言ってくれた。
「さて、今日は本当にお願いします。トラディス君」
僕らがソファに腰掛けるなり、エクレアさんはテーブルに額をこすりつけちゃうんじゃないかって勢いで、僕に頭を下げてきた。よっぽど、マシュさんが心配なのだろう。
「はい! 護衛任務、しっかりと果たします!!」
冒険者として再スタートを切ったばかりの僕でも。フランツにそこそこ鍛えられているからとは言え、ギルマスさんとその姪御さんに信頼してもらっているのなら応えるしかない。
僕も出来るだけ、深くお辞儀してから隣のマシュさんに振り返った。
「よろしくお願いします!」
「ええ、お願い致しますですの」
ダンジョンへの移動は、途中までは馬車。
自然発生のダンジョンらしいが、挑戦者が多いので定期的に近辺くらいにまでなら馬車があるそうだ。
僕は……マシュさんと向かい合って座ったが、ちょっとだけ居心地が悪かった。
だって、初めて会った時のようにニコニコ笑顔のまま、僕を見つめてくるんだから。
「…………マシュ、さん」
「なんですの?」
「…………なんで、そんなにも笑顔なんですか?」
歳上とは言え、美少女に笑顔で見つめられるのは……正直、今までない経験だったからどう接していいかわからないんだ。
僕が質問をすると、マシュさんはさらにニコニコ笑顔になった。
「ふふ、失礼致しましたの。トラディスさんの魔剣……とっても珍しいと思いまして」
「……僕の魔剣?」
あ、なんだ。
僕より、フランツの方が気になっていたんだ。まったく信頼されていないわけじゃないだろうけど……ちょっと、いや、だいぶショックだった。そう言えば、魔導具の製造者って言ってたから……魔剣に興味持っても不思議じゃない。
「ええ……ええ! 素晴らしいデザイン、そして見事な刃のライン……それと内包されている魔力は計り知れませんの!! そちら、どのような経緯で手に入りましたの?」
「え……えーっと……」
どこまで、と言うかエクレアさんにも話していないのに。フランツにテレパシーを送ると、彼には思いっきりため息を吐かれた。
【ワイが 知性のある武器やと言うのは黙っとき? めっちゃ問い合わせあると思うで】
なので、フランツの助言も含めた嘘をマシュさんには伝えることにした。
「……ダンジョンの最奥で見つけて……そこで抜いてから、ずっと僕が持っています」
「まあまあ!? トラディスさんを主人と認めた魔剣ですのね!!」
「多分……ですけど」
「自信をお持ちくださいな? 魔剣は大抵、器に見合わなければ……触れた者を拒否するとも言われていますの」
「……そうなんですか??」
フランツはテレパシーも黙ったままだったけど……フランツを手にした時のあのよくわからない声の響きを思い出し。
ちょっとだけ、僕はフランツの主で良かったんだなと嬉しくなった。
次回はまた明日〜




