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71、ほめられてしかるべき幼女


 モモンガさんがテシテシ前足で叩いている壁を、お父様が軽く押す。


 ……足で。


「ユリアは、真似をしないように」


 しませんよ。そんなお行儀の悪いこと……いや、前の世界の私は、足でドアを閉めてたりしたかもしれない。

 レディなんだから気をつけないとダメねぇ。おほほほ。


 まだ顔を赤くしてる王子様と私を片腕ずつ抱っこして、暗い中石段を降りていくお父様。

 大丈夫? 疲れない?


「侯爵は、暗くても平気なのか?」


「夜目がきくので、お気になさらず」


「さすがフェルザー侯爵……王家の守り……」


 変なところで感心している王子様。

 実は私も夜目がきくんですよ。ふふふ。魔力が見えるのを応用しているので、お父様とはちょっと違うやつですけどね。

 ところで王子様、ずっとお顔が赤いようだけど、もしや風邪ですか?


 階段は下へ下へと向かっている。

 途中分岐もないから迷わないけれど、細くてクネクネしているから方向感覚ががが。


「ペンドラゴンを連れてくるべきだったか」


「まりょく、わたしにもみえますよ」


「いや、出来ればアレには触れさせたくない。ユリアのように清らかで純粋な心を持つ乙女には、危険なものだからな」


 うん。

 お父様、いつになく文字数多めに話しているけど、内容がバグっている。

 私の中身は清らかでも何でもないですよ? くたびれたアラサーですよ?


「……父上から話を聞いていたが、これは相当だな」


「ベルとうさまが、なんか、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だ」


 あ、王子様の顔色が元に戻りましたね。よかったです。







「きゅっ!(ここだっ!)」


 モモンガさんが鳴き声で知らせてくれる。

 扉の向こうに何があるんだろう?


「妹の……第二王女の部屋がある場所だ」


 ええと、教わったことを思い出してみよう。

 正妃様の子どもは王女二人。

 第一王女は隣国に嫁ぎ先が決まっていて、第二王女は私と同じくらいだったかな?

 第二妃様の子どもは王子二人。

 どちらも優秀で、第一王子は次期国王と見ている人が多く、第二王子は外務官を目指しているとか。やるな青髪王子。


 私のふわふわ設定記憶が正しければ、正妃様は王子を生むんだよね。

 そしてお家騒動に……。


「ユリア?」


「だいじょうぶです」


 しっかりとお父様の胸元にしがみついた私は、こくりとうなずいてみせる。

 そして、とうとう王子様は肩に担がれてしまう。ぐぇって言ってて苦しそうだけど、しばらく我慢してもらおう。


「きゅきゅっ(誰もいないようだな)」


「ベルとうさま、だいじょうぶです」


「うむ」


 うっすら光の射す部分を、軽く押すお父様。


 ……足で。


「誰もいないのか?」


「人の気配は無いようだが……ユリア?」


「ベルとうさま、まど」


 やたら風の魔力が流れると思っていたら、実際に風が流れ込んできていた。

 窓が開いている。それも全開で。


 モモンガさんが、ふわっと飛んで窓枠にしがみ付くと外を確認してひと鳴きした。


「きゅー!!(こっちだ主たち!!)」


 そのまま飛び出したモモンガさんに驚いたけど、どうやらここは一階のようだ。

 お父様が私と王子様を抱えたまま、窓の外に出る。

 え? 出ちゃうの?


「ひぇ!?」


「ぐぇっ」


 肩に担ぎ上げられた王子様から変な音が出てるけど、お父様は気にせず魔力の氷で滑り台のようなものを作っていく。


「怖かったら目を閉じなさい」


「だ、だいじょぶですー」


「ぐぇぇ」


 一階とはいえ、王宮は外から侵入されないよう高い位置に窓がある。

 そこから氷の滑り台で降りる「お父様 with 幼女と王子」だ。


 モモンガさんが飛んでいく方向に向けて、さらに魔力で氷をつぎ足していくお父様。


「きゅ!(見つけたぞ!)」


 風をあやつり、急滑空するモモンガさんに負けじと氷を出すお父様。

 さらに強く胸元にしがみつく私は、安心安全お父様抱っこなので無事だ。ちなみに王子様の反応は無い。


「……あれか」


 どこぞの大きな公園を彷彿とさせる王宮の庭。

 点在する植え込みの一つに、オレンジとピンクが見える。

 頭を抱え、しゃがみ込んだまま動かないのを見ると、もしかして隠れているつもりなのかしら?


「うっ、げほっ、シャルロッテ……?」


「第二王女か」


 弱々しくむせている王子様は、派手なピンク色のドレスの子に声をかける。

 すると振りむいた彼女の深い緑色の目は、私たちを強く睨みつけてきた。


「シャルロッテ、何を持っているんだ?」


「なにもない! ほうっておいて!」


「第二王女、その手に持っているものを離しなさい」


「いやよ!」


 何か布のようなものを握りしめている王女を、お父様は動かずに見ている。

 取り上げればいいのでは? と思って魔力を練ろうとしたらモモンガさんに止められる。


「きゅっ!きゅきゅっ!(主!アレに触れてはならぬ!)」


「じゃあ、どうすれば……」


「ユリア、ここで待て。殿下も」


「ベルとうさま!?」


「侯爵……承知した」


 王女が持っているものが危険だと察したのか、王子様はお父様にしがみついている私を引き離す。

 そして私が離れたことにより、お父様の服に仕込まれている魔法陣が作動するのがわかる。


「モモンガさん!」


「きゅきゅ……(氷のは異なものに触れたことがある……)」


 だからといって、安全というわけじゃないだろう。

 王女に向かっていくお父様を追おうとしたところで、周りの気温が一気に下がる。


「ち、ちかづくな!」


「それを、どこで?」


「お、おうじょにむかって、ぶれいな!」


「陛下が厳重に保管していたはず。それを、第二王女が見つけた?」


 近づくお父様から逃げようとする王女様だけど、それは叶わない。


「ちかづくなっ、わっ、ぶべっ!?」


 いつの間に地面に凍りついていた王女様の両足。

 気づかず走り出そうとしたオレンジ髪の彼女は、その勢いのまま顔面から倒れ込む。衝撃で手から離れた布は一瞬で氷に包まれる。


「ユリア」


「はい、ベルおとうさま」


 触れなければいいだろうと、流れる風の魔力をちょちょいと借りて氷のかたまりを浮かせる。

 驚いた様子の王子様にドヤ顔をしていると、すかさずお父様に抱き上げられた。


「ユリア、よくやった」


「えへへ」


「すごいな、まだ幼いのに、なんて繊細な魔力操作を……」


 なんかこんな簡単な魔法で褒められると、もしかしてすんごい幼女なのかなって思っちゃう。

 じゃあ王宮に戻ろうかってところで、何か忘れているような?


「……ぶふぇ」


 ま、いっか!



お読みいただき、ありがとうございます。


新作も公開してますので、よかったら読んでやってください!

男(で細マッチョに)なれたので異世界を(色々な意味で)満喫する、アラサー女子の話ですw

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