56、若かりし頃の父を知る幼女
完・全・復・活!!
謎の薬(スムージー?)のおかげか、熱が下がり絶好調の私です。
魔法陣付きポンチョを身につけ、美女に変身した私に死角はない!!
……ごめんなさい、美女は言い過ぎました。
食堂の一階に移動した私たちが寛いでいると、入り口に派手な虹色が現れた。
「お師匠様!!」
「おう、戻ったぞ」
シュタタタッと駆け寄った私は、お師匠様の羽毛マントではなく、薄い胸板に飛び込むことになる。
「はうっ!」
「……土産がある」
ああ、お師匠様の羽毛マントにダイブする予定だったのに、無念。
なぜかアロイス君に抱き上げられ、流れるような動作でひざ抱っこ状態になる私。
そして、絶妙なタイミングで口に放り込まれる甘いお菓子。
もぐもぐおいしいなこれ。
「ユーリはペンドラゴンの弟子だったのか」
「あ、うん、そうだよ」
「なるほど。その魔力ならば納得だ」
「えへへ」
アロイス君はお師匠様を知っているんだね。お土産のお菓子おいしいですもぐもぐ。
私とアロイス君を交互に見たお師匠様は、こめかみに指をあてながら話し出す。
「お前ら、アロイスについてどこまで知っている?」
「槍が得意、フェルザー家の末席、侯爵サマにそっくり」
「無意識にユーリちゃんを甘やかすところも、侯爵様に似てますね」
オルフェウス君とティアが交互に言ってるけど、そんなにアロイス君とお父様は似ているかな? まぁ、似ているけどね。匂いもそっくりだし。
なぜ自分のことを言われているのか分からないアロイス君は、お師匠様たちの会話を流すことにしたみたい。ひたすら私の口にお菓子を運ぶ簡単なお仕事をしているもぐもぐ。
「アロイスを見て、違和感はないか?」
「さっきも話していたんだけどよ、コイツ、剣は使わないとか言ってたんだ。前は貴族は武器を選ばぬものだーとか言ってたのに」
「前とは、いつのことだ?」
「俺が侯爵家に雇われる前だな。そん時、何度か魔獣退治で一緒になった」
「私は今回の件で、初めてアロイスさんに会ったので、違和感は特にないですよ」
はいはい、私も初めてなので特に何もないですよもぐもぐ。
ただ、初顔合わせであまりにもお父様なのに知らない子扱いされて、ギャン泣きしたのは申し訳ないなって思ってますもぐもぐ。
このお菓子、いつまで食べていればいいのかな?
「アロイスと部屋は一緒か?」
「おう。公衆浴場も一緒に行ったぞ。前は頑なに断られたけどな」
「なるほどな」
そう言ったお師匠様は、私をひょいと抱き上げるとオルフェウス君に向け、ぽーんと投げ渡す。
くるくるシュタッとオルリーダーの膝に着地する私。いや、ひとりで座れますってばもぐもぐ。
「ちょっと失礼」
「もぐっ!?」
「きゃっ!!」
ちょっとお師匠様! レディたちの前でなんてことを!
突然上半身の服を脱がされたアロイス君は、無表情のままだけど目が丸くなっている。冷静沈着な彼も、さすがに驚いたみたい。
「ああ、背中にあったのか。魔法陣は」
「……何をする」
「お前、気づいてないのか?」
水の魔力を動かして鏡を作ったお師匠様は、もうひとつ鏡を作ってアロイス君自身の背中を映す。
そこにあったのは、まだ発展途上の背中の筋肉と、火傷のように刻まれた魔法陣だった。
ふたたび、宿のお部屋です。
今回はオルフェウス君とアロイス君の男子部屋にお邪魔しています。
え? 私が冷静ですって?
「おい、もう泣くなよ。アロイスは痛くないって言ってんだから。なぁ?」
「……うむ。痛くはない」
「でも、で、でもぉぉぉぉ」
泣いている私に、オルフェウス君とアロイス君が交互に撫でてくれる。
でもさ、あれさ、めっちゃ痛そうだったしさ。
すると、お師匠様が静かに私に話しかける。
「嬢ちゃん、あくまでも俺の考えだが聞くか?」
「う?」
「まず、アロイスはランベルトだ。ここまではいいか?」
「え、よくないよ。なんで……」
「なんで、嬢ちゃんのことを憶えてないのかって話だろう?」
「うん」
ティアに涙と鼻水を拭かれながら、私はお師匠様を見上げる。
お師匠様は皆をベッドに座らせると、魔法で黒板のようなものを作り出した。
「はい注目。混乱しつつあるから、俺の考えを整理するためにまとめるぞ。まず、アロイスの背中についているのは『逆成長の魔法陣』だ」
ティアが首を傾げる。
「ユーリちゃんがつけてる……ええと、成長の逆ということですか?」
「その通りだ。神官なら分かるだろう? 回復魔法と呼ばれるものに近い作用があるからな」
「若返る魔法陣じゃないのか?」
「そんなものはない。元々この魔法陣は『人間の体を最盛期にまで活性化させる』ものなんだ。それを俺が逆になるよう陣を作り変えた」
「は? それじゃ、アロイスは弱いってことか?」
「そうだ。ランベルトを逆に成長させないと、アロイスにはならない。あの男は常に最盛期だったからな」
「お師匠様、なんでアロイス君になったお父様は、私をおぼえてないの?」
「ここからは俺の考えになるが……魔法陣を人体に直接刻んだ例は過去にもある。それらは禁呪と呼ばれるものだ。なぜなら、何が起こるかわからない上に、解除する術が見つからないことがあるからだ」
「お父様は禁呪のせいで、記憶に影響が……?」
「もしや、弱体化というのは、記憶というよりも脳に影響があるということでしょうか?」
「かもな。あくまでも仮定の話だ」
考えながら言う私とティアに、真剣な顔で頷くお師匠様。
当人のアロイス君は、話を聞いているようだけど反応が見られない。これ、もしかしたら魔法陣の影響なのかな? お菓子の追加を持ってこようとして、オルフェウス君に止められているけど、もうお腹いっぱいだからいらないよ?
「俺はランベルトに依頼されて、マントに魔法陣を描いた。その後アロイスになったランベルトは、俺やフェルザー家の執事、それにオルフェウスと会っている」
魔法の黒板に、アロイスが記憶している人物、いない人物の名前が書いていく。
私の名前と一緒に、お兄様の名前も書かれていた。
「ヨハンお兄様も?」
「坊っちゃんは、アロイスの姿を見たことがないと言っていた」
次に黒板に書かれてたのは、若い頃のランベルトという項目だ。
「アロイスはランベルトの若い頃と同じ特徴がある。フェルザー家の末席で槍が得意、将来は英雄になるだろうって昔から領内では有名だった」
「「「昔から有名?」」」
一斉にアロイス君を見る私たち。
「お前たちが生まれる前になるか。ランベルト・フェルザーが、アロイス・フェルザーという名だった頃の話だ」
お読みいただき、ありがとうございます。
絶賛不具合発生中のお父様です。
次回、解決策を探ります。




