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後には引けない恋の戦い!!

作者: りんどう

3人の視点で話が進んでいきます。



海老沢天音の場合



それは一目惚れだった。



休日のある日、親に付き合わされて出掛けた時のことだった。

可愛いという誰かの声にひかれて何となく振り向いた時、僕の瞳が彼女をとらえた。


いや、僕がとらわれてしまったのかもしれない。


吸い込まれるような綺麗な瞳にただ目が離せなくて、気がつけば僕の足は彼女へと向かっていた。






猿林このみの場合


最近、どうも怪しい。



何が怪しいかっていうと、私の愛しのダーリン(になる予定)である海老沢天音のことである。


真面目な彼が授業中にぼーっとしていたり、休み時間に携帯を見ては幸せそうに微笑んでいたり、下校時間になると素早く荷物をまとめて帰ってしまうのだ。


これを怪しいと思わなくてどうするの!?

絶対にこれは女よね!私以外とそんな…浮気だなんて…。


でもでも、男の人はちょっと火遊びしたいものだって本に書いてあったわ。彼の本命になりたいなら浮気ぐらい許して寛容にならないと!

…でも、どの程度まで許すべきなのかしら?


「さすがに子供をつくるのはだめよね。キスは…まあ、キスは仕方ないのかしら…。そしたらど、同衾は…許さないとだめ?や、やっぱり無理!キスも抱擁だって許せないわ!」


「昼間っからお前は何を血迷ってるんだ?」


「凛太朗じゃない!ちょうどよかったわ、ちょっと話があるの!」


「はあ?嫌だよめんどくさい」


「いいからこっちに来て!天音君のことなの」


「…天音のこと?」


最初は嫌がっていた彼、私の幼馴染みである狐塚凛太郎は海老沢天音の名前を出すと渋々であるがついてきてくれた。

昼休憩中で騒がしい教室を出て渡り廊下まで来ると足を止め彼の方に振り向く。


「ねえ、最近怪しいと思わない?」


「何が」


「天音君よ!もしかして…彼女ができたんじゃないかしら?」


「…彼女だって?」


もしそうだったら泣いてしまいそうだ。あ、ほんとに泣きそう。


どうか違うと言ってと若干涙目で見つめると、彼は呆れたような目で私を見つめ返してきた。きっとまた阿保なことを言ってるって馬鹿にしているんだわ。

私が何故そんな風に思ったのか最近の天音君の様子を伝えると、彼はなるほどなと呟いた。


「確かに最近のあいつは少しおかしいかもな」


「そうでしょ?凛太郎なら何か知ってるかなと思って…腹立たしいけど、本当に悔しいけど凛太郎は天音君のお友達だし」


そう、凛太郎は天音君と小学校からのお付き合いなのだ。

私は小学校、中学校も女子高だったのでご近所の凛太郎を通してしか天音君と関われなかった。


何故ご近所に住んでいるのが凛太郎じゃなくて天音君ではなかったのだろう。むしろ私が天音君家の近くに引っ越せばよかったのか。ああ、でもご近所だったとしても私1人じゃ話しかけられないわ。やっぱり凛太郎がいてよかった。緩衝材としての凛太郎は必要だわ。


「誰が緩衝材だ。誰が」


「ひたい、ひたいわ、ひんたろー!」


私の頬をつねる凛太郎の手を叩く。舌打ちをした彼がようやく手を離した瞬間に三歩下がった。頬がじんじんと痛む。


ひどい、これじゃあきっと赤くなっているわ!傷物になったらどうしてくれるの!?凛太郎に責任取ってもらっても全く嬉しくないわ!私は天音君に責任取ってもらいたいもの!


「それは天音が可哀想すぎるだろ。むしろお前が天音に謝れよ、このストーカーが」


「ストーカーですって?それは凛太郎のほうではなくって?いつも側にいて天音君に近付く女は蹴散らしているじゃない!それは感謝してるけど!どうもありがとう!!」


「お前はしぶといけどな。せっかく一貫校に通ってたのにわざわざ俺らがいる高校に入学してきて…そこは尊敬するわ」


尊敬と言っている割には呆れた目で見てくる凛太郎。だって好きな人の近くにはいつもいたいじゃない?それにいつ泥棒猫が現れるか分からないもの。早急に駆除しないとね。


「というわけで、彼女がいるのかさりげなく探ってきて!」


「はあ?嫌だよめんどくさい」


「セリフを使い回ししないで。さあ、行きなさい!はやく!」


背中をばしばしと叩くと彼は大きなため息をついて歩き出した。私も彼の後をついていく。まだ騒がしい教室の中をのぞくと、私の愛しい天音君が1人本を読んでいた。


伏せられた目が文字を追っていき、綺麗な手が本をめくる。さらさらの黒髪が風に揺れて…あ、髪の毛が少し伸びているわ。この感じだと次に美容室に行くのは再来週あたりかしら。ポケットから取り出したスマホでスケジュールを確認していると、凛太郎が天音に話しかけていた。


凛太郎のせいで天音君が見えない。さりげなく見える位置に移動すると凛太郎も横にずれた。また移動するとその度に凛太郎も移動する。

こ、これはわざとね!?あの人背中に目でもついてるんじゃないかしら!?


埒があかないので取り敢えず今は天音君を見るのは諦めて声が聞こえる位置まで移動する。教室が騒がしいからよく聞こえないのだ。さりげなく近付くとようやく2人の声が聞こえてきた。


「天音さ、お前もしかして彼女できた?」


「り、凛太郎くーーーーーーん!?」


私は2人の間に入り込むと素早く凛太郎の手を取り教室を走り去った。先程の渡り廊下まで来ると手を離し凛太郎と向き合う。彼は眉をしかめて不機嫌そうであった。


「何すんだよ。邪魔するなよな、せっかく聞いてやってんのに」


「さりげなくって私言ったよね?なのにさっきのは何?単刀直入すぎるでしょ!あれで彼女いるって言われてたら私死んでたわ!」


「知りたいのか知りたくないのかどっちだよ!」


「知りたいけど知りたくないの!乙女心は複雑なの!!」


「何だそれ、めんどくせー…」


「もう、自分で探ってみるわ!じゃあね!」


私は彼の手に売店で人気なカレーパンをのせるとその場を去った。


やっぱり恋は自分の力で頑張らなきゃよね!そうと決まったらさっそく天音君を尾行…いえ捜査をしなくては!


教室で本を読んでいる天音君を見つめながら私は決意を固めた。






狐塚凛太郎の場合



カレーパンを渡して颯爽と去っていった彼女を見送りながら俺はため息をついた。

あいつはいつも突拍子のないことをやるから、巻き込まれる方はたまったもんじゃない。だが好きな相手のために一途に頑張る姿はまあ、すごいとは思う。俺はあんな風に頑張ることはできない。

こんなこと言ったらただの言い訳なのかもしれないが、好きなだけじゃどうしようもないことだってあるじゃないか。それなのにあいつは天音を追いかけて親の反対を押しきってここまでやってきた。ただあいつが阿保なだけなのかもしれないがそれでも羨ましいなと思う時がある。


俺もあいつみたいになれたら…


「凛太郎、このみちゃんどうかしたの?」


「いや、別にくだらないことだったわ」


「そう?」


教室に戻ってきた俺を不思議そうに見つめる天音。男にしては華奢な体つきをしており、もしかしたらこのみよりも軽いんじゃないかとかそんなどうでもいいことが頭をよぎる。


また本を読み始めた天音に、そういえば聞きそびれていたなと思い声をかけた。


「天音さ、彼女できたの?」


「え、なんで?僕そんな風にみえる?」


「ん、何となくそーかなって」


「えー…そうなんだ、そっか…。なんか恥ずかしいね」


照れているのを笑顔で誤魔化す天音をみてギクリとする。


もしかして本当に?本当に天音に彼女ができたのだろうか。


いつの間に?このみではないもんな。それじゃあ誰と…?親友だと思っていた俺にまで秘密にしていたのは…。


色々と考えだす自分の頭を強制的にストップさせる。天音だって秘密にしたいこともあるだろう。このみみたいに何でも知りたがるストーカーじゃないんだから。


「実はさ…ほら、これみてよ」


鞄から天音がスマホを取り出し、何度か操作した後こちらに画面を見せてきた。


「彼女、卯月って名前なんだけど…」


卯月…聞き覚えないな。他校のやつだろうか?きっとこれを知ったらこのみはまためんどくさいことになるだろうなと思いスマホを覗く。


「可愛いでしょ?一目惚れだったんだよね。目なんかぱっちりしてて、茶色い髪の毛も素敵でしょ?」


そこに写し出されていたのは…


「髪の毛って…全部毛だらけじゃわかんねーよ!どこまでだよ髪の毛!!」


写真に写る卯月は茶色の毛をまとう可愛いうさぎだった。


「僕、うさぎがこんなに可愛いとは思わなくってさ。もうこの子がいれば彼女なんて欲しくなくなるくらいだよ。まあいたためしはないけどね。あはは」


「へー…それは、よかったな…」


彼女を作ったわけじゃなくてよかったのか、それともうさぎにラブで恋人を作る気がないことに悲しめばいいのか…このみはどっちだろう。


まだこちらをちらちらと見つめている彼女の方に近付くと何故か構えられた。何故だ。


「聞いてきてやったぞ、天音に彼女いるのか」


「えっ!?」


小さな声で話しかけると彼女はやだ、どうしようと慌て始めた。その様子が面白くて思わず嘘をついてしまおうかと悪戯心がわいてくる。

だが顔を真っ赤にして葛藤している彼女は一生懸命で、むくむくと沸き上がっていた悪戯心はすぐに飛んでいってしまった。


「天音さ」


「天音君は!?」


「彼女が」


「彼女が!?」


「いー…」


「い!?」


「……」


「ちょっと、笑ってないで早く言いなさいよー!」


ポコポコと叩いてくる彼女を見ながら俺は中々笑いが収まらなかった。だがいつまでもそうしていては涙目で見つめてくる彼女が可哀想なので答えてあげることにしよう。


よかったな、天音に彼女は…


「いるって」


「え?」


嘘…という言葉がこのみの口からこぼれだした。目の端に水がたまっていくのをみて、俺は手で口を覆った。



俺、今…何て言った?



「いや、違うんだ今のは」


「いい。慰めの言葉なんかいらないから。…そっか、そうだよね。天音君格好いいから彼女できて当たり前だよね」


1人でうんうんと無理やり納得させるように頷く彼女に俺は何も言えずただ黙っていた。端からみたらいつもと変わらない様に見えただろうが俺の頭の中はとても混乱していた。

早く間違いを正さなければ。そう思うのにこのまま勘違いをさせておきたい自分がいて…。


天音に彼女がいると思えばこいつは諦めてくれるのだろうか。


「凛太郎」


彼女は覚悟を決めたかのように俺を見つめる。


「私、諦めないよ!天音君は素敵だから彼女が出来てしまうのはむしろ当然のこと!まだ結婚してるわけじゃないんだからチャンスはあるわ!とりあえずその彼女というのがどんな泥棒猫なのかを確認する必要があるわね」


ぶつぶつと何かを呟きながら彼女は作戦を練り始めた。さっきまで悲壮感を漂わせていたくせにすでに立ち直っている。


何てタフなやつなんだこいつは。伊達に何年もストーカーをしていないだけあるな。こいつなら本当にいつか天音を振り向かせてしまうのかもしれない。そんな未来を想像してはすぐにかき消した。俺も覚悟を決めなければいけないのだろう。

握りしめた手に力を入れる。


皮肉にもこのみのおかげで俺も頑張りたいと思ってしまった。このみみたいに素直に一途に。


だから、覚悟しておけよこのみ?


「絶対に天音君を取り返してみせるわ!凛太郎、私に協力しなさいよね!」


「嫌だよめんどくさい」


「緩衝材のくせに生意気なのよ!」



きーきーと喚く彼女を見つめながら宣戦布告だ。




俺だって誰にも渡さない。渡したくない。




天音は俺のものだ!!!!!!




……え?

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