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第八話 俺は今日も学校へ行く

今朝みた夢は過去、だった。


過去。

思い出したくないことや思い出して懐かしく思うこと、できるならもどってやり直したいことやもう二度と同じことをしたくないと思うこと、過去は変えられない。タイムリープしたところで、変えた過去の未来は今の未来ではない。そうテレビで言っていた。世界線が違うんだとか。例えばAという世界に今の俺がいて、過去にタイムリープする。母がいくなる前に病院へ行ってほしいと促せば、母は生きた世界線ができあがる。それはAという世界線ではない。別のBという世界線だ。今の俺の過去から見た未来は過去の俺の未来ではない。…と、自分で考えても頭が混乱するので、とりあえず過去は変えられない。

夢でみたからといって今の俺には何もできないのだ。


なら今の俺ができることってなんだ?


「ちーやみくんっ!」

俺の背中にドシッとバシッたたいてきたのは宍粟梢だった。

「朝から元気だな、宍粟は。あとすげぇ痛いんだけど、宍粟」

「ちょ、そんなに名前連呼しないでよっ」

今度はバシバシ俺の腕をたたく。何に照れてるんだ? あと痛いんだが。

「とりあえず、おはよう」

挨拶は基本。主任からの教えだ。

「おはよっちやみくん! それよりなにか考え事してた? 背中からモヤモヤしたオーラが漂ってたよ? だからそのもやもやオーラを解き放とうとおもって背中をバシツと叩いたんだけど~」

説明してからたたいてくれ、結構痛かったんだが、でもなんか気分は晴れた気がする。

「今日はバイトあるの? それとも部活くる?」

「今は土日だけ入れてもらってる。そろそろテストだし、平日は学業優先しろって主任が」

「…あー。あのかわいらしいレジの人かぁ~」

「かわいらしいって言っても、あの人たしか25歳だぞ。俺たちより10近く年上だぞ」

「そ、そうなの? ちやみくん、年上好みなの??」

そんな話をしたつもりはないのだが。

「俺の好みは、好きになった人が好みだ」

「へ、へぇ~そうなんだ~」

宍粟は動揺している。何に対して? 

「私のタイプはね、切実な人、かな。裏切らない人」

顔色が変わった。誰かを思い描いている。その脳内に浮かんでいる人はきっと…

「そんな中身イケメンな男なんてその辺にいないぞ? 宍粟、ハードル下げたほうがいい」

「え? いるよ、きっといる! ハードル高い? そんなことないでしょ」

何言ってんの? という顔で俺をみる。いや、いないから、男は単純な人間だから。そんな紳士はいない。絶対はいえないぞ、宍粟。

「その点、ちやみくんは真面目さは高得点だけどね~」

真面目に生きてきてよかった。そう思った瞬間だった。が、俺には真面目だったときはないと思う。なぜならこの一年、俺はお金のためならなんでもしていた人だからだ。これを真面目といえるのか、思いやりより金、気配りより金、自分のために働いていた奴を果たして真面目と呼べるのだろうか。

「俺から言わせれば、お前の笑顔は満点だぞ」

ぴたっと足を止めた。…なにかいけないことでも言ってしまったか。

「な、なにいっちゃってんの、ちやみくん。そういう、そういうことは!」

宍粟の顔がゆでだこのようになっていく。

「そういうことを真顔でいうのは! 反則じゃないのかな! ち、ちやみくん!!」

両手をほほに当てて首をふる。ゆでだこモードは続いている。ていうかカバン落ちたぞ、宍粟。

「え、笑顔が満点とか、そんな、私、母親にもいわれたことないのにー!!」

どうしようか、なにやらゆでだこパニックモードに突入している。

「でも、お前の笑顔は俺の理想だから。羨ましいし凄いなといつも思うぞ?」

宍粟は耳まで赤くなる。両手はほほから頭にいき、髪の毛をくしゃくしゃにしている。

「な、ななななななにいってんの?! ちやみくん今日おかしいよ!!」

いや、お前の方がおかしいから! どうした今日のテンション。どうしたらいいんだ、このゆでたこパニックモードの宍粟をどうすれば…。


「えい」

宍粟の脇腹をつついてきたのは、宍粟の友人兼なん同メンバーの神代さんだった。

「ふにゃ~」

宍粟は腰が抜けたように神代さんに寄り掛かった。あ、解除されたみたいだ。

「ありがとう、神代さん。どうしようかと思ってたところだよ」

「いいえ、にしても珍しい。久々に梢のテンパりモードをみたわ。何かしたのかしら?」

「何も…あえて言うなら笑顔が満点だと伝えたらこんなことに」

神代さんは口に手を当てて笑い出した。なんだ? おかしなこといったか?

「ふふふ、なるほど、それで。ふふふ」

「何がなるほどなんだよ、ていうか宍粟、ちゃんと立てよ」

まるで酔っ払いのようにふにゃーとなった宍粟をキチンと立たせるために俺は宍粟の腕をもった。

「きゃっ、な、なにすんのさー!」

なにすんのって人助けだけど? というか、どうしたんだ宍粟。いつものキャラと違いすぎる。

「梢、深呼吸、ひっひっふーよ」

神代さん、それ違います。

「ひっひっふー。ひっひっふー。」

宍粟、今からお前は何か産むのか? 

「はーい両手を広げて~息を大きくすって~、はいて~」

「ふあーーーーーーーーひゅーーーーーーー」

なんだその呼吸音。ていうか何が始まってんだ? 俺はただ見ているだけだった。

「おはよう。梢」

「…あ! リコちゃんおはよ~!」

もとに? もどったようだ。神代さんは催眠術師かなんかなの、宍粟にかかっていた謎の催眠を開放したみたいだ。

「ん? ちやみくん何してるの? 遅刻するよ~」

「ふふふ、いきましょうちやみくん」

何かわけがわからないこの状況にとりあえず納得した形で俺たちは学校へと向かった。



「今日は部活に顔を出すよ」

お昼ご飯はなぜか宍粟と神代さんと俺の三人で食べるのが日課になった。いまだに俺にはこの二人以外の友達と呼べる人がいないからだ。せめてこの夏には男友達と呼べる人がほしいものだ。

「そうだね~入部してからバイト続いてたし、うん。何か悩み相談が来ていればいいんだけど~」

宍粟は校内一押しメロンパンをほおばっていた。

「何もないのが一番なのだけれど、何もないとこの部活の存在意義をなさないからね」

神代さんは今日もおしるこをのんでいた。

「ちなみにどんな内容の相談が多いんだ? やっぱ進路か?」

俺は作ってきた弁当を広げて食べている。今日の卵焼きの出来は自信がある。

「あとは恋愛相談かしらね? そういえば先生との不倫騒動を持ち込んできた生徒もいたわ」

やめたまえ、そういうややこしい相談は受けたくない。というか不倫しないで先生。

「あれはね~先生説得するしかなかったよね~生徒はもう盲目だったし、先生もその気にさせちゃだめだよね~独身なら私たちは断然応援したけどっ」

キャハハと宍粟は笑う。にしても今朝のあの慌てっぷり、ゆでだこモードはなんだったのか。原因はきっと、俺? なのだが、俺が何かしたか? そう考えていると神代さんの目線に気付いた。ずずずとおしるこを飲みながら俺をじっとみている。え、なんですか? なんなんですか??

「ちやみくんは、恋は、したことあるのかしら? やはり相談されるとなると経験がなければお応えできないものもあるじゃない?」

「は? 恋ですか?」

ゴホゴホっとせき込む声がする。宍粟だった。むせたらしい。

「な、リコちゃん何きいてるの?!」

「で、どうなの、ちやみくん」

「…ありますよ。そりゃ」

「へーー。今彼女がいるということなのかしら?」

「いません。高校入る前に別れました」

「その辺、放課後詳しく聞きましょう、ね、梢」

むせていた宍粟はお茶をごくごくと飲み、呼吸を整えていた。今日の宍粟はやっぱりおかしい。予鈴のチャイムがなかったので俺たちは教室に戻ることにした。神代さんは次の授業が体育だったので、先に教室に戻った。

「ちやみくん、彼女いたことあるんだ…」

ぼそっと宍粟は俺に問いかけた。なんだ? そんなに意外だったか?

「そりゃ、まぁ、好きな人ぐらいは、いるだろ」

「そう、なのかな。私は、いたことないけど。初恋すらまだ…」

宍粟は口を両手で抑えた。

「あれか、父親が関係してる、とか?」

「そ、そんなこと、ないとはいえないけど、好きになっても離れていくなら好きにならないほうがいいのかなって、思っちゃって。」

朝と同じように先ほど口を押えていた両手の平をほほに当てていた。その隙間からピンク色の頬がみえる。

「そうとは限らないだろ? 信用できるかできないか、じゃないか?」

俺は信じていたかった。離れていかないと。でもあいつ(・・・)は、離れていった。

「ちやみくん。信じることは簡単だよ。本当に簡単だった、信じることは本当に。でも裏切られたから…」

なんだか泣きそうな感じがしたので、俺は宍粟の頭をぽんぽんと撫でた。

「考えすぎだよ、お前は。目の前にあることが真実で本当。それを受け入れればいんじゃないか? 裏切られたらとか考えてたらしんどいだろ?」

俺は宍粟の頭を撫で続けた。まるで小さな子供みたいだ。

「じゃあ、信じていいの?」

宍粟は俺の方に顔を向けた。今朝のゆでだこではない、ピンク色にそまった頬がかわいらしい。

「私はちやみくんと…」

宍粟が何か言いかけようとしたとき、後ろからドンっと宍粟に女子生徒が当たってきた。よろけた宍粟を俺は受け止めた。

「ごっごめんなさい! すみません!」

その子は茶髪で軽くパーマをかけた長髪、化粧もばっちりな女子生徒だった。

「いや、大丈夫だけど」

ぺこりとお辞儀をして、また走っていってしまった。何かあったのだろうか。

「…ち、ちやみくん、その…」

気付いたら俺の胸あたりに宍粟の頭があった。よろけた宍粟を受け止めて抱きしめている状態だったのだ。なんだろう、いい匂いがする。

「あぁ、すまんすまん。大丈夫か?」

「だ、だ、大丈夫といえば大丈夫ですが、心のほうは大丈夫ではありませんのことです!!」

あ、やばい。俺は察した。今朝のゆでだこパニックモードに突入する予感がした。

「落ち着け、深呼吸だ、宍粟。教室に戻らないと遅刻する」

「は、はひ。ひーひーふぅー」

だからそれは違う呼吸法だろ? なんでそれになるんだよ。でも宍粟は少し落ち着いてパニックモードは突入を逃れた。俺は一安心した。

それと同時に本鈴がなり、俺たちは慌てて教室へと戻った。



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