43、作戦の準備をする幼女
異世界飯に敗北。
そう、確実とは言えないまでも、ここは前世で書いていた私の小説を元にした世界だ。
「たべもののことまで、かんがえてなかった」
「ん? どうした?」
「なんでもない、です」
「きゅ!(なかなか美味であるな!)」
どうやら雑食らしい精霊王は、頬袋いっぱいに串焼肉を詰め込んでらっしゃる。どんだけ食べるのやら。
ちなみに私は前世も今世も塩派ではあるけれど、屋台の串焼きに関してはタレも辞さない所存。
ほどよく弾力のあるお肉をモグモグしていると、次は甘い匂いが。
ん? まさかこの香りは。
「豆を甘く煮たのを、小麦粉の生地で包んだ菓子だ。食うか?」
「たべるます!」
おかしな言葉づかいになってしまったけれど、さすがにこれはしょうがない!
豆の種類は分からないけれど、餡子みたいなのがあるってことでしょ? もしやこれは大判焼き……回転焼き……ええと、なんて言うんだっけ、これ。
「これは甘焼きというんだ。奥さんが好きなんだよなぁ、これ」
「あまやき……」
どこかで聞いたような名前だけど、ふんわり漂う甘い香りにワクワクが止まらない。
屋台のおっちゃんからいくつか買ったお師匠様は、私とオルフェウス君に一個ずつ渡してくれる。
「きゅ!(我の甘焼きはないのか!)」
「そのままで食ったら嬢ちゃんが汚れる。バスケットの中で食べておけ」
「きゅ!(心得た!)」
モモンガさん用に持ってきたバスケット。外が見れないから嫌だと入りたがらなかったのに、お師匠様が甘焼きを置いたら即行入っている。こやつ、さては食いしん坊か。
もらった甘焼きは、カリッともちっとした生地の中に小豆によく似た甘い餡が入っている、前世でもよく食べていたものに似ていた。
「おいしー。これ、チーズやハムいれても、おいしいとおもう」
「確かに、甘いもんだけじゃなくてもいいよなぁ」
ふむふむと頷くお師匠様は、屋台のおっちゃんにコソコソ話している。
これは甘焼きにバリエーションが増える予感がしますぞ。また買いにこよう。
屋台ゾーンを抜けると、様々な食材の置いてある「市場」へと入っていく。
屋根と柱だけで壁のないこの場所には、各々決められた場所で店を構えている。事前に申請が必要だけど、何を売ってもいいとされている自由市場だ。
その中でも白い羽のついたモフモフマントのお師匠様は、控え目に言って周囲から浮きまくっている。
虹色の髪も日の光に反射してキラキラと輝いていて、だらしなくしていてもイケメンのお師匠様はとにかく目立つ。
影のようについてきているオルフェウス君もイケメンだけど、お師匠様は外見がとにかく派手だからね。
だけど……。
「……驚くほど、視線がこっちに来ないな」
「ちょっと魔法を使っているからねぇ」
なるほど。お師匠様が目立っているのに目立っていないのは魔法か。
よく見れば、光と水と風の魔力が私たちを取り巻いている。ふむふむ、モモンガさんが作ってくれた水鏡の構成と似ているなぁ。
オルフェウス君が「俺、いらなくない?」って言ってるけど、そうでもないよ?
「ふぉ!?」
「おっと、危ないなお嬢様」
「助かるよ。咄嗟の事故は、魔法じゃ防げないからなぁ」
「そういや侯爵サマは、ほとんどお嬢様を歩かせてなかったか。おぶってやろうか?」
「あるきます!」
これ以上、運動不足になりたくないので! 筋肉つけないと大きくなれないので!
「……お嬢様に怪我させたら、俺、殺されるんじゃねぇ?」
「ははは確かに!」
「笑いごとじゃねぇだろ!」
がんばれオルフェウス君と心の中でエールを送りながら、私は市場のあちこちを観察している。
正確には匂いを嗅いでいるのだけど。くんかくんか。
あ、見つけた。
「おばちゃん、これとこれと、これください!」
「あいよー」
うん。いい香り。
お目当てのラベンダーに似た花の他にも、いい香りがする花をいくつか選び両手で受け取る私。すかさずオルフェウス君がお金を払ってくれる。
「ありがと、オルしゃま」
「それをどうするんだ?」
「ポプリにする。おへやで、いいにおいするの」
「へぇ」
本当は瓶とかも欲しいけれど、今回はお試しだからね。
それにあまり長くいられないし。(幼女の体力的に)
「嬢ちゃんは匂いに敏感だからなぁ。よくランベルトのことも……」
「おししょ、おくちとじて」
「はいはい」
興味深そうに花を眺めているお師匠様を静かにさせると、さっそくお屋敷に戻ろうと歩き出せばオルフェウス君が首を傾げている。
「なぁ、お嬢様。なんで市場で花を買うんだ?」
「ん? どゆこと?」
「庭師に育てさせればいいんじゃねぇか? あんな広い庭があるんだから」
「ふぉ、それいいやつ」
「おばさん、買ったやつの種もくれよ」
「あいよー」
いい香りのするものと言ったら、今の季節に咲いていない草花の種を追加で出してくれた。やさしいおばちゃんだ。
「庭師なら知ってるだろうから、任せておけばいいと思うぞ」
「ありがと、オルしゃま」
この男、脳筋に見えて意外と繊細なのだ。
ふふふさすが私の作ったキャラ(仮)ですな。ふふふ。
よし! これで『癒しのポプリ大作戦』を決行できるぞ!
「おーい、嬢ちゃん悪い顔になってるぞー。可愛い顔に戻しておけよー」
「できるだけ市場に行く回数を減らさないと、俺の命が危険なんだ。頼むからがんばってくれよ、フェルザー家の庭師」
外野うるさいなぁ。
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