63、反省をうながす幼女
「おかえりなさいませ、ユリアーナお嬢様」
背すじを真っ直ぐに伸ばしたセバスさんが優雅に一礼すると、後ろに並んだ人たちが一斉にお辞儀をした。
すごい迫力!
そして、こんなにたくさんの人たちがお屋敷で働いていたんだね!
家路につく私たちに、いつの間にか迎えの馬車が手配されていた。
快適(お尻が痛くならない侯爵家の馬車)な旅を経て、私たちは無事、お屋敷に帰ってきたのだ。
馬車の中では、窓から見える景色を見る私を、お父様がひたすら愛でるというイベントが発生しておりましたよ。
「出迎え、ご苦労」
「ただいま、セバシュ!」
禁呪の影響とは言え、あまりにも自然に私を抱っこするお父様。
もちろん、この場でお父様にツッコミを入れる人なぞいない。
わかってます。ちょっと言いたかっただけです。
「ご無事でなによりでございます。今回は影たちが、つつがなく仕事を成し遂げたようで」
セバスさんが向ける視線の先には、庭師さんたちが立っている。疲れた顔をしているのに、どこか誇らしげなのが微笑ましい。
前は彼らを匂いで察知できたのに、今回は気づけなかったんだよね。
ぐぬぬ、次こそは。
「おや、疲れを表情に出すとは、まだまだ修練不足ですかね」
『!?』
セバスさんの笑顔に、庭師さんたちが怯えているのが伝わってくる。
「セバシュ、きょうはゆるしてあげて」
「いけません。今、この時に気を緩めることが、一番危のうございます」
それは分かるんだけど……。
助けてほしいとお父様を見ると、抱っこされている腕に少しだけ力が入った。増す安定感よ。
「セバス、後にしろ。ユリアーナを休ませたい」
「かしこまりました」
「部屋は奥を使う」
「……っ、かしこまりました」
打てば響くセバスさんの応対が、一瞬遅れた気がした。
どうしたの? 何かあった?
「疲れただろう。部屋の準備ができるまで、執務室で待つことにしようか」
「はい、ベルとうさま」
こくりと素直にうなずく私。
うん。さすがにちょっと疲れたから、ゆっくりしたいなー。
あれ?
「おにいさまは?」
「ヨハン様は王宮におられます。あと半刻ほどで戻られますよ」
「おうきゅう? がくえんじゃない?」
「旦那様から当主の座を譲られましたから、王宮でお仕事をされております」
「ふぁっ!?」
ちょっとお父様! 子どもに仕事させるとか、ダメじゃん!
いや、ちょっと待て。
今、フェルザー家の当主がお兄様になったとか言ってなかった?
「おにいさまが、とうしゅ?」
お父様を見る。
目をそらされる。
お父様を見る。
「……もう、ここには戻らないつもりだった」
いや、だからって当主を譲るとか、どうなの? よくあるやつなの?
「さすがに今回の理由としては、いかがかと思いますが……」
だよね?
今回の件って、娘が家出してショックを受けたお父さんも家出しちゃう、みたいに見えちゃうよね?
いや、ほぼほぼ事実なんだけどさ。
さらに言うと、娘が冒険者になったのを追いかけて、娘と同じパーティに入っちゃうお父様なんて……。
まぁ、愛ゆえにってやつ?(照れ照れ)
「お嬢様、照れている場合ではございません。魔法陣の紙を使って、身支度を整えましょう」
「て、てれてないでしゅ!」
久しぶりに噛んだ。
久しぶりに会えたマーサに、ほっとする。
マーサの娘、リーリアもいるのは珍しい。
「ふたりいるの、めずらしいね」
「娘は執事長から訓練を受けておりますから」
「お嬢様を守れるよう、鋼の肉体を作っているところです」
「はがねの、にくたい」
復唱すると、リーリアは可愛らしい笑顔を浮かべてコクリと頷く。
そ、そうなのね。
ちょっと彼女がちゃんと嫁にいけるか心配になってきたけど、ちょっと熱い視線を送ってくる庭師さんが一人いるから大丈夫なのかな。うん。
あ、そうだ。
「マーサ、リーリア、しんぱいかけてごめんなさい」
「いえ、私たちがお嬢様の心をもっと察することができれば、このようなことにはならなかったはずです」
「もっと精進します」
いや、そんなことできるようになったら、なんか違う能力とか芽生えそうだけど?
「お嬢様がここを出られたと知った執事長は、すでに状況を把握しておられました。さすがに旦那様が当主の座を譲られてまで探しに出られるとは、想定外だったようですが」
笑顔のマーサは「そこまでお嬢様は、旦那様から愛されてらっしゃるのですね」と続けているけど、やはりセバスさんの能力はすごいなぁ。さすセバ。
ちゃちゃっとお風呂に入れてもらって、身支度を整える。
そこで判明したのだけど、私、どうやら成長したらしいよ!
洋服の袖が爪半分くらい短くなっていたんだよ!
「おお、せいちょうき……!」
「外に出られて、ご成長されたのですね!」
「私もお嬢様に負けず、成長しないとです!」
目元にハンカチをあてているマーサは、私が成長しづらい体質のことを知ってて喜んでくれている。もらい泣きしそう。
でもリーリアは、ちょっと見ない間に色々成長してるんだよね。手加減してください。
お兄様が帰ってきたのは、夕食の途中だった。
「ユリアーナ!! よく無事で!!」
「おにいさま、ごめんなさい」
「いい。無事ならそれで……父上、なぜ邪魔をするのです?」
「呪いだ。ユリアーナを手放すことはできない」
「それはわかりますが、ユリアーナから腕を離してもいいでしょう。他の部分が触れているのですから」
「危ないだろう」
するとセバスさんが流れるような動作で私を取り上げ、魔法陣が描かれている紙をお父様にペシっと渡している。
「さぁユリアーナ、兄と食べよう」
「はい!」
お兄様と食事は久しぶりだ。兄妹仲良くできるのは嬉しい。
「セバス、魔法陣の紙を無駄に使うな」
「ペンドラゴン様から、大量に届いておりますのでご心配なく」
さすがお師匠様、備えあれば憂いなしってやつだね。
「それに魔石については、お嬢様にアテがあるとのことですから」
そうなのだ。
帰りの馬車の中で、モモンガさんが魔石と同じような力をもつ石が、精霊界にあるって教えてくれたのだ。
なので、ふたたびモモンガさんは精霊界へお出かけしている。
モフモフが恋しい……。
ふと、お兄様を見る。
お父様譲りの銀色の髪は、ふんわりとした毛質をして、だんだんモフモフに見えてきた。
「おにいさま、あたま」
「ん? どうした?」
「なでなでー」
なんだろうと、私に顔をよせてきたお兄様。
これ幸いとふわふわ銀髪を堪能させてもらえば、お兄様はみるみる真っ赤になってしまう。
「ユ、ユリアーナ!?」
「おにいさま、がんばっているので、なでました!」
モフモフを堪能したいという言葉は飲み込み、王宮で慣れない仕事をしていたお兄様を労うという名目で撫でる私。
「旦那様」
「……わかっている」
何か言いたそうにしているお父様だけど、ダメですよ。
お父様のとばっちりで、お兄様は大変な思いをしているのですからね。
ちょっとは反省してくださいまし!
お読みいただき、ありがとうございます。
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あわせて、よろしくお願いいたします。




