73、自立を考える幼女
「おにいさま! ただいまもどりました!」
「おかえりユリアーナ」
屋敷に戻ったお父様と私を、玄関で迎えてくれたのはお兄様とセバスさんだ。
最近よく微笑むようになったお兄様に駆け寄ろうとするも、お父様に抱っこされている状態では身動きがとれず。
そんな私の葛藤を知ってか知らずか、お兄様はお父様に向かって優雅に一礼する。
「ご無事で何よりです、父上」
「うむ。学園の許可は?」
「休学届を出してきました。学園の総会運営も……何とかなるでしょう」
「そうか」
学園でも家でも働いているなんて、有能すぎるお兄様が可哀想すぎると思う。
お父様を見上げた私は、その整った顔をジッと見る。
「……」
ジッと見る。
「……領地経営は、手を貸す」
「父上、ありがとうございます!」
目をキラキラさせたお兄様。
でも、お父様は当主の座を譲ったのを言い訳にして、これからもサボる気満々だった気がするよ?
アロイス君だった時のお父様、けっこう楽しそうだったし。
お兄様の後ろで控えているセバスさんもコクコク頷いている。
あ、そうだ。
「おとうさま、にわ、いきたいです」
「庭に?」
「何をするんだ?」
お父様とお兄様に問われて、ちょっとドヤ顔になる私。
「じゅんびをするのです」
以前、市場で購入した色々なハーブ系の種ですが。
私のやりたいことを察したセバスさん指示の元、庭師さんたちがいい感じに育ててくれました。ありがたい。
侯爵家の広すぎる庭の一角に、畑がひとつ入るくらいの大きさはあるハーブ園。
私もしばらく来れてなかったから、ここまでたくさんのハーブが群生しているとは思ってなかったよ。
庭師さんたちが庭師で活躍してくれた件。
「これは、ユリアが作ってくれた『お守り』の花か?」
「はい。せいれいかいには、ひとのつくったものは、もちこめないとききました」
「なるほど。植物なら……ということか」
「父上、ユリアーナの作ったブーケは指示通り身につけるようにしておりますが、学園でもかなり助けられております」
「そうか。さすがだな、ユリア」
「えへへ?」
いや、以前のスケルトン大量発生の騒ぎならともかく、お兄様が学園で助けられてるって……何があったの? 大丈夫なの?
あの時、セージをはじめとした魔除けの植物だけじゃなくて、唐辛子とかスパイス系も盛り込んだものも作った。
ブローチくらいの大きさのから部屋に飾るリーフまで、私ひとりじゃ手が回らないからと、マーサたちも手伝ってくれたっけ。
「おにいさま、ごぶじでなによりです」
「ああ、前は女生徒の申し出を聞いていると仕事が出来ず困っていたが、それがなくなった」
「もうしで、ですか?」
「よく分からないのだが『あなたの孤独を癒してあげる』だの『家族のあたたかさを教えたい』だのと言われ……たぶん、人違いだと思うが」
それを聞いたお父様の眉間に、思いきりシワが寄る。
そしてちょっと肌寒いからお怒りモードですね、分かります。ユリアーナも同じ気持ちですから。ぷんすこ。
「ヨハンは……孤独なのか?」
「いえ、そんなことはありません!」
父上もユリアーナもいるから孤独でも何でもない、と、頬を染めるお兄様が可愛い。
お父様も口元を緩めてお兄様の頭をポンポンするから、さらに顔が赤くなっている。あらあらうふふ。
それにしても、謎の女生徒は気になる。
学園に通える年齢でもないし、せめて漢字で話せるようにならないと何もできなさそう。
そういう女子には口で負かされそうだからね。こわいこわい。
「じゃあ、おまもり、もっとつくらないと!」
「ありがとう、ユリアーナ」
何かあった時用に、激辛スパイスをふんだんに入れた目つぶしとかどうだろう?
ハーブ園は、屋敷内の人たちにも好評だった。
私が「自由に使っていい」と伝えていたのもあって、料理人さんたちが調理に使っていたのだ。
肉料理や魚料理、スープにサラダ、お菓子にも使えるからね。万能だよね。
庭から部屋に戻った私たちは、各自精霊界へ向かうための準備に取りかかる。
とはいえ、私の準備はマーサたちの手をかりることになるから、お兄様みたいにひとりで出来ないことが多くてちょっと落ち込む。
当たり前のように、お父様の膝抱っこを堪能しつつティータイム。
ハーブを採ってすぐにお茶として出す「フレッシュハーブティー」は、心も体もすっきりした感じになるから好き。
「ハーブを練り込んだクッキーやパウンドケーキ、ハーブ入りの茶葉と、ハーブの入った調味料も入れておきます。保存食ばかりでなく、ちゃんと温かい料理を食べる場所があればよいのですが……」
料理長とマーサが、あれもこれもと荷物袋に入れている。すごい重さになりそう。
これを持つの、たぶんお父様になると思うのだけど。
「お嬢様、こちらはペンドラゴン様に『負荷軽減』の魔法陣を入れてもらった荷袋です。ご心配なく」
「さすが、おししょ」
そういえば、お気に入りのポンチョがダメになってしまったんだっけ。
新しいのどうしようと思っていたら、セバスさんがスッと差し出してくれたものは。
「あたらしいポンチョ!」
「旦那様がご用意されたものです」
「ありがとうベルとうさま!」
「……あの時に裂けてしまったからな。それに、大きくなったようだから、前よりも大きめに作ってある」
「おおきく?」
自分の体を見下ろしても、どこが成長したのか分からない。
魔力暴走がらみで成長が遅いと聞いていたから、なおさらだ。
「ゆっくりだが、ちゃんと成長をしている。ゆっくり大きくなればいい」
「はい、ベルとうさま」
壊れた魔法陣の影響とはいえ、膝抱っこされてもあまり気にならないのは、この小さな体のおかげだ。
いずれ巣立つ身ではある。でも今はまだ、このぬるま湯のような生活を満喫したい。
「ところで、ベルとうさまのじゅんびは?」
「セバスに任せてある」
なるほど。
もしかしてだけど、この中で一番自立しているのは……お兄様かもしれない。
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