4、ご褒美の甘味が甘すぎる!
パン粥からパンとスープと小さな鶏肉が付くようになりました。
どうも、ユリアーナです。たぶん4才です。
デザートはリンゴです。食べ物の名前は面倒だったので、同じ世界のものにしています。
でも、納豆はありません。
ファンタジーに和食は似合わないよね!とか言ってた自分を殴ってやりたいけど、痛いので脳内でやっておきます。お仕置きだべ。
「今日からお嬢様のお世話をする、娘のリーリアです」
「よろしくお願いします! お嬢様!」
マーサそっくりのチョコレート色の髪と薄茶色の目を持つリーリアは、可愛らしくペコリとお辞儀をした。
「マーサ、どこかいっちゃうの?」
私の言葉に、マーサは困ったような笑顔で首を振る。
「いいえ、年の近い娘を側に置くようにと、旦那様からのご命令なのですよ」
私がろくに食事も摂れず、母親から監禁されていたことは、マーサも関与していたことだ。でも、マーサが私を生かしてくれていたのも事実で、セバスには何度も「マーサに助けてもらった」とアピールした。だから、実際に罰は受けないだろうと思われる。
もしかしたら、これが罰なのだろうか。
「侍女の他に、護衛として侍従も加えるとのことです。お嬢様には数名付く予定なので、彼らのまとめ役をすることになったのですよ」
「おか……侍女長、お嬢様に難しいことは分からないのでは?」
「リーリア、おぼえておきなさい。ユリアーナお嬢様は高い魔力をお持ちです。すなわち、知力の高さを意味しています。大人の会話はほぼ理解されていると思いますよ」
「お嬢様はすごい方なのですね!」
いや、確かに魔力は高いし、中身はアラサーだから大人寄りの思考を持っているけれど、知力が高いっていうのは違うと思うよ。
でも魔力の高さイコール知力というのはあながち間違いではなく、この世界では一つの目安となっている。
のちに師匠になる(設定の)宮廷魔法使いも、王都の学園をスキップで卒業した(という設定だ)からね。
そうそう。魔力暴走はよほどの潜在能力がないと起こらない出来事らしい。
ちゃんと魔法を習ってコントロールできるまでと、宮廷魔法使いのペンドラゴン師匠(仮)から魔力制御の腕輪を付けられた。
再発は滅多にないらしいけれど、もしまた暴走しそうな時は自動で腕輪の石に魔力が吸われるらしい。ふぉぉ、ハイテクだぁ。
ん? ちょっと待てよ?
さっきマーサが「護衛の侍従とかを数名つける」とか言ってなかった?
「じじゅう? マーサとリーリアだけじゃないの?」
「はい。旦那様がお嬢様のことをいたくご心配されておりまして、屋敷の警備も増員するとのことですよ」
よく分からんけど魔力暴走する幼女は危険だろう。それにもしかしたら、愛の逃避行(笑)をしでかした母親みたいになったら困るとか。
お父様が決めたことなら文句はないし、家人が増えることはユリアーナにとって問題はないだろう。たぶん。
「さぁ、お薬の時間ですよ」
「うう、おくすり」
「がんばってください! お嬢様!」
傷も癒され、痛み止めを飲まなくてよくなった。お薬卒業かと思いきや、栄養不足だった私の体はとにかく弱かった。弱々しく細く白かった。
風邪など他の病気にならないよう、漢方が処方されたのだ。そしてこれまた凄まじく苦い。脳髄を突き抜ける苦さに悶絶する毎日だ。
子どもの舌は敏感だから、本当に辛いようおうおう。
ハチミツが少し用意されているけれど、薬を飲んでしばらく我慢してから飲まないと甘さが感じられないのだ。ハチミツと薬を一緒に飲むわけにはいかない。ぐぬぬ。
お盆にのせられた水と薬を前にしてベッドの上で深呼吸をしていると、部屋のドアが開く。
許可なく開くということは、この家の主であるということだ。
「ユリアーナ、食事は終わったか?」
「はい」
背すじを伸ばして返事をすると、お父様はなんともいえない複雑な表情を浮かべてマーサを見る。
「まだ薬を飲んでいるのか?」
「体重が増えるまで、漢方を飲むようお医者様から言われております」
「そうか」
リーリアがベッドの側に椅子を用意すると、そこに座ったお父様は私をジッと見る。
アイスブルーの瞳で、まるで誰かを射殺すような視線を送ってくるお父様。マーサとリーリアは心配そうに私を見ているけど、お父様の威圧感や殺気みたいなものは特に気にならない。
なぜならば私は、好みどストライクな外見のお父様を「好意」だけで見ているからだ。
今も指先がわずかに動いているところを見ると、私のことを心配してくれているのだろう。たぶんだけど。
だって嫌いだったら部屋に来るわけがない。それくらい中身がアラサーじゃなくても分かる答えだよ。ふふん。
さて。お父様が見守ってくれているのだから、ちゃんとお薬飲まないとね。
えいや!!
ぐおお、にがいい、おみずうう!!
お水だけじゃ消えない苦味に、涙がポロポロ出てしまう。我慢できなくてごめんなさいお父様!!
「ユリアーナ、口を開けなさい」
「むぐぐ?」
「ほら、あーん」
あーん!?
思ってもみないお父様の発言に思わずパカリと口を開くと、その瞬間を狙って誰かに何かを口に入れられた。
サクッとした歯ざわりに、ふわんと広がる甘さ。そして一瞬でシュワっと溶けてしまう。
「王都で話題になっている菓子だ。マカロンというらしい」
「まかりょん……」
「ぐっ、げほ、そうだ。セバスが薬をちゃんと飲んでいるユリアーナに褒美をと言っていたから、取り寄せたのだよ」
あまりの美味しさに噛んでしまったけど、お父様は二個目も差し出してくるので、そのままパクリといただく。
恥ずかしいけど、幼女にあるあるのシチュエーションだよね。
もぐもぐ口を動かしていたら、よしよしと頭を撫でてもらった。
ええ? いいの? イケメンにこんなんされちゃっていいの?
「このような行為も褒美になると、セバスが教えてくれた」
マジすか! 神様セバス様! マジ感謝っす!
頭を撫でてもらった私は、すっかり薬の苦さを忘れてしまう。
口の中では、マカロンの甘さがさらに広がっていくばかりで、とどまることをしらないあしたのことはわからない。
「ありがと、ございましゅ」
「うむ」
また噛んだ! でもなぜかもっと撫でられたから良しとしよう!
お読みいただき、ありがとうございます!
このまま書いていてよいのか不安になるやつ。