50、幼女は少女へ
モヤモヤからちょっと抜けます。
そこから先は、よく覚えていない。
幼女の私が会話に参加しないことは普通だし、お兄様は心配そうに見ていたけれど「大丈夫」と笑顔で返すことができたと思う。たぶん。
「きゅ……(主……)」
「だいじょうぶだよ、モモンガさん。ちょっと、おどろいただけ」
アデリナ様の話に興味を抱いたのか、お父様は私の変化に気づいていなかった。
しょうがないと思う。だって、すごくお父様にとって有意義な時間だったから。
政治や経済の話で場は盛り上がり、女性でありながら多くの知識を持つアデリナ様の独壇場と化したのだ。
さらに彼女は他国の情報も多く持っていた。後宮での生活を情報収集に費やしたとのこと。
「お嬢様、ちょっといいか?」
「……どうぞ」
「おお、すんげーことになってんな」
お気づきだろうか。
今の私は毛布だけではない。布という布に巻かれている状態なのだ。
「おきになさらず」
「いや気にするだろ。まぁ、原因は侯爵サマなんだろうけど」
「ぐぬぬ」
かろうじて出ている頭を優しく撫でてくれるオルフェウス君。
やめて。優しくされたら泣いちゃうから。
「泣くなよ」
「ないてない」
「大好きなお父様の再婚に、微妙な気持ちになるのはわかるけどよ」
「わかるわけがない」
「そうだな、俺には分かんねーよ」
「ごめんなさい。やつあたり」
「子どもなんだから気にすんな。それより、こんな時に悪いんだけど、そろそろ冒険者に戻ることになった」
「え?」
簀巻き状態の私はコロコロ転がり、慌てて脱出する。
「神官のティアが旅に出て武者修行するって話でさ。ちょうどいいから、パーティー組んで旅に出ることになった」
「ふたりきりで!?」
「いや、あと何人か加える予定だ」
あらら、小説ではイザベラちゃんが前衛で入っていたはずだけど、名前が出ないってことは外されたのかな? お披露目会のこともあったからね。
なるほど。それならば……。
「おやしきは、いつでるの?」
「急だけど明日には出る。準備もあるし、信用できる人材を確保しないとだからな」
「ふむふむ」
頭の中で、あれこれ組み立てていく私。
さっきまでモヤモヤしていたけれど、それはそれとして置いておくことにする。
それよりも今は、この思いつきに集中だ。
「長くはかからないと思う。帰ってきたら、また遊びにきてやるよ」
「わかった。オルさま、ごえいのおしごと、おつかれさまでした」
「おう。こっちも世話になった。ありがとうな、お嬢様」
オルフェウス君が護衛から外れるということは、お師匠様が来てくれるのだろう。
よし、動くのは明日以降だ。
「きゅきゅ……(主、よからぬことを……)」
「ねるよ! モモンガさん!」
そう。そうだよ。
ここは私の小説とよく似た世界なのだから、多少違っていても「物語の大筋」を変えるべきではないのだ。
翌日、予想どおりお師匠様がきてくれた。
それでも鳥の奥さんから長く離れられないとのことで、昼間だけお屋敷で勉強を教えてくれるとのことだ。
「おししょ、おひさしぶりです」
「嬢ちゃん大丈夫か? ランベルトが嬢ちゃんの元気がないから、急いで来いって言うからさぁ」
「だいじょうぶです」
そう言いながらも、私の顔色は悪い。
マーサとリーリアに心配されながら朝の支度を終えて、朝食も少ししかとれなかったからしょうがないよね。
お父様とお兄様は朝早くにお屋敷を出ていて、セバスさんから「お嬢様のことを逐一報告するように申し付けられております」とため息まじりに言われた。なんかすみません。
「おししょ、たいちょうがわるいので、へやでやすみます」
「そうだな。俺は屋敷内にいるから、ちゃんと休んでおけよ」
「はい」
書庫で数冊本を借りて、部屋に引きこもることにした私を、お師匠様は苦笑しながら見送ってくれた。
きっと、昨日のお茶会の話をセバスさんあたりから聞いたのだろう。
「ちょっと、はずかしい」
「きゅ?(何がだ?)」
「だだこねてる、こどもみたい」
「きゅーきゅ?(主は子どもであろう?)」
「そりゃそうなんだけど」
具合の悪い……ということになっている私は、寝巻き姿のままベッドの上で座り込む。
書庫から持ってきた本の中から、一冊を開く。
「これ、できる?」
「きゅきゅ(精霊に関するものか)」
私の肩から本の上に降りたモモンガさんは、文字の上をくるくる回る。かわいい。
「わたしにも、できる?」
「きゅきゅ!(我の力をかせば、たやすいことよ!)」
モモンガさんの力強い言葉を受けて、外出用のポンチョを取り出すと、布に焼き付けるイメージで魔法陣を構築していく。
「モモンガさん、よろしくー」
「きゅ!(我に任せよ!)」
魔法陣を描いたり、モモンガさんが力を使うのは大きなものではない。
それでもお師匠様が変に思わないよう、動いた魔力を外へ流している。イメージは空気清浄機だ。
「じかん、かかりそう?」
「きゅきゅ(我は大きな力を使えぬ。しばし待て)」
「わかった」
それならばと、私は他の準備にとりかかる。
ブーツやリュック、洋服などに魔法陣を描いて、使い勝手の良いものにしていく。
小一時間くらい作業をしていると、モモンガさんがフワッと浮いて私の肩に乗ってきた。
「きゅ!(できたぞ!)」
「ありがとう、モモンガさん!」
さっそく緑色のポンチョを身につけると、魔法陣が作動して私の体を変化させる。
周りの景色がぐいっと下になって、ゆったりとした寝巻きがきつくなるのを感じて慌てて脱ぐ。
「きゅきゅ!(主が幼女から少女に!)」
「え? 少女?」
モモンガさんの言葉に鏡を見れば、そこに居たのは蜂蜜色の髪とアメジストの瞳を持つ美……少女?
「あれ? なんで? 美女になる予定だったのに?」
本にある魔法陣は、姿変えの魔法がかかるものだ。
二十年後の姿になるよう設定したはずなのに……。
「これが……私?」
「きゅきゅ(主は魔力が高い。成長が遅いのであろうな)」
中学生……いや、小学生と言われてもおかしくはない。
かわいいよ! かわいいんだけど!
「これ以上は無理?」
「きゅー(主の体に負担がかかりすぎる)」
「ま、いっか。これはこれで可愛いし♪」
「きゅ♪(うむ♪)」
よし、これで準備万端だ。
ごめんなさい、お父様。
ユリアーナは逃げ……旅に出ることにします!!
お読みいただき、ありがとうございます。
大きくなりたい人生でした(どこがとは言わない)




