プロローグ
初めての物書きです。主人公の視点で書いていこうと思っています。
———兄さんには才能ない上に努力してないんだから、ボクに勝てるわけないでしょ———
「あー、目覚めわるぅ」
部屋のベッドから気怠い様子で体を起こしながら、ため息とともにつぶやく。
夢見の悪さは今年一番だった。昔、少年だったころ、『天才』の弟に言われた言葉を夢に見たからだ。
学院の臨時講師として、初日に幸先悪い夢見だなと思いながら、いや、初日だからこそ、夢に見たのだろうと、空中に浮かべた水球で顔を洗いながら思う。
白シャツとグレイのスラックスに着替え、シルバーの髪を申し訳程度に整えながら、
初出勤となるメニスタン王立学院に向かって部屋を出る。
今日から出勤するメニスタン王立学院は、ここ、スーベニア王国の唯一の王立学院であり、国内および国外から多くの生徒が通う由緒正しき学校だ。
ちなみに学院は研究院、高等院、初等院からなり、初等院で4年幅広く学び、求める者は高等院で3年、それぞれ専門を学ぶ。研究院?あれは研究バカの集まりだと思えばいい。
スーベニア王国は、国土としては中くらいな大きさであるものの、大陸のほぼ中央に位置する立地条件から物流の要所であり、一方で肥沃な国土を元に近隣諸国の胃袋を掴んだ農業国でもある。
しかも、まわりを常に強国に囲まれてきた歴史的背景から、国力を上げるための技術的な研究が盛んであるため、このメニスタン王立学院にも多くの生徒が志望する人気学校というわけだ。
そんな学院に、今日から勤務とは、憂鬱でしかない。
入学式の後、檀上に3人並んで新任講師の挨拶だ。
期待に目を輝かせながら挨拶するスーツ姿の巨乳姉ちゃんとさわやなかイケメン、、
イケメンなんて、サラサラな髪に艶々した肌、キラっと光りそうな白い歯、いわゆる王子様風だな。
それに比べて、こちとら、適当にカットした髪に、目の下に張り付いたクマ、犯罪臭がすると陰口も叩かれた不機嫌そうな目つき、不健康そうな顔色、決して高くもない170センチ程度の背丈。
クソ、なんでおれはここにいるんだろ。
そうこうしているうちに、おれの挨拶だ。めんどくさいが仕方ない。
おれは生徒の前に立ち、挨拶を行う。
「今日から臨時講師となったオリベだ。よろしく」
ほらみろ、生徒達も2人の時と違って胡散臭そうな目でこっちを見てるぞ。
さて、挨拶が終わり、俺たち新任3人は初等院長のクセル院長に呼ばれ、院長室へ。
イケメンはオレに声をかけることも無く、同僚の巨乳姉ちゃんに話しかけ、巨乳姉ちゃんはそれに相槌を打ちながらも、こちらに話題を振ることも無く、、、おれはまたハブられているんだろうか。
楽しく会話している同僚2人を横目に眺めながら、さっさと帰りたいオレは院長室の扉をあける。
そういえば、この2人、なんて名前なんだろうか?
院長室にいたのはにこやかな顔を浮かべた『ふくよか』な姿をした40代くらいに見える女エルフだ。
もう一度言う、女エルフだ!デブの女エルフなんてあいかわらず詐欺だ!おれが学院に通ってたころから変わらない姿を眺めながら、いつものことを考えてたら、すごい睨まれた。なぜかいつもデ、、、ふくよかなことを考えると、声に出してないのに睨まれる。理不尽だ。
そんなことを思っていたら、いつの間にかクセル院長は3人に笑顔を向けながら話し出す。
「さて、新任の先生方を歓迎致します。オリベ先生には魔法学と1組の担任を、ナース先生には数理学と2組の担任を、アーク先生には魔法実技と3組の担任をしていただきます」
へぇへぇ、魔法学と1組の担任をいたしますよー。のんべんだらりと適当に魔法学の講義をしますよって、ちょっと待て。
「クセル院長、おれは魔法学の講義だけだったはずだ。担任なんて聞いてないぞ。担任なんて持つ気がしないぞ」
同僚2人がきょとんとしているが関係ない。なんで面倒を増やさなきゃならんのだ。
おれの剣幕に対し、にこやかに笑いながら、この性悪エルフは返してくる。
「オリベ先生、魔法学だけだとヒマでしょ。現在、学院は人材不足でしてね。担任も持ってくださいよ。なに、生徒は学院の最初と最後に教室に集まるだけですから、連絡事項を伝達するだけだと思って、ね」
「クセル院長、おれがこの学院の卒業生だと忘れていませんか?担任がそんなメッセンジャーなだけじゃないことくらいわかってますよ。めんどくさいから嫌です。」
こら、後ろに控えてる同僚2人、おれが学院の卒業生だと言った時にビックリした顔するなよ。そんなにダメそうに見えるのか。涙だすぞ。このヤロウ。
「困りましたね。ではオリベ先生、担任を引き受けてくださったら、報酬として、こちらも差し上げます」
そういって性悪エルフが差し出してきた書類の束を受け取る。
そこにあったのはある領地の農作物、地質の詳細データ。
過去におれが関わった領地、そして追い出された領地でもある。
領地にいる間におれが行った改革の結果が記された紙束。もはや関係無いと突っぱねることもできるが、気になる結果ではある。本当に性悪だ。おれが欲しいものを絶妙に突いてくる。
「わかりました。1年だけですよ」
忌々しい顔をしながら返事をするもクセル院長はどこふく風である。
「ではお願いしますよ。オリベ先生。期待してますよ」
こうしておれは、初等院の魔法学と担任を受けもつことになった。