51、だってまだ幼女だもの
秒で身バレした件。
「なぜ、バレたのか」
「モモンガを頭にのせた幼女が、モモンガを頭にのせた少女になっただけで、なぜバレないと思ったんだ?」
「オルさん、これでもユリ……ユーリちゃんは一生懸命に変装したのですから……」
ティアが「授業参観で成長した自分を見てほしい子を持つ親」みたいな目で私を見ている!! ぐぬぬ!!
「ほら、またベリーで口のまわりが真っ赤になってんぞ?」
あ、お手数おかけします。
私の護衛をしていた経験からか、細やかな気配りをしてくれるオルフェウス君。
おかしいなぁ。
今の体は、だいぶ成長しているからバレないと思ったんだけどなぁ。
すると、頭でモフっとしたものから前足でテシテシ叩いてくる。イタタ、痛いですよモモンガさん。
「きゅっ!(成長した主の外見はそのままである!)」
なんですと!?
そういえば前世の成人式で、私を見た元クラスメイトたちは皆「由梨ちゃん変わらないね!」なとど声をかけられたっけ。
反対に、私は元クラスメイトたちの顔と名前がほとんど一致しなかったんですけど。どゆこと?
友人の大人メイクと、私の七五三メイクとの対比に泣いたあの日のことを、今この瞬間に思い出しちゃったよ。ちくしょう。
前世はともかく。
「もういいよ。それで? 私を旅に連れて行ってくれるの?」
「その前に、話を聞く」
カウンターにいる店員のお姉さんに追加注文をしたオルフェウス君は、オーダーが揃ったところで姿勢を正す。
久しぶりに会ったティアは、例の大量発生した魔獣の後処理で私の事情は知らない。だからお父様に再婚の話が来たところから話すことにした。
「つまりユーリちゃんは、お父様と新しいお母様が一緒にいるのを見たくなかった、ということですか?」
「うん、それもそうなんだけど……なんか、あの家に私がいたらいけないのかなって、思っちゃったの」
「逆に侯爵サマは、お嬢様が居ないとポンコツになりそうだけどなぁ」
「お父様は完璧だから、きっと私のことが邪魔になる時がくる。それは分かっていたの」
「おい、俺の意見は無視かよ」
オルフェウス君の声は聞こえているけど、有り得ないから却下の方向で。
「ユーリちゃんのお父様、今ごろ心配していると思いますよ?」
「そうかなぁ」
いや、心配はするとは思う。でも、なんだろう、このモヤモヤした気持ち。
大声で泣き出したいような、叫び出したいような。
「うー!!」
「なんだなんだ? 腹でも痛いのか?」
「ユーリちゃん、大丈夫?」
「だいじょばない!!」
言葉にならないモヤモヤをどうにかしたくて、手足をジタバタ動かしていたところ、オルフェウス君が大きく息を吐いた。
「わかった。旅に連れて行く」
「ほんと!?」
「ただし、明日合流するヤツが許可したらだぞ」
「わかった! ありがとうオル様!」
「オルでいい」
「じゃあ、ありがとうリーダー!」
「うふふ、ユーリちゃん、リーダーの許しが出てよかったですね」
「ああもう、どうとでも呼べ」
やったねリーダー♪ 我らがリーダー♪
ご機嫌で鼻歌を歌っていたら、二人から慌てて止められた。
他のお客さんに迷惑になるからって。おっといけない、レディなのに公衆の面前で、失礼しました。
宿屋はオルフェウス君が一人部屋で、私とティアが二人部屋だ。
長々と話していたら、すっかり日が暮れてしまったのは申し訳ないと思っている。
「気にしなくても大丈夫ですよ。旅の準備はできていましたから」
「よかったー」
「え!? ユリちゃん!?」
フード付きポンチョを脱いだ私を見て、ティアが驚いている。
成長した姿になる魔法陣はフードに付けているので、脱いだら幼女に戻ってしまうのだ。
「たまに、もとにもどらないと、からだにふたんがかかるの」
「ユリちゃん……それ、どのみちバレる流れでしたよね……」
「いざとなったら、モモンガさんになんとかしてもらう、よていだったから」
「きゅ……(主、無計画がすぎるぞ……)」
呆れたモモンガさんに、今日何度目かの頭テシテシされてしまう。
部屋は二つのベッドと、小さなテーブルに椅子が二つ。
窓にはカーテンがかかっているけど、寝る時は板を落とすように言われている。
壁紙や絨毯など無い、木造そのままの内装だ。ログハウスみたいでテンション上がる。
「ユリちゃんは、こういう場所に泊まるのは初めて?」
「ん、すごくうれしい。おとまりかいみたいだから」
「オトマリカイ?」
「ともだちと、いっしょにあそんで、ねること」
そう言いながら、ティアのベッドにぼふんと乗ればたゆんと揺れる。
おおすごい。ぼふんぼふん、たゆんたゆんだ。
「楽しそうですね、オトマリカイ。では今やってみましょうか」
「じゃあ、こいばなしよう! ティアは、すきなひといる?」
「え!? す、好きな人!? なんですか急に!!」
「おとまりかいといえば、こいばな。ティアのすきなひとは、やっぱりリーダー?」
「違いますっ……じゃなくて、私はまだ修行中の身なので、恋とかそのようなものは、その、あの……」
あれ? オルフェウス君じゃないの?
作者が言うのもなんだけど、将来有望な男子だよ?
なんたって主人公だし。
「できれば、あの、もっと細身の殿方が……」
「えー、おとうさまみたいに、もっときんにくあったほうがいいとおもうー」
文官なのに鍛えていて、しっかりとした筋肉のついている、お父様みたいな人がいいと思うけどなぁ。
「きゅきゅ(主は氷のを基準に男を選ぶか)」
こういう時ばっかり心を読むね、モモンガさん。
「きゅ!きゅ!(心を読んでおらぬ!口に出しておっただろう!)」
あれ? そうだっけ?
これはいけない。心の声が外に出ているのは危険だ。
「ユリちゃんは、本当にフェルザー様が好きなのね」
「ええ!? ティア、こころがよめるの!?」
「うふふ、顔に出ていますよ」
「えー!?」
いや、確かに好きだけど! 好きだけどさ!
面と向かって言われると照れてしまいますし!
うーん、こんなんで私、旅に出れるのかなぁ……。
昨日も今日も、お父様に「おやすみのチュー」してないなぁとかさ、もうホームシックになってるの早くない?
お読みいただき、ありがとうございます。
感想欄、あたたかいお言葉に感謝です(*´꒳`*)やさしさが身に染みる…




