57、検証に検証を重ねる幼女たち
アロイス・フェルザーは、由緒正しきフェルザー家の末席にいた。
それは彼の父親が先の当主の末っ子で、さらに言えば冒険者として世界を旅する道楽者と爪弾きにされていたからだ。
冒険者仲間の母と出会い、生まれた子どもがアロイスである。
彼は自分の立ち位置に満足していた。
貴族という堅苦しい縛りもなく、旅をしている両親から早いうちに離れることになってしまったが、優秀な彼は優秀な冒険者として活躍できていた。
しかし、冒険者として活躍した彼は、ふたたび貴族の家に縛られることとなる。
「先代の当主……アロイスの祖父にあたるんだが、彼の能力を知って呼び戻した」
「お父様の氷の魔力?」
「ああ。アロイスの父親を含め、当主の息子たちは誰も氷の魔力を使えなかった。暫定として長男を後継者にすると定めていたんだが、氷の魔力が使えることが分かりアロイスを後継者としたんだ」
「なるほどなぁ」
お父様の若かりし頃を語るお師匠様に、オルフェウス君が頷いている。アロイス君が前と違う理由を、やっと納得できたみたい。
すると、ティアが不思議そうに問う。
「よくアロイスさんは家に戻りましたね。せっかく冒険者として活躍されていたのに」
「アイツは責任感が強いからな。フェルザー家の役割を知って家に戻ったんだ。それに当主は馬鹿じゃ務まらんから、文句を言ってた奴らは排除されていたし、貴族でもわりと自由にやっていたぞ」
つまり、末席とは言え優秀な冒険者の両親と、その息子を馬鹿にしていた親戚はポイッてされちゃったのね。
どうポイッとされたのかは、聞かないでおこう。
「アロイスは有名になりすぎていた。そこで、アロイスの弟のランベルトが出てくるってわけだ」
「弟って?」
「存在しない弟を仕立て上げるために、先代当主は先代国王をちょちょいとつついたんだろうな」
ほほう。先代も今代も、国王陛下はフェルザー家につつかれる宿命とは。
ところで……。
「お父様は、いつ戻るの?」
「それなんだよなぁ。困っているんだよねぇ」
ふたたびアロイス君にひざ抱っこをされた私は、今度は優しく背中をぽんぽんされている。
やめて寝ちゃうから。
「顔合わせの時は興味ないみたいだったのに、やたらユーリを溺愛しているよな」
「口調は厳しい感じですけど、行動がともなってませんね」
呆れ顔のオルフェウス君とティア。
だけど、お師匠様は二人の言葉を聞いて顔を輝かせる。
「それはいい兆候だ! アロイスだった頃のランベルトなら、幼女……女の子を構うなんて有り得ないからな!」
そうですよ、お師匠様。
今の私は幼女ではなく少女です。
「なぁ、これが若い時の侯爵サマなら、放っておけば成長してユーリの『お父様』になるんじゃないか?」
「それは違う。彼にかかっている魔法陣は『逆成長』だ。体に直接刻まれた魔法陣は、常に彼の魔力を吸って『逆成長』させている」
「おい、それって……」
「お父様に抱きついた時の厚い胸板も、ひざ抱っこで驚異の安定感を誇る逞しい太ももも、年齢を重ねたことにより醸し出す色香も、全部なくなっちゃうってこと!?」
「そう、なる、かな?」
「お、おう、そうだな」
「ユーリちゃん、本当にお父様大好きっ子なのですね」
戸惑うお師匠様とオルフェウスの横で、あらあらうふふと微笑むティア。
そして膝にのせている私を、後ろからぎゅっと抱きしめるアロイス君。
「.……これじゃ、ダメか?」
俺じゃダメか、みたいなやつするのやめてー!!
発展途上の薄っぺらな筋肉量じゃ、ぜんぜん足りないのよー!!
さて。
すっかりポンコツになったお父様をどうにかすべく、私たちは色々な手段を試すことにした。
「とりあえずティア、傷跡みたいで痛そうだから、回復してもらうことはできる?」
「傷ならば効くとは思いますが……」
祈るように両手を組んだティア。
周囲が神聖な光に満ちたところで、お父様の背中にある魔法陣が消えていく。
「あの、アロイスさんはずっと上半身裸なのですか?」
「しょうがないの。魔法陣を確認しないとなんだから」
それに、あんな薄っぺらな筋肉を見て、誰が反応するってのよ。
検証するのは宿の部屋だし、別にいいと思うんだけど。
……あ、ティアの顔が赤い。ごめん、ティアは清純乙女なんだね。
「まさかティア……」
「違いますよ! 私の好みは、もっとずっと大人の男性ですから!」
「まさか……お父様!?」
「違います! もっと上です!」
ほほう。お父様より、もっと上ということは……。
「ユーリ、それはいいからアロイスを見てみろ」
お師匠様の言葉に、アロイス君を見てみれば……。
「……ここは?」
お腹に響くようなバリトンボイス。
鍛え抜かれた肉体に、バランス良くしっかりとついた筋肉。
立ち姿だけでも、体が震えるくらいに感じられる威厳。
そして、私を見るアイスブルーの瞳は……。
「あ、戻っちゃったか」
一瞬だけお父様の姿が見えたと思ったら、すぐアロイス君に戻ってしまった。
ぐぬぬ魔法陣め。(お師匠様作)
アロイス君の背中にある魔法陣は消える前と同じ、くっきりと出ている。ちくしょう。
「やはり、魔法陣は、傷じゃないということですね」
「それでも神官の回復魔法で、一瞬だが戻ったのは良いことだ」
部屋の中に広げている、たくさんの紙にメモをしているお師匠様。いらないメモはないというから、これをどう片付けたらいいのやら。
「ねぇねぇ、ティアは解呪の魔法できる?」
「できますが、魔法陣は呪いではないので効果はないかと。一応、試してみますね」
「そっかぁ」
がくりと肩を落とす私を、すかさずアロイス君が抱き上げて背中をぽんぽんしてくれる。
なんかもう疲れて寝ちゃいそう。何もしていないけど。
「あれ? そういえば、オルリーダーは?」
「魔法陣を無効にするアイテムがないか、情報を集めてもらっている。フェルザー家の影が動いているだろうし、ギルドに行けば情報を受け取れるってな」
「それじゃ、私たちは?」
「思いつく限り、アロイスがランベルトに戻れる手段をぶつけていくしかないな」
「思いつく限り……」
「この魔法陣で死ぬことはないだろうが……逆成長ってところが気にかかる。早くなんとかしないと、ランベルトどころかアロイスも危ないかもしれない」
な、なんだってーっ!?
そんなの絶対に嫌だ!! 嫌だよ!!
お父様のバカー!!!!!!!!!!
お読みいただき、ありがとうございます。
ポンコツお父様…




