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74、古来より伝わりし舞に心おどる幼女


 風で揺れる銀色の髪を、鬱陶しげにかきあげるお父様。

 そして目の前にいる赤髪のダンディなオジサマは、不敵な笑みを浮かべている。


「報酬だ、と言っただろう? 早くこっちによこせ、息子よぉ」


「承諾はしていない」


「フェルザー家の当主として、それはどうかと思うぜぇ?」


「現当主はヨハンだ」


 銀色の氷と、赤い炎。

 二つの色がぶわりと竜巻のようにぐるぐると渦巻いているこの空間に、私こと幼女ユリアーナは、お父様に抱っこをされた状態で固まっている。


 なぜ、こんな事に。


 私とお父様とお兄様は、モモンガさんの案内で精霊界へ出発することになった。

 見送ってくれるのはセバスさんと、お祖父様だ。


 そう。お祖父様だ。


 赤髪でダンディなオジサマ。

 孫?の目から見ても、まだまだ現役感のすごいマッチョなイケオジは、冷静沈着なお父様とは正反対の性質を持っているのだ。


 お父様が氷なら、お祖父様は炎。

 冷静に対して熱血。


 相入れないと思われた二人だけど、驚くことにひとつだけ共通点があった。


「ヨハンきゅんと遊べたけど、ユリたんとは遊べていない! じぃじはもっと、孫と遊びたいぞ!」


「ユリアのことを、軽々しくユリたんなどと言うな」


「息子ぉ……さすがにそれは心せますぎるだろぉ……」


 中身がアラサーの私としてユリたん呼びは、ちょっと、かなり、嫌だったりする。


「ユリアも嫌そうにしている」


「ええ!? そんなぁ!!」


 心を読まないで! お父様!

 そしてダンディじぃじ相手であれば、ユリたん呼びも許容範囲内でございますよ!


「お嬢様は、野性味溢れる男性に心惹かれると」


「ユリアーナ……兄も鍛えるから待っていてくれ」


 セバスさんメモを取らないで!

 お兄様はショタ味のある容姿がツボなので、そのまま真っ直ぐに育ってください!


 ところで、赤髪じぃじの報酬って何だろう?


「一日ユリア独占する権利などと、ふざけたことを……!」


 お父様それ、孫を相手にする祖父としては、わりとポピュラーな権利だと思うよ?







『主の家族しかいないのなら、この姿でもいいだろう』


 おお! お久しぶりのモモンガさん小人バージョン!


 手のひらサイズの真っ白な髪をした男の子は、真っ白な貫頭衣のようなものを身につけている。

 唯一、色があるのは薄い紫色の目だけ。


「あれ? わたしたちだけ?」


「今日は護衛かげたちをつけていない」


「そういえば、私にいつもついている護衛かげもいませんね」


 お兄様にも護衛がついているんだぁって、当たり前か。

 有名なフェルザー家の嫡男が学園で(色々な意味で)狙われないなんてあり得ないもんね。お父様の指示で、有能なセバスさんがしっかりとお兄様を守っているんだろうな。


 今の私たちは、獣人さんたちの居住区から、さらに奥に入った森の中を歩いている。

 駄々をこねていたお祖父様には、精霊界から帰ったら遊ぼうと説得して、なんとか送り出してもらえたんだよね。


 さすがに、今の状態のお父様と一日離れるとか怖い。

 でも「息子のアレが治ったら遊ぼうなぁ!」と言ったお祖父様を、お父様が手加減なしで凍らせちゃったけど大丈夫だったかな。

 言葉のチョイスとか、言い方って大事だよね……息子のアレって……ぷぅー、クスクス。


 さくさく森の中を進む私たち。

 深すぎる森には魔獣が多くいるけれど、昔から生息する貴重な生き物もいるらしく、お兄様が目をキラキラさせていた。


「ヨハンは、動植物の研究に興味があるのか?」


「あ、いえ、学園の授業で学んだので……」


「ならば屋敷でも研究すればいい。その類の書物は書庫にもあるだろう」


「ですが、当主としての責務が……」


「すべての時間を割り当てなければいいだけの話だ」


 例のごとく子ども抱っこされている私は、ジッとお父様の顔を見る。

 私の真っ直ぐな視線を受けて、そっと目をそらすお父様。


「……私も仕事のかたわら、魔力の研究をしてる」


「あの忙しさで研究もされているとは、さすが父上です!」


 私は知っている。

 時々お父様とお師匠様が魔力の研究と称して遊んでいることを。

 ここの世界の魔法は詠唱したり光ったりとかしないの?って質問したら、なにそれ面白そうってなって中二病患者みたいな魔法開発とかし始めたんだよね。


 あ、ということは、原因は私になるのか。ごめんなさい。


『主、もうすぐ入り口に着くぞ』


「なんか、きりがでてきた……」


 案内するように私たちの前をふよふよ飛んでいるモモンガさん。

 小人の姿で飛び回るそのさまは、すごくファンタジーって感じがする。


 それよりも、精霊界の入り口とやらに近づくにつれ、霧が深くなってきたんですけど。

 気温も下がり肌寒くなってきたけど、新しいポンチョがあるから平気だ。

 そしてお父様に抱っこされてるから、温かくていい感じに眠くなる。


「この霧の中は危ないな」


「父上、風を使っても?」


『いや、これは精霊界に近いから守りの力が動いている。しばし待て』


 白い小人モードのモモンガさん(ややこしい)が、何やら踊りのような動きをしている。

 え、何それかわいい。パラパラといういにしえの舞みたいな踊り。


『ええいうるさい! 今の我は風を呼んでおる! 静かに見ておれ!』


 うるさくしてないよ。心の中でしか話してないよ。


『主は心の声がうるさいのだ!』


 理不尽!!!!


お読みいただき、ありがとうございます!


ちなみにモモンガさんの踊りイメージは「火の夜」ですw

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