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第九話 俺は部活に参加する

「で、ちやみくんは、どんな女性と付き合っていたのかしら?」


俺は久しぶりになんでも同盟部の部室を訪れた。のに、しょっぱなからそんな話をし出したのはおしるこ大好き(という風に印象がついてしまった)神代さんだ。その横でちらちら俺を見ながらスマホをいじっているのは宍粟だ。今日一日通して一番おかしいぞ、宍粟。どうしたんだよ、ほんと。

「幼馴染だよ、高校は違うけど」

「あらあら、それはそれは。でもどうして別れてしまったの?」

「進路の違い、かな? 受験とかでバタバタしてて、結局俺は必要なくなったというか」

「つまり、恋だと思ったけどそれは違っていたということね」

クスクスと神代さんは笑う。ジロジロと宍粟は俺をみる。

「まぁ、そんな感じ。付き合ってみたけど思っていたのと違っていたからとかじゃないかな」


ガッと椅子が動く音がした。宍粟は急に立ち上がったからだ。

「そういう、そういうことがあるから、信じられないんだよ、恋愛って」

手をギュッとにぎりしめて俺の方を見ながらそういった。もしかして、宍粟は…

「お前、男が嫌い、なのか?」

父親と重ねてみてしまうことは薄々気付いていた。本当の愛は偽物だと目の当たりにしているから。宍粟の母親がどんな気持ちだったのかは俺は知らない。でも、愛する人がいるのに他の女性を愛してしまう、そんな【男】が許せないのだ。その気持ちは、今までのお前の言葉と今みているその目から伝わってきている。でも俺はお前の父親とは違う。

「そうよ。なんなの? 好きになったらそっちにしっぽふっちゃってさ。お母さん何も悪いコトしてないんだよ? 何がいけなかったっていうの? なんにも言わずに家でていっちゃってさ」

宍粟はぽろぽろと自分の気持ちを吐露し始めた。神代さんは止めなかった。

「だから男の人って、そうなのかなって思うじゃん。身近な男の人がそうなんだもん。他の男の人は違うなんて保証どこにもない。…結局信じれない」

宍粟の心の中ではもう決まっているみたいだった。でもそれじゃあ宍粟は前に進めない。

「じゃあさ、宍粟は幸せになりたいとか思わないのか?」

「…幸せ? 今でも十分幸せだけど?」

そうじゃない、そうじゃないんだよ、宍粟。

「ちやみくん。幸せはいろんな形があるんじゃないかしら? ちやみくんが思う幸せと梢の思う幸せは違うわ。同じじゃないもの」

「そりゃそうだけど。でも、宍粟がそのまんまじゃ…」

そのまんまじゃ、何なのだ? 俺にとって宍粟は、俺は宍粟をどうしたいんだ?


どうなりたいんだ?


「わかってる。そんな人たちばかりじゃないってのも。でもやっぱり裏切られたくない」

苦笑いをして宍粟はまた座った。神代さんは深いため息をついた。空気が重い。もっと楽しいところじゃないのか、楽しいコトをしたいんじゃないのか、宍粟。なんとかしてやりたい。でもなぜ俺はこんなに必死なんだろう。宍粟にはもっと…

重い空気を切り裂くように部室の扉が開いた。

「あのすみません、今大丈夫ですか?」

その扉を開けたのは見覚えのある女子生徒だった。

「大丈夫ですよ~! 相談ですか?」

宍粟は先ほどの暗い雰囲気をガラリと変えていつもの宍粟に戻っていた。

「あれ、あの時ぶつかった子じゃないか?」

「え? ちやみくんに?」

「いやいや、お前だよ、教室戻ろうとしたときぶつかってきただろ? この子だったよ」

化粧ばっちりのギャルだけどどことなく清楚な感じが漂う女子生徒だ。

「あ、あの時はすみません。早く教室に戻らないと思ってたので。二年の若宮(わかみや)です。」

「同じく二年の宍粟です。で、ご相談の内容は?」

宍粟は彼女の席を用意し、招き入れた。

「…はい。実は私、勘違いされていて、今いたずらっぽいことされてるんです」

勘違い? いたずら? どういうことだ?

「といいますと?」

神代さんはどこからくんできたのか暖かいお茶を彼女に出してきた。おまけに和菓子もついてきた。ここは茶道部か?

「私のことを好きだと言ってくる(ひと)がいて、あ、私はすきではないんですが、その人彼女がいて、なぜか私が彼を奪った風になってて…」

彼女は座ってスカートのすそを握りながら少し震えていた。

「その彼ってだれよ? 二股しようとしたその男が許せないわ」

宍粟、お前の男嫌いのストレス発散口、そこなのか? 今にも殴りに行こうか状態じゃないか。

「同じクラスの老松おいまつくんです」

その名前を聞いた途端、宍粟と神代さんは顔をあわせて大きなため息をついた。

「老松くんはあれは…ねぇ?」

「でしょうねって感じね」

老松(そいつ)ってそんなやつなのか?」

俺が学校に来ていない間にそんな厄介な同級生がいたなんて知らなかった。

「私、本当に好きな人がいるんですけど、その人にも勘違いされてて、でも誤解は解けなくて、彼女にも毎日酷いことされて、教室にいることも苦しくて…」

なんてやつなんだよ、その老松ってやつは。女を大切にしろって親に言われなかったのかよ。

「そんなやつ、許せない、で、どうする? なにがいい?」

宍粟は若宮の両肩をがしっと強く握る。力入りすぎたぞ、宍粟。

「とにかく、誤解を解いてほしいです。おねがいできますか?」

「なんでも同盟部にまかせなさい!」

いいねグッドサインをする宍粟。その自信はどこから湧き出るのだうか。

若宮は少し安堵した顔をしていた。信用をおいているのだろう、この部活に。

それともこの悩みを誰にも言えなかったのか…?

宍粟は若宮から連絡先を聞き、対策が整ったら連絡を入れると言って帰ってもらった。

「…で、どうする気なんだよ、宍粟。なん同は何をやるんだ」

「調査よ! まずは彼女の近辺調査から入るよ! ちやみくんも手伝ってね!」

探偵かよ、と思ったがまずは彼女の話を全て鵜呑みにはできない。何が正しいのか、何か間違いがないか調査しないと解決にたどり着けない。ちゃんとしているんだな。

「私は若宮さんのことを調べるわ」

「よろしくね、リコちゃん」

なんでも同盟部がきちんと運用しているさまを俺は今から初めて見ることになる。

この部がなぜなぜ存続しているのか、お手並み拝見だな。

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