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とある国王の決意


「それで?」


「ご令嬢が家を出られたことを知り、ご子息であるヨハン・フェルザー様に当主の座を譲られたランベルト・フェルザー様の行方が判明いたしました」


「前置きが長い」


「申し訳ございません。いまだに『あの』侯爵様が、娘の家出に傷心ということが信じられず」


「気持ちはわかる、けどね」


 側近のローレンツは冷静沈着、頭脳明晰という言葉を体現しているような男なのだが、さすがに今回の一件は許容の範囲を超えたらしい。

 さらに、彼は自分にとっては気のおけない友人でもある。

 後輩のローレンツ、ランベルト、そして今代のペンドラゴンは学園時代の悪友だった。


 それはさておき。


 多くの貴族たちが『氷のフェルザー家』と呼んでいるのは、何も氷の魔法を使うからだけではない。

 特に当主となる人物については、人としての温かみを捨てた氷のごとく冷たき存在。

 たとえ身内であろうとも、国の障害となるものは冷酷に処断する……それがフェルザー家の役割ではあるのだが。


「ご子息には、まだ早すぎましょう」


「そこは、あの家の影が動くと思うけどね。まったく、人騒がせな男だ」


 いや、あの男のことだ。息子が当主になっても『氷』として動くことのないよう、事前に準備しているのだろう。


「それともうひとつ、ペンドラゴン殿から報告が」


「まだあるの?」


「ランベルト・フェルザー様、もしくはその周辺に『ハイイロ』の接触が確認された、とのことです」


「!?」


 思わず立ちあがりそうになったのを、必死で抑える。

 今、この場で動揺するわけにはいかない。側近のローレンツだけならまだしも、部屋の前には警備兵がいるのだ。


「それらの影響により、ランベルト・フェルザー様は呪いを受けている状態であるそうで」


「なんだと!?」


 今度は我慢できなかった。

 慌ててローレンツが手を二回叩き、魔法で異常なしという信号を部屋の外へと送っている。


「陛下、落ち着いてください」


「落ち着いていられるか!! ……彼は、王が、信をおく者だ」


 途中から我に返り、心の動揺を落ち着けるよう深呼吸する。

 やはり我慢はいかんな。我慢は。


「対処法はあるそうですが、やはり解呪しないと根本的な解決にはならないようです」


「ペンドラゴンが王宮の書庫に入り浸っていたのは、そういうことか」


「彼によれば、ある者から助力を得られ『ハイイロ』の動きを察知できるとのことです。その鍵となる、ユリアーナ・フェルザー様を王宮に迎え入れてほしいと」


「あれは我の娘のようなものだから、いいようにしてやって」


「はっ」


「ふふっ、あの子が家出か。原因は何だったのやら」


 だいたいの予想はつくが、ランベルトと会ったら文句ついでにからかってやろう。

 家と国以外に関心を持たなかった彼奴が、あそこまで娘を溺愛するとは。


 気持ちはわかる。あの子の愛らしさは傾国の要因になりそうなほどのものだ。

 自分の妃たちだって、姫も王子も産んでくれてはいる。

 しかし、王族の教育方針や慣習などで近くにいないせいか、どうも親子という感覚が掴めない。


 しかし、まだ数回しか会っていないランベルトの娘は違う。

 彼女を見た瞬間、なぜか守らなければという気持ちになり、思わず『魅了』の魔法を使ったのではと疑ってしまった。

 もちろん彼女は何もしていなかったのだが、現場を見ていたローレンツは未だ何かあるのではと疑っている。

 まぁ、そんなローレンツもユリアーナに会えばメロメロに対応しているのだが、そこを指摘すると仕事を増やされそうだから黙っておく。


「ところで、ランベルトのかかっている呪いの対処法とは?」


「ご令嬢を側に置くこと、だそうです」


「はぁ?」


 何言ってんだコイツみたいな目で見たら、自分だってそんなことは言いたくないみたいな目で見返される。


「側といっても、私のような側近とは違います。二人で密着する必要があるということです」


「うむ、意味がわからん」


「ですよね」


 ですよね、じゃない。ちゃんと分かるように説明しろ。

 まったくもって、何をしたらそんな愉快な呪いにかかるというのだ。


「呪いが発動すると、どうなる?」


「若返るそうです。しかし、脳は退化し、記憶をなくすとか」


「それは困る」


「ですので、解呪の方法が見つかるまで、ご令嬢と共に行動をされると思います。行方不明になられているよりは、悪くない状況ですね」


「ちょっと待て。ユリアーナに王宮への立ち入り許可を出している?」


「先ほど陛下が、ペンドラゴン殿経由で許可されております」


「じゃあ、愉快な呪いにかかっているランベルトは、王の許可を得て王宮内で好きなようにイチャイチャできるってこと!?」


「そうなりますね。ですが、陛下がどちらかを呼び出さなければ、目の前でイチャ……仲睦まじくされることはないと思われますが」


「小難しく言い直してもイチャイチャ感が消えてない! あと、ランベルトは報告のために絶対呼ばないとダメなやつ!」


「そこを理解しておられるなら、さっさと呼び出してください。そろそろマリク殿が限界です」


「わかってる! でもいやだ!」


「陛下もすればよいではないですか。王女たちと」


「上はもう隣国の王子にメロメロだし、下からは避けられている」


「王子たちは?」


「なんか違う。でも、王子たちは構ってくれるから王女たちよりはマシかな」


 謁見に来るランベルトは、たとえ呪いがなかったとしてもユリアーナを離さないだろう。

 ならば対抗して、玉座で王子をひざ抱っこで対抗するのはどうだろうか。


「王子たちがおかわいそうなので、やめてさしあげて」


「世の中、ままならんなぁ」


 報告を終えたローレンツは、どこから取り出したのか追加の決裁書類をどさりと置く。

 さすがにヨハンとマリクだけでは業務が回らないから、シワ寄せの全部が自分にくるのだ。


「ままならんなぁ」


 ランベルトの呪いが解けたら即復帰させる。絶対だ。


お読みいただき、ありがとうございます。

明日も更新できる予定なので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 個人的にはこの王様結構好き。
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