54、古典的な偽装をかます幼女
ドドン!!(大きめ和太鼓のイメージ)
目の前に、やたら派手な虹色髪の男が仁王立ちしている。
そしてめちゃくちゃ怖い顔をしている。
鬼や。ここに鬼がおるんや。
「ど、ど、どどどどちら様でしょうか」
「……本気で怒られる前に、謝っておけよ?」
「おししょ、ごめんなさいー!!」
隣町の宿屋にて、私は華麗なるスライディング土下座をした。
この状況下でも「あらあら」と笑顔でいるティアがすごい。
ちなみに、オルフェウス君とアロイス君は買い物に出ていて別行動だ。この醜態(土下座)を見られなくて良かった……。
「俺が毎日来れないからって、お前が屋敷を抜け出すのがバレないとでも思ったか」
「おかしいな。ちゃんと布団に魔法陣入りのクッション詰めておいたのに……」
「お前……身代わりの魔法陣を敷くのはいいが、供給する魔力の設定をしなかっただろう。お前が離れたことで、ただのクッションにしか見えなかったぞ」
「ええ!? そんなぁ……」
身代わりの魔法陣は、対象の人間そっくりの人形が現れるものだ。
戦いにおいて相手からの攻撃を身代わりに受けたりと、高度な技術を要するものなのだが……。
「あれ? そういえばおししょ、なんで私がユリアーナだって分かったの?」
「そのなりで、変装をしているつもりか?」
「今はモモンガさんもいないのに……」
目立つモモンガさんは、オルフェウス君たちと一緒に外出中だ。
宿屋で留守番するから安心して外出したのかと思ったら、もしやあの毛玉、この状況になることを気づいていたのでは?
モモンガさんという目印がなければ、私は美少女魔法使いユーリにしか見えないはず。なぜバレたのか。
「お前、それ本気で言っているのか?」
「ペンドラゴン様、ユーリちゃんは本気も本気、ド真面目の発言ですよ」
「そうかぁー、そうなのかぁー」
なんかよく分からないけど、馬鹿にされているというか、呆れられているような感じがするのは気のせいでしょうか。
「今のお前は、フェルザー家の影たちも付いていないって聞いたから、慌てて飛んできたんだぞ」
「うう、ごめんなさい。え? 影たち?」
「護衛はいらないって話をしていたが、どうも心配でな」
「同行者はティアと、オルリーダーと、アロイスさんがいるけど……」
「アロイスがいるのか? それならまぁ、心配はないだろうが」
ぶつぶつと、何やら呟いているお師匠様は置いといて。
そっか。アロイス君はフェルザー家の末席だから、お師匠様も知ってるのね。
ところで気になることが、ひとつ。
「あの、お父様は……」
「ランベルトか? いや、とりあえず嬢ちゃんの安否確認してから報告する予定だ。王宮に出ているみたいで、屋敷にはいなかったからな」
「……そですか」
「嬢ちゃんの護衛は、アロイスがいるなら大丈夫だろう。アイツは強いからな」
「確かに、すごい槍さばきだったかも」
「ん? 槍?」
お師匠様がふと顔を上げてティアを見れば、彼女もコクコク頷いている。
氷の魔法を槍にのせる、あの技はすごかった。私も魔力操作を頑張ったら、できるようになるかな?
「嬢ちゃん、俺は一度フェルザー家の屋敷に戻る。この宿から出るなよ」
「明日の朝までここにいるけど……」
「出発を引き延ばしておけ」
「えー!!」
そんなのは無理だと思ったけど、お師匠様の様子がピリッとしていて文句は言えない。
きっとアロイス君あたりから嫌な顔されそうだ。旅の疲れだとか言い訳して、部屋から出ないようにすれば何とかなる……かな?
「ユーリちゃん、私がリーダーとアロイスさんに話しておきますね」
「ありがとう。ティア」
今回の旅は、ティアの武者修行が目的だ。
その本人が「よし」としているのだから、きっと大丈夫……だよね?
夕方になって、本当に熱が出た。
「思った通りだ。しばらくは、この町で待機になるだろう」
そう言って、アロイス君は紙袋からガサゴソと何かを取り出している。
思った通り? 私が熱を出すことを予想してたの?
無言で何か作業をしているアロイス君の横で、オルフェウス君がティアに話しかけている。
「ティアは大丈夫か?」
「私はスケルトンの騒ぎの時に終えてますから」
終えている? 何を?
目で訴える私に気づいたのか、オルフェウス君が解説してくれる。
「魔獣を倒した時、奴らは魔素に還ることは知っているだろ? その時、戦闘に参加した人間が多量の魔素を取り込むことがある。初めて魔獣と戦闘をした人間に、よく出る症状だな」
「急激な体の成長に耐え切れないと、体調不良を起こすことがありますよ」
「体の成長? 私、大きくなるの?」
「あー……そうだな。大きくなるといいな」
明後日の方を向いたまま、私の頭をワシャワシャ撫でるオルフェウス君。
そしてさっきからアロイス君は何をやっているのか。なんかゴリゴリと不穏な音が聞こえてくるんですけど。
「これは生の素材じゃないと効かない。今すぐ飲め」
「なに、これ」
「熱だけでも下げておけ」
「いやだから、なんなのこれ」
カップの中身から漂う何ともいえない香り、そして水気の少ないドロッとした紫色の何か。
明らかにこれは飲むものではないと思う。むしろこれ、口から摂取するものじゃないでしょ絶対に。
「飲め」
「もがっ!?」
問答無用とばかりに鼻をつままれ、口を開いたところに謎液体を流し込まれる。
いやあああ誰かあああ……あ、あれ?
ちょっと青くさいだけで、まぁまぁいける感じ?
「ぷはぁ、もう一杯!」
「これ、一発で熱下がるんだけど、見た目がなぁ」
「アロイスさんが作れるとは驚きです」
「そうだよな。これ、村の婆ちゃんとかが作ってくれるやつだもんな」
……おばあちゃん?
なぜかまだゴリゴリやっているアロイス君を見たら、ふたたび紫のドロドロがたっぷり入っているカップを私に差し出している。
おかわり? いらないですよ。
いいですってもがっ!?
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