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40、スイーツを食べたい幼女


「ユリアーナ・フェルザーです。ほんじつは、おいわいにきていただき、ありがとうございましゅ。ごゆっくりおたのしみくだしゃい」


 ドレスの裾をつまみ、なんとかよろけずにカーテシーをすると、集まったお客様たちから拍手がもらえた。緊張で甘噛みしちゃったけどね。うへへ。

 それでも、横に立っているお父様の口元を緩ませるほどの出来映えだったし、マーサの突貫淑女教育も上手いこといったんじゃないかな。はぁ、危なかった。ギリギリだった。 

 開催の挨拶が終わったら、次は招待客皆さん一人一人にご挨拶だ。


「ことりしゃー!」


「お誕生日おめでとうございます。ユリアーナ姫」


 真っ白な騎士服を着た笑顔の美少年は、気取った様子で私の手を取ると指先にキスをしてくれた。きゃっ、王子様みたい。

 真っ白な髪に、ひとふさだけ虹色の彼。まるで王子様のような外見に周りの女性たちは黄色い声をあげている。

 確かに無精髭モサモサのお師匠様もよく見ればイケメンだし、鳥の奥さんも美女だ。そんな二人の息子なら、それは約束された遺伝子の勝利ってやつだろう。


 ちなみになぜ私が姫呼びされているのかというと、獣人さんたちが恩人だと思っているから……だそうな。

 森で滞在していた時は彼だけじゃなく、獣人さん全員から「姫」と呼ばれていたんだよ。いやはや、お恥ずかしいことです。


「ひめ、じゃないでしゅ」


「いえいえ何を仰いますか。姫は獣人族にとって救いの女神ですから、女神様とお呼びしたいくらいなのですよ」


「……ひめで、おねがいしましゅ」


「ふふ、かしこまりました。姫」


 ふむ。

 白い小鳥さん、黒いオルフェウス君、そして青いキラキラお兄様。

 イケメン三人が並んでいると、まるでアイドル三人組みたいでいいね。配色も決まっているし、あそこできゃあきゃあ騒いでいるお嬢様たちに「推し色」の概念とか教えたら、なんだか面白いことになりそうだよ。


「ユリアーナ、妙なことを考えているな?」


「ふぇっ、おにいしゃま、な、なんでもないでしゅよ?」


 前世のペンライトとか振っているのを想像してニヨニヨしていたら、秒でお兄様に気づかれた。ほんの出来心だったんです。許してください。


 そんなやこんなやで招待客全員との挨拶を終えたところ、私はふと気づく。

 いつから居たのだろうか。ものすごく派手な赤いドレスを着ている女の子が、私の目の前で仁王立ちしている。


「え、こわい」


「こわくありませんわ! ホーホホホッ!」


「ふぇぇ、こわいぃ」


 何が面白いのか知らないけど、いきなり目の前で高笑いされても恐怖しか感じない。


 ……いや、こんなんじゃダメだ。


 今日、私は何を成し遂げたかったのか、それを思い出す。

 けっして楽な道ではないだろう。だがしかし、目の前にある恐怖くらいは克服しなければならない。


 キリッと顔をあげて、やるぞ!


「ほんじつは、ありがとうございましゅ!」


 秘儀、幼女の全開スマイル!!!!


「クッ、なんと可憐なのか、うちのユリアーナは……!」


 離れた場所にいるはずのお父様が落ちた!?


「な、なかなかやりますわね……!」


 時間差で赤いドレスの少女にも!?


「なにやってんだ、イザベラ」


「オル!!」


 なんだ、オルフェウス君の知り合いか……って、主人公の彼に近い女の子?

 無口魔法使いの私と神官見習いのクリスティナ、それにオルフェウス君とは幼馴染みの元気系美少女が「イザベラ」だったはず。


「お前、その格好……」


「ホーホホホッ! わたくしの美しさに言葉も出ないようね!」


 確かに美人さんだけど、私のイメージしたイザベラはこんなんじゃない。

 趣味の悪い真っ赤なドレスと厚化粧で、彼女が本来持っている美しさが行方不明になっている。

 むしろどうやったら、ここまで酷いコーディネートできるのか教えて欲しいくらいだよ。


 イザベラちゃんの物言いに、唖然とした様子のオルフェウス君。深いため息を吐くと、私の前に立つ。

 あれー? ちょっと前が見えないのですがー?


「さてユリアーナ、私の姫君、そろそろエスコートさせてもらっても?」


「ふぁっ、ベルとうしゃま! あい!」


 いつの間にいたのか、お父様が後ろからふわっと抱き上げてくれる。

 なんだかお久しぶりにも感じる「お父様抱っこ」ですよ。ふへへ。


「最近のユリアーナは勉強や準備で忙しかっただろう。今日は楽しむといい」


「あい!」


 さてさて、スイーツゾーンへと向かいましょうかというところで、目の前に赤いものが飛び込んでくる。

 それを数回ターンしてかわすお父様、めちゃくちゃ格好いい。めちゃくちゃイケパパ。


「イザベラ!!」


「ホーホホホッ! つかまえてごらんなさぁーい!」


「ふざけている場合か!」


 最近動きが良くなったオルフェウス君から、素晴らしい身体能力で逃げるイザベラちゃん。

 そうだった。設定のイザベラは、主人公と共に前衛で戦う格闘美少女だ。これくらいの動きはできるのだろう。

 さらにハイヒールとドレスを着てこの動きができるとか、実はめちゃくちゃ強いんじゃないのかイザベラちゃん。


「ホーホホホッ! 未来の旦那様に捕まるのも一興ですけれど、今はこちらの方に御用がございますのよ!」


 そう言って私の目の前に再び現れたイザベラちゃん。

 今度は怖くない。だってお父様に抱っこされているからね!


「な、なんでしゅか?」


 でも腰は引けているけどね!


「お誕生日会だと聞きましたわ! おめでとうございますですことよ!」


「ありがと、ございましゅ」


「ですが、それはそれ! これはこれ! ですのよ!」


「ふぇ?」


「わたくしのオルは返していただきますわ! ホーホホホッ!」


 赤いドレスにハイヒールの美少女は、腰に手を当てて言い放つ。

 そして会場中に響き渡るくらいに、高らかに笑っている。


「お前のじゃねーよ!!」

「ホーホホホッ! 照れ屋さんですわー!」


 当人の叫び(ツッコミ)は、彼女にまったく響いていないようだ。


 がんばれオルフェウス君! 

 なんだか面倒くさそうだから、私はスイーツでも……あ、ダメですかそうですか。



お読みいただき、ありがとうございます。


リアル?お仕事がバタバタしておりますので、早く落ち着けるようがんばります!

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「ひめ、じゃないでしゅ」 貴族令嬢なので姫で合ってるでしゅ(>_<)
[一言] イザベラ・・・。 濃いキャラだけど一応想定範囲内。(?) 女装したムキムキマッチョの男なら動揺したかも・・・。
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