59、戻ってきた幼女の本気泣き
「ランベルトが魔法陣の解除に、何を設定していたのか分からない。けど、今ので分かったのは、嬢ちゃんの強い感情で魔法陣に変化が起きる。それと……」
テーブルにあるクッキーを手に取ったお師匠様が、私の口元に持ってくる。
条件反射でパクリと食べたところ、後ろから冷たい空気がぶわっと出てきた。
「ほら、な?」
な?って、何が? 急に寒くなったことが?
それはともかく、このクッキーなかなかおいしいもぐもぐ。
「魔力が漏れてますね」
「アロイスの感情の変化も関係するってことか?」
「そう、なんだけどねぇ……」
私のことを、残念な子でも見るかのような目をするお師匠様。
「仮にもペンドラゴンの弟子なんだから、今の流れを理解していない、なんてことはないよなぁ?」
「もちろんです、お師匠様! つまり、私がクッキーを食べるとアロイスなお父様が反応をするってことですよね!」
ビシッと手を上げて、ハキハキと答える私。
「そうじゃねぇだろ」
ビシッとツッコミを入れるオルフェウス君。
「不思議ですね。前のユーリちゃんは、もう少しだけしっかりとしていたような気がするのですが」
「ランベルトが甘やかしたんだろうねぇ」
パチンと、頭の中で何か弾けるような音がした。
ちょっと待って。
なんか私、最近ヘタレすぎてない?
最初は、この世界で「私」という自我が芽生えた時は、もっと色々考えて行動していたような気がする。
前世で書いた自分の小説と似通った世界。
その中でも、不幸な生い立ちを持つキャラクターであるユリアーナ。
だがしかし。
私が『ユリアーナ』だと自覚してから、お父様もお兄様も優しい人だし、周りの人たちも設定とは違う行動をしている。
あげくの果てには、お父様が禁呪に手を出す始末……。
急にクリアになった頭をフル回転させていると、お師匠様がやれやれといった様子で私を
見る。
「よく思い出してみろ、嬢ちゃんが、なぜ家を出たのかを」
家を出たのは、お父様に再婚の話があったから。
お父様と血のつながりのない私は、あの家に不要だと思ったから。
オルフェウスも冒険者に戻るって話だったし、ちょうどいいと思って……。
あれ? なんでちょうどいいと思ったんだろう?
そうだ。
前世の私が書いた小説だと、ユリアーナはオルフェウス君と一緒に行動していたからだ。
イレギュラーなことが起こっているわけじゃない。私という異分子がイレギュラーを引き起こしている。
ならば、今の状況も私が引き起こしたもの、ということだ。
「お師匠様、明日お父様……アロイスさんと二人で出かけてくる」
「町の外に?」
「うん」
反対されるかと思ったけど、お師匠様は「そうか」だけ言って頷く。
「オルリーダー、ティア、急にわがまま言ってごめんね」
「まぁ、アロイスがいれば大丈夫だとは思うけど、無理すんなよ」
「ユーリちゃん、気をつけてくださいね」
「わかった」
キリッとした顔で力強く返した私は、テーブルにある最後のクッキーを口に放り込んだ。
翌朝。
モモンガさんが戻っていたら一緒に行こうと思ったけど、まだみたいだからアロイス君と二人きりで町の外に。
恥ずかしいし、いざという時にアロイス君の両手が使えないと困るから、抱っこはもちろん拒否だ。
「疲れたか?」
「まだ町を出たばかりだけど」
そわそわしているアロイス君を見て、私は内心ほくそ笑む。
思った通り、冷静沈着な彼が動揺しまくっている。
「しかし、横で私の一歩を二歩半で歩かれていると、落ち着かない」
「……身長差だから、そこは諦めて」
私の脚が短い訳ではなく、あくまでも身長の差だと強調しておく。
魔力で索敵の網を周囲に広げつつ、ゆっくり歩くアロイス君の横で小走りしている私。
「疲れたか?」
「前方に敵発見」
まだ安全な場所にいるけれど、あまりにもアロイス君が構ってくるので魔獣さんにお相手をしてもらうことに。
伝えた瞬間、背中にある槍を手にとったアロイス君から濃密な魔力が流れ出し、索敵の網にかかっていた魔獣の気配が消える。
「よく捕えたな」
「遠距離攻撃もできるの?」
「ユーリから離れず攻撃しようとしたら出来た」
「……そっかぁ」
うーむ……こんな平穏な道中だと、私どころか、アロイス君の感情も動かせないのでは……。
いや、ちょっと待って。
「出来たの? 遠距離攻撃」
「そうだが?」
それがどうしたと言わんばかりの表情で、私を見るアロイス君。
どうしたもこうしたもないよ。おかしいでしょ。
「出来るなら、昨日やれば良かったのに……」
「今出来たことだ」
「じゃあ、氷のお菓子作ってって言ったら、今すぐ出来るの?」
「作ったことはないが、欲しいのか?」
「うん」
「ならば作ろう」
お師匠様が言ってた。
新しい魔法を作り出すことは可能だけれど、何度もトライ&エラーをして完成させるものだって。
稀に「あれ?やっちゃいました?」みたいに出来ることはあっても、まったく同じ魔法を発動させることは難しいと思われる。
そうは言っても、さっきの攻撃は前に見せてくれた『氷槍』の遠距離バージョンだと思うけどさ。
「あ、そうだ! 魔獣が何か落としているかも!」
紡いだ魔力を発動させた私は、倒された魔獣のところまでぽいーんと飛ぶ。
活動停止になった魔獣は、しばらくすれば黒い塵となるのだけど、まれに魔石と言う核の部分を残すことがある。
北の魔獣は強いから、きっと何かあるはず……。
「ユーリ!!」
塵となっているはずの魔獣から、一気に黒いものが膨れ上がる。
アロイス君の声で、ギリギリそれをかわしたけれど、マントのフード部分が引っかかって切り裂かれてしまう。
「しまっ、ふぉっ、まほうじんがっ!!」
最後の攻撃だったのか、魔獣から出た黒いものはそのまま塵となり霧散した。
だけど……。
「ああ、からだが、ちいさくなっちゃうぅ」
そして攻撃を避けたため、浮いた体が地面に叩きつけられ……なかった。
「ユリアーナ」
お腹に響くバリトンボイスで名を呼ばれて。
勢いよく飛ばされた私を、軽々と受け止める鍛え抜かれた肉体。
そして何よりも、ふわりと漂う大大大好きな匂い。
「ベル、とうしゃま?」
本当にお父様なの?
そんなに強くギュってされたら、誰だか分からないよ?
「ユリアーナ」
分からないなんて、嘘。
この感触は、絶対にお父様だ。
「ベルとうしゃまぁぁ……ふっ、ふにゃ……にゃあああああああああ」
お父様の、ばかあああああああ!!
お読みいただき、ありがとうございます。
めちゃくちゃバタバタしてまして、申し訳ないです。(ペコリ)




