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46、巻かれる幼女


「ユリアーナお嬢様、これはあくまでも……」


「セバシュ、おきゃくさまがいるので、おへやにもどります」


「さようでございますか。今、護衛を呼びます」


「だいじょうぶです。セバシュは、おきゃくさまのところへ」


「……かしこまりました」


 気遣わしげな様子のセバスさんだけど、私の言葉でお客様への対応を優先させることにしたようだ。

 そして、フラフラとした足どりで部屋に戻った私は、そのままぽふころりんとベッドの上に寝転がる。


「おとうさま、さいこん」


 再婚。

 そうか。そうだよね。


 自慢でしかないけれど、お父様……ランベルト・フェルザーはモテる。

 氷の侯爵なんて呼ばれているけれど、この国のトップである国王陛下のおぼえもめでたく、役職は文官ではあるが実際は「宰相っぽい」立ち位置にいる。

 なぜ「宰相っぽい」かというと、そういう役職名が無いからだ。一人の文官に権力を集中させないというシステムみたい。たぶん。


 話を戻そう。


 お父様はモテる。

 だから、再婚の話も今回だけではないと思う。

 そこは納得している。しているがしかし。


「お嬢様、寝る前の挨拶……って、どうした!?」


「きゅ……(主……)」


 ベッドのうえでコロコロと転がっていた私は、毛布を巻き込んだまま床に落ち、そのまま思考の海へと沈んだままだった。

 そして現在の精神状態も、ユリアーナ人生最大級の落ち込みを記録している。


「モモンガさん、しってたのね」


「きゅ、きゅ。きゅきゅきゅ(すまぬ、主。氷のが断っていたし、大事ないと思っていたのだ)」


 風の精霊たちから情報を集めていたモモンガさんが、この件を知らないわけがない。

 事情が分からないだろうオルフェウス君は、ただならぬ空気の中で静かに私を見ている。


「オルさま」


「なんだ?」


「いつ、ここをでるの?」


「俺に出て行って欲しいのか?」


「ちがう。でも、ゆうのうなぼうけんしゃには、まじゅうをたくさんたいじしてほしい」


「……なるほどな。お嬢様は、良くも悪くも貴族だ」


「ごめん」


「謝る必要はねぇよ。セバス師匠から、侯爵サマが王宮に泊まり込んでたのは、魔獣が大発生したせいだと聞いたからな。お嬢様がそう考えるのも無理はない」


「ちがうの。そうじゃ、ないの」


 毛布に包まり簀巻き状態の私を、抱き上げてくれるオルフェウス君。そのまま優しくベッドに戻してくれる。

 ありがとう、オルフェウス君。

 あ、簀巻きはそのままにしておいてください。なんかこれ、落ち着くので。


「貴族的な考えとは違うのか?」


「うん。これは、わたしのわがままなの」


「わがままねぇ……。ま、いいけどよ。俺の修行は今月いっぱいで終わるぜ。あとは自力で頑張るしかないって、セバス師匠が言ってたからな」


「りょうかいです」


 悩みがあるなら相談にのるぞって言い残し、オルフェウス君は部屋を出た。

 すると、私の頬にモフモフしたものが寄り添ってくれる。


「きゅ、きゅ?(主、どうする?)」


「なにも」


 そう、まだ何も決まっていないのだから。

 私が動く理由はない……はず。







「父上が茶会を開く、ですか?」


「そうだ」


 眉間にシワをこれでもかとばかりに深くしているお父様。

 鳩が豆鉄砲を食らったといった様子のお兄様。

 そして、チーズタルトの固い部分と格闘するユリアーナ

 スッと横から現れたセバスさんが、タルトを一口大に切り分けて再び姿を消す。ありがとう、さすセバ。


「理由をお聞きしても?」


「バルツァー家のご令嬢をお招きする」


「あの家にご令嬢が?」


 銀色の髪をさらりと揺らし首を傾げるお兄様に、お父様はさらに眉間のシワを深くする。

 またさらに深くなる……だと?


「西の……ビアン国に嫁いでいたアデリナ様だ。あそこは少し前に王が交代している」


後宮ハレムの解放ですか」


「そうだ」


 顔色を変えることなく、ハレムという言葉を口にするお兄様はそのまま難しい顔をしている。

 私は「再婚相手の話なんだろうな」と呑気に考えながら、食べやすくなったチーズタルトを頬張る。もぐもぐ。


「父上まさかアデリナ様を……いや、父上ならば断っているはず。それでも茶会を開くとなると……これは陛下からのお達しですか」


「さすが我が息子だ。どう転ぶにせよ、私はアデリナ様に会う必要がある」


「わかりました。私とユリアーナは?」


「同席せよ、とのことだ」


「……そうですか」


 ふむ。お茶会は事実上のお見合いになるってことですか。

 私と兄様が同席を許可されたってことは、お父様が子煩悩という噂を受けてのことかしら?


 そんなことを考えながら無心でタルトを頬張っていると、お兄様が心配そうな顔で私をじっと見ていた。


「ユリアーナ、大丈夫?」


「はい、おにいさま」


「アデリナ様はお優しい。きっと楽しい茶会になる」


 国の貴族について、しっかりと勉強をしているお兄様によると。


 アデリナ・バルツァーは、バルツァー公爵家の次女として生まれる。

 王家の姫だった母の血をひく彼女は、生まれたその日に婚約者を決められたという。

 婚約者は従兄弟で、物静かな優しい彼とアデリナは、仲睦まじく過ごしていたとのことだ。


 しかし、西の国の王からアデリナの妹に婚姻の打診があったことで、彼女の人生は変わってしまった。

 年の差があろうと、王が後宮に多くの姫を囲おうとも、貴族であれば仕方のないことだ。

 四方を国で囲まれた自国は、常に国同士の繋がりを重要視している。一夫多妻を推奨している国、それも王家であれば喜ぶべきことではある。


 アデリナは妹の代わりに自分が嫁ぐと申し出た。

 妹はまだ十にも満たない幼子であるが、自分ならば来年には成人するから、と。


「めちゃくちゃ、いいひとだ!」


「きゅきゅー(風の精霊からも悪い噂は聞かぬ)」


「おうは、ひどいやつだ!」


「きゅきゅー(だから交代になったのだろう)」


 そうだった。交代になったからこそ、アデリナ様は後宮から解放され、実家に戻ることができたのだ。

 ちなみに後宮を出た姫には、西の国で有力者と婚姻するという選択肢もある。

 ただ、かの国は「有力者=金持ち」であり、仮に婚姻相手を探すとしても若いイケメンと結ばれる可能性は低い。


 お昼寝をすると言って、部屋に戻った私。

 ベッドにぽふころりんと寝転がると、そのまま毛布を巻き込み転がっていく。


 うーん。

 やっぱり、私は動く必要があるかも。


「じゅんび、しないと」


「きゅきゅ!きゅー!(我もいる!安心せよ!)」


 お茶会は三日後。

 毛布簀巻きになっている場合ではない。動かねば。




 はぁ、毛布、あたたかぁーいぃ……ぐぅ……。

 


お読みいただき、ありがとうございます。


休みに入ったので、たっぷり睡眠をとるようにしたら体調がとても良いです。

お布団、気持ちいいです!!

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