61、幼女は灰色を思い出す
「冗談はさておき」
あ、冗談だったんだ。
やれやれといった様子のオルフェウス君。
お父様とティアは残念そうだけど、嫌だよ自分そっくりの人形なんて。
「王宮の資料室で、呪いの発動を一時的だが抑えることができる方法があった。とりあえず魔力を込めた紙に魔法陣を刻んでおくから、一回につき半刻くらいなら嬢ちゃんが離れても問題ないだろう」
「使い捨てか」
「本来は宝石や魔石に陣を刻むんだ。それなりの大きさがないとできないから、仕入れるまで時間がかかると思う」
「なるほど。つまり、陣を刻んだ石を人形に入れておけば……」
「ユリちゃん人形は、呪いを解く人形になるということですね!」
だから私は嫌だからね!? あと略して呪いの人形みたいになるからね!?
なぜか息ぴったりのお父様とティアを涙目で睨んでいると、オルフェウス君が深刻な顔でお師匠様に問いかける。
「なぁ、侯爵サマは呪いが完全に解けてないからポンコツなんだよな? 元々じゃねぇよな?」
「ははは、一応友人だったはずなのに、嬢ちゃんと関わるようになったランベルトは別人のようだからなぁ」
そうだった。
お父様は元々『泣く子も凍る氷の侯爵』と呼ばれて?いたくらいの人だ。
ヨハンお兄様だって、こんなお父様を見たことないって言ってた。
そして、うっかり流していたけれど。
お父様にとって私は「唯一」という発言。
この件に関して、いかなる対応をとっていくべきか、脳内で全ユリアーナ大会議を開催しないとダメかもしれない。
ともあれ、トイレやお風呂もお父様と一緒とかじゃなくて良かったよ。ふぅ。
「きゅー!(主ー!)」
「モモンガさん!」
部屋に戻ってくつろいでいると、突然お父様が立ち上がって窓を開けた。
何事かと思ったら、飛び込んできたのは茶色のモフモフモモンガさんだった。
ここから精霊の森は遠いし、もっと時間がかかると思っていたから喜びもひとしお。
あ、ティアは別の部屋を取ることになりました。ごめんね、ティア。
「はやかったのね!」
「きゅきゅ、きゅ!(行く時は時間がかかったが、帰りは精霊界から直接こっちに来れたからな!)」
「おお、せいれいかい、すごいね!」
「きゅ!きゅきゅきゅ!(力も少し持ってきたぞ! 見よ、このモフモフな毛並みを!)」
前よりもモフみを増したと言い張るモモンガさんだけど、ちょっと柔らかい毛が増えた……ような気がするね?
せっかくなので全身の毛並みを堪能させてもらっていると、お父様がモモンガさんをじっと見ている。
「確かに、力が増しているようだ」
「きゅきゅ!きゅきゅ!(そうだろう!わかる者にはわかるのだ!)」
得意げに鼻をピスピスと鳴らすモモンガさん。
可愛らしい仕草に和むね。モフモフは癒しだね。
ふと、モモンガさんが私とお父様を交互に見て、きゅっと首を傾げる。
「きゅ、きゅきゅ?(ところで、なぜ二人はいつも以上にくっついている?)」
「それよりも、ほかにないの?」
「きゅ?(ん?)」
「ほら、ベルとうさまをみて! もとのすがたになったんだよ!」
「きゅ。きゅきゅ(うむ。相変わらず呪が拗れておるな)」
「え、モモンガさん、のろいがみえるの!?」
モモンガさんのつぶらな瞳が、すっと細められる。
そしてぶわっと毛が膨らんだと思ったら、掌サイズの真っ白な子どもが現れた。
服も髪も全部真っ白だ。
ただ、瞳だけは薄い紫色をしている。
え!? 人!? モモンガさんって人型になれたの!?
「この姿ならば話せるな。主、お初にお目にかかる」
「モモンガさん?」
「うむ。あの小さな茶色の毛玉は仮の姿。本来の色は白で、人型にもなれる」
「おー! すごい!」
モモンガさんって呼んでいいのか迷ったけど、人型は目立つからこれからも茶色のモフモフを通常モードにするそうだ。
なら今のままでいいかな。
「……呪が見える?」
「そうだった。モモンガさん、ベルとうさまのまほうじん、みえるの?」
「見えるぞ。拗れて、絡んでおるな」
「モモンガさんなら、とれる?」
「異なものが混じっておるから、我は触れられぬ」
「いなもの?」
ひらがなだと分かりづらいな!
異とは、なんぞや?
「人ではない精霊でもないものの力が混じっておる」
人でも精霊でもない? それって魔獣?
いや、魔獣ならそう言うよね。
子どもの姿になっているモモンガさんは、むむっと顔をしかめてみせる。
そして目を思いきり細めている。近眼の人が遠くの文字を見るような、あの目だ。
「むぅ……やはり、よく見えぬ。匂いは同じものなのだが」
「におい?」
くんかくんかすれば、お父様のいい匂いがしてうっとりしてしまう。
すると呆れ顔したモモンガさんが、小さな手で私をたしたし叩いてくる。いたた、痛くないけど、いたた。
「そうじゃない。呪を見てもよく分からぬが、匂いは森にあった魔法陣と同じだと言っている」
「何だと!?」
おっとお父様が食いついてきた!
急に動くもんだから膝から転がり落ちそうになった私は、しっかとお父様の腕に包まれてことなきを得ている! この安心感たるや!
「まさか『ハイイロ』が……?」
呟いたお父様の言葉に、私は愕然とする。
私が「使わなかった設定」である「ハイイロ」を、なぜお父様が知っているのか。
いや、待って。
その設定は使わなかっただけで、実際世界には存在していたってことになる?
小説内で描かれていなくても、私の考えていた設定はバックグランドで動いていると?
この世界に、いずれ現れる魔王。
きっかけとなるのは、人にある黒い部分を至高とし魔王の復活を目論むのが『魔王教』であり、その信者たちは次回のシリーズで出る予定だった。
信者たちは、通称『ハイイロ』と呼ばれている。
お読みいただき、ありがとうございます。
うっかり腱鞘炎を再発しておりまして、右手が疼いております(よからぬ気配)
休みながらやってます。
もちだ作品『オッサン(36)がアイドルになる話』のコミックス4巻
来週6/26発売予定です。
どうかよろしくお願いマッスルです。




