76、大は小を兼ねすぎる
お父様に合わせて仕立てたコートを羽織り、モソモソと着替える私。服はお兄様のを借りることになりました。すみません。
「つまり、魂の成長とともに、ユリアの体も成長したということか」
『そうだ。あのままだと呼吸が出来なくなるだろう? 我は無実だ』
「仕方ないですね、父上、今回は許すとしましょう」
「うむ」
『この親子、なぜそこまで偉そうなのだ……我は王だぞ……』
ごめんよモモンガさん。たぶんお父様とお兄様、人間の王家の方々にも偉そうにしてると思う。王とかぶっちゃけ関係ないみたいな人たちだから。
ところで、この体……。
「ふむ、ヨハンと同じくらいの年齢に見える。どのユリアも愛らしさは変わらないな」
「年の近い妹を持ったようで、兄は嬉しい」
やっぱり、アラサーの体じゃないのかぁ。
もしや魂のかたちって精神年齢のことなんて言わないよね? ね?
『……』
無言は肯定とみなすぞモモンガさん。ぐぬぬ。
いけない。
のんびりしている場合じゃなかった。早く精霊界で魔石……じゃない、精霊石のある場所に行かないと。
お師匠様が「人の身で精霊界に行ったら大変なことになる」と言ってたし。
「大丈夫だ。さきほど精霊たちから祝福を受けてきた」
「え? 精霊たちからですか?」
「私とヨハンは銀色を持っている。それを気に入ったという精霊たちがいたのだ」
「それは良かったです!」
『主には我の祝福があるからな! むしろ精霊界のほうが体調が良いくらいだと思うぞ!』
確かに、いつもより息苦しさがないような気がする。
私は、魔力暴走の後遺症なのか、体力がとても少ない。お父様や周りの大人たちがすぐ抱っこするから、移動に不便には感じていなかったのだけど……。
はっ! ここなら抱っこじゃなく歩ける!?
ヨハンお兄様と同じくらいの体になってるなら、体力もいい感じになっているはず!
「モモンガさん、精霊石のある場所って遠いの?」
『我がいれば、すぐだ』
細長い指をくいくいっとさせると周りの風景がぐにゃりと歪んで、気づけば大きな湖のある場所に立っていた。
さっきは真っ白な場所だったけど、ここは色がちゃんとある。
人間の世界と違うのは、キラキラした何かがたくさん飛んでいるところ。そのキラキラがいかにも精霊界っぽい雰囲気出している。
「えー、歩きたかった……」
『人の足では数日かかるぞ』
「移動ありがとうモモンガさん」
『見事な手のひら返しだな、主よ』
お父様は危険がないと分かっているみたいで、ゆったりと立っている。
でも眉間のシワがすごいことになってる。
深い、深すぎる。
「お、お兄様、お父様が……」
「父上はユリアーナを抱き上げることができず、不機嫌のようだ」
さすがに高校生くらいの女の子を抱っこするとか……いや、それはある意味「アリ」なのかも?
お父様みたいな美丈夫に抱っこされちゃうとか、乙女の夢じゃない?
抱っこ問題はさておき。
「モモンガさん、ここに精霊石があるの?」
『うむ。ここのが一番大きいぞ』
足もとに転がっている石は、前にモモンガさんが持ってきたものと同じくらいの大きさだ。この石も精霊石と呼ばれるものとのこと。
「これを持っていくのは、少々目立つか……」
「お父様、何をですか?」
「精霊石だ」
お父様の視線の先にあるのは大きな湖だ。フワフワ飛んでる光が、幻想的な風景を作り出しているんだけど……。
いや、ちょっと待って。
風がふいているのに水面の波が揺れてないよ?
「父上、さすがにこれは置き場所に困ります」
「森に置いてもいいが、森の木を伐採をするのは避けたい」
「お、お父様? これ、持っていくのは可能なんですか?」
大きな湖かと思っていた「もの」は、大きな精霊石だという。
底もよくわからないくらいの大きさなのに、これを全部持っていくの?
「学生の頃、ペンドラゴンと軍の遠征について議論していた時に、物資の輸送負担を軽減できないかという話になってな。魔法陣の構築や魔道具の開発をした」
「軍の物資……」
「それを応用すれば、私とヨハンの魔力くらいでなんとかなるだろうな」
「応用……」
「さすがに国の重要機密だから教えることはできない。だが、ペンドラゴンあたりなら漏らすだろうから、興味があるなら聞いてみるといい」
「わかりました」
重要機密、とは。
そしてお父様がお師匠様をどう思っているのかが分かりました。
『さすがにこれを全部持っていくと、人の世界に影響が出てしまうのだ』
「精霊界は大丈夫なの?」
『これくらいなら数年で元に戻るぞ』
「割って持っていってもいいの?」
『うむ。自分の体重くらいのものならば、人の世界に持ち出しても構わぬぞ』
「なるほど。だからモモンガさんが持ってきた石は、あの大きさだったんだね」
すごいな精霊界。
でもこれでしばらくは、お父様に刻まれている魔法陣の起動を抑えることができる。
帰ったらお師匠様にどれくらい保つのかを調べてもらおう。
あ、そうそう、気になることがあったんだ。
「モモンガさん、ここにいる精霊って言葉を話せるの?」
『人の言葉を理解し会話できる精霊は、我らのような高位の存在に限られておる』
「ということは、私と父上に祝福を授けた精霊は高位だったのか」
お兄様が納得している横で、私はやっぱり不思議だなと首をかしげる。
「じゃあ、どうやって精霊は人の言葉を覚えるの? 学校があるとか?」
『いや、ここには記憶乃柱があるのだ』
「え? ろぐらいん?」
なんか今、変なルビが見えた気がする。
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