49、もやもやする幼女
読むと、もやもやするかもです。
2話ほど更新を待っていただければ、スッキリすると思われます。
早く更新できるよう、がんばります…!!
お茶会の当日。
とうとうこの日が来てしまったと、がっくり肩を落とす私。
「ああ、どうしよう……」
「大丈夫ですよ。お嬢様はお可愛らしいですから、きっと先方のご令嬢もお気に召されるでしょう」
「そうじゃなくて……」
いや、マーサの言っていることは間違ってはいない。
こういう「お見合い」のような場では、よほどの事がない限り相手に好印象を与えることが重要なのだ。
アデリナ様は公爵令嬢であり、他国の後宮に入るはずだった妹に自分の婚約者を譲って、自らが代わりを勤めたという気高き女性だ。
まぁ、妙な性癖を持っているけど悪い人ではない。……と、思う。たぶん。
「もし、旦那様がアデリナ様を娶られるのでしたら、とても良いことだと思いますよ」
「むぅ……」
胸の中がもやもやする。
ちょっとバターのききすぎたパンをたくさん食べた時みたいな、何ともいえない気持ちになる。
これはもしや……胃もたれか?
「ユリアーナ、準備は?」
「おにいさまー」
もやもやしている中、ちょうどいいタイミングで迎えに来たお兄様に、ぽてぽてと走っていってしがみついた。
お父様譲りの無表情美少年なお兄様だけど、優しく私を抱きしめて背中をぽんぽんと軽くたたいてくれる。
「どうした?」
「おにいさま、おとうさまは、けっこんするの?」
「それは父上の御心次第だ……しかし、今は……」
難しい顔をして黙り込むお兄様に、さらに問いかけようとしたところ、セバスさんから声をかけられる。
「お客様が来られました。出迎えるようにと、旦那様が」
「わかった。……ユリアーナ」
「あい」
気の進まないのを察したのか、お兄様は私を抱き上げて玄関へと向かう。
すらりとした夜色の髪を持つ女性と話していたお父様が、こちらを振り向いて優しげに目を細める。
今日の私は空色のワンピースとエメラルドグリーンのリボンをしていて、お父様とお兄様の色を身につけているからね。
お父様とお兄様からのプレゼントなのだよ。えへへ。
「ふたりとも、挨拶を」
「はじめまして。ヨハン・フェルザーです」
「ユリアーナ・フェルザーです」
お兄様が優雅に一礼する横で、少しぐらつきながらカーテシーをする私。
まだお子様だから頭が重いので許してほしい。ぐらぐら。
「はじめまして。アデリナ・バルツァーと申します。本日はお茶会へのご招待……無理を聞いていただき感謝いたしますわ」
淑女とは、きっとこういう女性なのだろう。
紺色のドレスに白のレースがよく映えていて、シンプルに見えるけどデザインはとても可愛らしい。センスいいなぐぬぬ。
でも、隠密行動の時は、もっとふんわりした素材のドレスを着ていたよね。
シンプルなデザインにしたのは、やっぱり「出戻り」だからかなぁ。
そう考えると同情しちゃう。中身変態だけど。
少し靴のかかとが高いせいか、ぐらぐら歩いていたらお父様に抱っこされてしまった。
アデリナ様は微笑みを浮かべているから、失礼にはならない……と、思いたい。
お茶会の場所は、フェルザー家自慢の庭園だった。
石畳みのデコボコした小道を歩くから、お父様抱っこのおかげで転ばずにすんだよ。
庭師さん(セバス一門の隠密さん)たちが丹精込めて世話をしている庭園だ。季節の花が咲き乱れていて、とても美しい。
「さすがフェルザー侯爵家ですわね。このお茶もとても美味しゅうございます」
アデリナ様の言葉に、一礼するセバスさん。
「これも、甘すぎず果物がたくさんのっていて、女性に嬉しいタルトですわね」
アデリナ様の言葉に、一礼するマーサと料理長。
「ところで……」
うん。分かるよ。
さっきから無言でお茶を飲んでいる、お父様とお兄様のことだよね。
私も何がどうなっているのか分からないんだ。正直、すまん。
「あの、ユリアーナ様は、いつもこうですの?」
優雅に小首を傾げるアデリナ様に、私もこてりと首を傾げてみせる。
うん。だって、私にも分からないからね。
「ほらユリアーナ、お前の好きな果物だ」
「ユリアーナ、ほら、ケーキも」
お父様のしっかりと鍛えられた筋肉を感じる太腿、そこにちょこんと座っている私は、口を大きくあけて左右からやってくる果物やケーキを頬張っている。
アデリナ様に返事ができなかったのは、口をもぐもぐさせるのに忙しいからだ。無視をしているわけではないよ。
「ユリアーナ、口にクリームがついている」
そう言ってクリームを拭ったその指を、ペロリと舐めるお父様。
頬にかかる髪を、そっと耳にかけてくれるお兄様。
氷の侯爵親子がやたら私に構ってくると思うでしょう?
ごめんなさいアデリナ様。これ、通常モードです。
「まさか、今日もこれをやるとはなぁ……」
「きゅきゅ(今日も主は愛されておる)」
ちょっと後ろの護衛(オルフェウス君)と小動物!!
聞こえてますよ!!
「まぁ、これは想定外でしたが、よろしいですわ。そろそろ本題に入りましょうか」
目の前でここまでイチャイチャされながらも、微笑みを絶やさないアデリナ様はすごいな。
そして、本題ってなんぞ?
「今回、叔父様……陛下に無理を言ってまで、この場を設けていただいたのには理由がございます」
「……ふむ。聞こうか」
あ、やっとお父様がアデリナ様に反応した。
「現在、王宮でのフェルザー侯爵様は、とても動きづらそうだと父から聞いております。違う意味での国の重石となっている、貴族たちのせいだと」
「……それが?」
「形だけの婚姻でも良いのです。バルツァー公爵家との繋がりがあれば、フェルザー侯爵様の大きな助けになると思いますのよ」
「……ほう、それで? 貴女に何の益があると?」
お父様が興味を持つ話題を提供できたからか、アデリナ様は艶やかに笑む。
それは女の私から見ても、思わず見惚れてしまう魅力的な笑顔だ。
「もちろん。氷の侯爵様に嫁ぐこと、それだけですわ」
真っすぐなアデリナ様の言葉に、私の中にあるもやもやが一気に大きくなった。
やばい。
なんかもう、逃げたい。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回ユリアーナ、逃げます!