52、同じ色に乞う幼女
冒険者の仕事の多くは雑用が多いのだけど、まれに決算時の商会で会計の手伝いをしてくれなどという、頭脳プレーが必要になる時がある。
オルフェウス君は体力勝負な魔獣退治を主としていたけれど、貴族の護衛は知力も体力も必要とされるから、彼にとっては良い経験になったのではないだろうか。
「寝ぐせ、ついてんぞー」
たとえそれが幼女のお世話だったとしても。
いや、今の私は成人女性だ。
「きゅ、きゅ(主、諦めよ)」
成人しているもん! 二十歳こえてるって窓口のお姉さんに言ったらなかなか信用されなくて、なんとか十五歳で手を打ってもらったもん!
この世界の成人は十五なんだってさ! ちくしょう!
「毛玉、頭にのってるなら寝ぐせを押さえといてやれ。飯食ったら、もう一人が合流するからな」
宿の一階は朝昼は食堂、夜は酒場になっている。
夜に降りようとしたらティアに「お子様はダメです!」と怒られた。
だからこの姿の私は成人していると以下略。
朝ごはんはパンとスープとベーコンエッグだ。
スープが野菜たっぷりなので、それなりに栄養バランスがとれている。
そして美味しい。特に焼きたてパンが外はカリッと中はもっちりで、バターをつけてもきゅもきゅ食べる。途中からベリージャムに変更してもきゅもきゅ。
食欲旺盛な私の口元を拭きながら、オルフェウス君がこれからのことを話す。
「ティアはともかく、お前は魔獣と戦ったことはないだろうから、最初は俺らの動きを見ることに徹しろ。町周辺なら二人でいけるからな」
「え!? ティアも戦うの!?」
「私は戦棍を持っていますが、もう一人いるので補助と回復を担当しますよ」
「あ、そっか。びっくりした」
「もちろん、あの父に仕込まれたので、それなりに戦えますけれど」
笑顔で力こぶを作るティアは、たゆんとさせながら物騒なことを言っている。
あの父とは……マッチョオネエ神官か。
「もう一人は、どこで合流するの?」
「準備がうまくいけば、もうすぐ来るだろうな」
「前衛ですよね。武器は何ですか?」
「俺が剣を使うから、槍にするってさ」
「ということは、剣も使えるのですね。すごいです」
「器用なだけだって言ってたけどな」
ふーん。
あれ、ちょっと待って。
オルフェウス君の幼馴染み、イザベラちゃんはどうなった? 冒険者に戻ったんじゃないの?
「もう一人って、女の子じゃないの?」
「いや、男だ」
むむ、おかしいぞ。私の小説だとオルフェウス君はラブコメなハーレム主人公だったはず。
野菜たっぷりスープにはふはふしていると、ティアが水を持ってきてくれた。気づくと二人の食事は終わっていて、私ひとり食べるのが遅い。
もしや、冒険者たるもの早食いは必須スキルか。
「ちゃんと噛んで、ゆっくり食べろ。大きくなれねぇぞ」
ぐぬぬお子様扱いしよってからに!
「きゅ、きゅ(だから諦めよ、主)」
ぐぬぬ。
食後のお茶を楽しんでいると、宿のドアが開いた。
自然と視線が向かうその先に見えたのは、陽光に煌く銀色。
氷のように冷たい視線。
美しく整ったその顔にあるのは、大好きなアイスブルーの瞳。
銀色の髪は珍しいけれど、フェルザー家だけじゃない。
でも、この氷の魔力の気配は、明らかにお父様と同じ血だと思う。
驚いて固まっている私に視線を向けた彼は、無表情のままオルフェウス君に問いかける。
「オル、今回は子どものお守りも依頼に入っているのか?」
「信じられねぇかもだけど、こう見えて成人してんだってよ」
「……ベル、とうさま?」
違う。
お父様よりも背が低いし、細身だ。
顔も中性的だし、何よりも目が全く違う。
同じ色をしているのに、私を見るその目は……。
「アロイスだ。そちらは神官か?」
「はい。ティアと呼んでください」
「そうか。回復役がいるのはありがたい。オルと二人だと、回復薬を多めに持つから荷が重くなるからな」
「それも修行の内だろ?」
呆然としている私を置いて、どんどん話が進んでいく。
え、ちょっと待って。
「あの! はじめまして! 私はユーリです!」
「……オル、本当に連れて行くのか?」
「一応、お前の意見を聞いてからってことにしてある」
「却下だ」
ため息を吐いて銀色の髪をかきあげた彼は、濃い青色のフード付きマントを羽織ると立ち上がる。
「行くぞ」
「まぁ、待てよ。子どもに見えるだろうけど、魔力の高さは結構なもんだぞ? 後衛に魔法使いがいれば、かなり楽になる」
「却下だと言っている」
射抜くような冷たい目で見られ、思わず息を飲む。
お父様と同じ色で、そんな風に見られるのは、とても、とてもツライ。
「ユーリちゃん、大丈夫?」
「う?」
ティアがハンカチを頬にあててくれて、初めて自分が泣いていることに気づいた。
おかしいなぁ。
心はもう、いい大人なんだけどなぁ。
「アロイス、お前なぁ、殺気出して子どもを泣かすとか最低だぞ」
「何だと? お前が成人していると言ったからだろう」
「アロイスさん、さすがに小さい子を泣かすのは、年長者としてどうかと思いますよ」
「いやだから、成人をしていると」
「う、ふひぇ、ふにゃああああああああああああ!!」
「ああ泣いちまった! ユーリ、ほら、大丈夫だ。アロイスはこう見えて、子ども大好きなんだ!」
「オル、それは初めて聞いたのだが……」
「にゃあああああああああ!!」
「ほら抱っこだ! 抱っこしてもらえ!」
「ユーリちゃん、よかったですねー。アロイスさんの抱っこですよー」
「だからなぜ……」
昨日の夜から続くホームシックからの、お父様そっくりの目で冷たくされるというダブルパンチ。
私の涙腺は崩壊し、嗚咽が止まらない。
すると。
ふわりと体が浮いて、いい匂いがするあたたかいものに包まれた。
ピタリと止まる涙と嗚咽。
「おお、さすが侯爵サマの血筋」
「あらあら、似ていると思いましたが、侯爵様のご親戚の方ですか?」
「……末席だがな」
ぎこちなく抱いている彼の不満げな様子に、オルフェウス君は何やら納得したように頷く。
「じゃ、アロイスはユーリのお世話係に決定ってことで」
「なぜに!?」
「大丈夫ですよ。こうして誰もが初めてを経験するのですから」
「なにを!?」
騒ぐアロイス君の、まだ薄い胸板をペチペチと叩く私。
「ふぇ、ぐし、よろしく、お願いしましゅ。アロイスしゃん」
「……ぐっ」
少女になったのに噛んだ。
でも、アロイス君が無言でうなずいてくれたよ。
やったね!(涙と鼻水にまみれながら)
お読みいただき、ありがとうございます。
ユリアーナの勝利!です。




