58、キレる幼女は垣間見せる
今回の旅は、ティアの武者修行だ。
お父様の進捗はよろしくないし、それなら魔獣退治で発散しちゃおうってことになった私たちのパーティ。
ただいま、絶賛?戦闘中です。
「ティア、補助を頼む!」
「はい!」
ティアの神官としての能力は高い。
神官の父親に幼い頃から仕込まれた、補助や回復の魔法。
彼女は攻撃に参加できなくても、そこにいるというだけで心強い存在になる。
そして私は、相変わらず後衛の後衛にいる。
「私も魔法を……」
「動くな」
槍を片手に、颯爽と私の前に立つアロイス君。
「おい! 勝手に後ろに引っ込むな!」
「……後ろが手薄だ」
「前衛が手薄になったら、全滅するだろが!」
「お前なら一人でもいけるだろう?」
「そう! いう! 問題じゃ! ねぇっつの!!」
一言ずつ区切って叫ぶたびに、オルフェウス君の振るう剣が魔獣を切り裂いていく。
リザードと呼ばれるトカゲ型の魔獣は防御力が高く、一刀両断というわけにはいかない。さすがのオルフェウス君でも、前衛1人というのは辛い状況だろう。
アロイス君のマントを掴んで、軽く引っ張る。
「リーダー大変そうだから、助けてあげて?」
「……わかった」
「ユーリの言葉は聞くのかよ!」
王都から北に進むと、通称「竜の山脈」と呼ばれる場所がある。
まるで竜がうねるような山脈が続いているから……という理由ではなく、実際に竜が住んでいたりする。
人の言葉を解す彼らは、たまに暴れたりするものの、わりと穏やかに暮らしているっぽい。
強い種族がいる場所だからか、山の麓では他の地域よりも比較的強い魔獣が生息している。
ティアの父親曰く「武者修行には最適でショ♡」とのことだけど、ムキムキな肉体のイメージが強すぎて神官の修行だということを忘れてしまいそう。
ティアがムキムキにならないように、しっかりと見張っていないとね。
それはともかく、アロイス君の(過保護発動の)せいで戦いが長引いている。
ティアの補助魔法があるとはいえ、早く終わらせた方がいいだろう。
「私だって、戦えるもん!」
周囲に漂う魔力の色をいくつかチョイスして、指先をチョチョイのチョイと動かして起動するのは攻撃魔法。
火と風と、ほんのり水を合わせたオリジナル魔法だ。
オリジナル魔法は、起動するのに自作の呪文をつけたがる人が多いらしい。でも、お師匠様は無言が多い。恥ずかしいんだって。
え? 私?
やだな、恥ずかしいに決まってるでしょ。
でも、呪文がないとコントロールが難しくなるから、何となく気合で頑張ってるよ。
「ほいさーっ!!」
すぽぽぽぽんと破裂音と共に、倒れていく魔獣たち。
音からして威力が無さそうに見えるけど、この魔法は音で体の内部にダメージを与えていくのだ。(ばばーん)
「これ、結構えげつないな」
「さすがユーリちゃんですね」
「ふふん、あのペンドラゴンお師匠様の弟子ですからね! これくらいはできふぉっ!?」
突然後ろからニュッと伸びた両腕に捕まり、ひょいと抱きあげられて変な声が出る私。
「……怪我は、ないか」
「後ろにいるんだから、何もないよ!」
お父様の記憶も経験もないのに、アロイス君は過保護を発動してくる。ぐぬぬ。
「あんだけ『お父様大好き』だったユーリなのに、まずいもんでも食ったみたいな顔するとか、くっ、笑えてくるな、ぷぷっ」
「笑ったらダメですよ。ユーリちゃんにとって、アロイスさんと侯爵様は違う存在なのでしょうね」
ティアには、定期的に魔法陣に回復魔法をかけてもらってる。
でも、あの時みたいに一瞬だけお父様に戻ることもないし、体に刻まれた魔法陣が消えることはない。
「そういや、ユーリのお師匠様と茶色の毛玉は、いつ頃戻るんだ?」
「お師匠様は夜には戻るって。モモンガさんは精霊の森だから、時間がかかるかもしれない」
王宮に保管してある本に、持ち出し禁止の「禁呪」について書かれたものがあるそうだ。
お師匠様くらいになれば出入り自由だけど、いかんせんお父様と同じ症例?が書かれた本が見つかるかどうか……。
モモンガさんは、精霊界に置いてある自分の力を一部解放してくると、獣人さんたちの住む森へ向かった。
森の居住区の奥は精霊の森につながっている。そこに精霊界への入り口があるそうな。
いつも首元にあるモフモフがないと、ちょっと寒くて寂しい。
「はぁ……」
「どうした? お前に降りかかる憂いの全て、この槍で屠ってやろう」
「お前だ、お前」
「憂の全ての原因が、アロイスさんですからね」
「はぁ……」
疲れることをしていないはずなのに、やけに重い体を引きずるようにして(私はアロイス君に抱っこされて)宿に戻ると、食堂で優雅にお茶をしているお師匠様がいた。
「お師匠様!」
「相変わらず甘やかされてるなぁ、嬢ちゃん」
「不本意!」
「うむ、難しい言葉を知っているのだな」
アロイス君に撫でられている私を呆れたように見たお師匠様は、一冊の本をテーブルに置く。
「お、何だそれ」
「何か分かったのですか?」
オルフェウス君とティアがお師匠様の前に並んで座り、私はお師匠様の隣に座るアロイス君の膝に。
体は大きくなっているから、今の私はひとりでも座れる。しかし、この世界の椅子やテーブルは大きい。
そう、私が小さいんじゃなく、家具が大きいのだ。
テーブルの上でお師匠様が広げた本のページを、アロイス君を除く全員が覗き込む。
「ここにある、刻まれた魔法陣を無効化する方法だ」
「おお、これ……は……」
「刻まれた対象物を紙や布ならば燃やし、石ならば粉砕するとありますね」
「燃やして粉砕」
グッと握りこぶしを作ったところで「ユーリちゃん落ち着いて」とティアにお菓子をもらう。
はい。お菓子食べて落ち着きますもぐもぐうまー。
「そこじゃなくて、こっちだよ。こっち」
見ているところが違っていたみたい。危ない危ない。
そこには自ら魔法陣を体に刻み込んだ人が、自力でそれを解いた方法が書かれていた。
「この男は、どうしても猫になってみたかったらしい。姿を変える魔法陣を自分に刻み込んだ」
「何でそんなことしたんだ?」
「男が片思いをしている相手が猫好きで、猫なら愛されるって思ったらしいぞ」
「あらあら、それは浅はかですね」
私は黙ったままでいる。
娘が家出したからと自分の姿を変え、記憶を捨ててまでした人間を知っているからだ。
「そいつ、どうやって戻ったんだ?」
「男は戻るために必要な言葉を、あらかじめ魔法陣に設定していた。その言葉を女性が発したため、元の姿に戻ることができたと書いてある」
「言葉……ですか?」
「この男の場合は、な」
「侯爵サマが元に戻る設定をしているとは、限らないってことかよ」
「そういうこと」
アロイス君を見上げれば、アイスブルーの瞳が私を見返す。
どうした?といった様子の彼に何だかイライラしてきて、その整った顔をわしっと両手で掴む。
「む?」
「ベルお父様の、バカ!!」
おでこに触れる、柔らかい感触。
「ユリアーナ、泣いているのか?」
ぶわっと広がる、大好きな匂い。
そして私を包み込む、逞しく力強い腕。
「ベルとう……さま?」
振り返れば、キョトンとした顔のアロイス君。
「またかよ!!」
「今、一瞬だけ侯爵様が?」
え? オルフェウス君とティアは見たの?
ずるい!! 私は見れなかったのに!!
「なるほどなぁ。そういうことか」
訳知り顔でうなずくお師匠様。
も、もしかして何か分かったの!? マジで!?
早く教えてお師匠様ーっ!!
教えてえろ…えらい人!!
お読みいただき、ありがとうございます。




