39、お茶会という名のお披露目会
途中視点が変わります。
デデドン!(ティンパニ音)
薄い紫のドレスを身にまとった私は、まさに今、本番を迎えようとしている。
付け焼き刃ながらマーサに教わった貴族のお作法は、緊張のあまり頭からするすると抜けていっている状態だ。
つまり、「詰み」である。
デデドン!(ティンパニ音、二回目)
幼女だから多少は許されるとしても、フェルザー家といえば貴族の中でも名門中の名門だ。招待客に対し、無礼があってはならないのだ。
だがしかし、今日のお茶会はマーサもリーリアも近くにいてもらえない。執事として会の指揮をとっているセバスさんも、だ。
「……ちゅらいん」
「きゅ?(どうした主?)」
肩にいるモモンガさんが、私を心配してモフモフをほっぺに寄せてくれる。
その気持ちよさに現実逃避をしていると、キラキラした銀色の物体が近づいてきた。
「ユリアーナ、準備は?」
「おにいしゃま!」
やたらキラキラしていると思ったら、お兄様でした。
お父様譲りの銀髪と美しく整った顔に、着ている服は青を基調とした礼服。金糸で刺繍されたりポイント部分に小さな宝石が使われてキラキラがさらにマシマシになっている。
「おにいしゃま、うつくしいでしゅ! きらきら、まぶしいでしゅ!」
「ん、そ、そうか」
「よかったなぁ、坊っちゃま」
「坊っちゃまと言うな」
「はいはい、ヨハン様」
スッと姿を現したオルフェウス君は、これまたピシッと黒で統一された礼服を着ている。
これはフェルザー家の使用人と同じものだけど、体を防護するために服の内側を皮で強化されているとのこと。
セバスさんに鍛えられているからか、以前に比べて彼の動きはこう……するりぬるり?としてきたよね。
「まーた変なこと考えてるだろ」
「そんなことごじゃーませんことよ! ほーほほほ!」
「……なんだその言葉づかいは」
「ごれいじょうっぽくしました」
「やめとけ。変なこと考えなくていいから、教わったことをしっかりとやれよ」
いつになく真剣な表情のオルフェウス君に、私は気圧される。
そうだよね。変に飾るより、子どもらしくするほうがいいよね。
「マーサとれんしゅうしたの、やる」
「そうしとけ。せっかく可愛いんだから、そのままのお嬢様でいたほうがいい。どっかの誰かみたいになるなよ」
「あい!」
えへへ、可愛いって言ってもらっちゃった。
ところで「どっかの誰か」って、誰だろう?
モモンガさんはオルフェウスがポケットに入れてくれた。お留守番はかわいそうだと言ったら、お父様はポケット待機を許してくれたのだ。
「ユリアーナ」
「う?」
お兄様がそっと手を差し出してくれる。
そうだ。エスコートをお兄様がしてくれるって、マーサが言ってたっけ。
緊張は抜けたけど流れを忘れるなんて本末転倒ってやつだ。あぶないあぶない。
「フッ、父上が悔しがっていた」
「ベルとうしゃま?」
「ユリアーナの付き添い役を取られた……とな」
「ふぇ?」
冷え冷えなお父様が、私のことを?
もちろん日々遂行されている『ユリアーナ溺愛大作戦』で、だいぶお父様の愛情パラメータは上がってきていると思うけれども。
お父様にエスコートしてもらうなんて……エスコートしてもらう……あ、鼻血出そう。
「私も早く、父上の代行ができるくらいの力をつける。次は期待しておくといい」
「あい!」
すんっと鼻をすすった私は、扉の前に立つ。
さぁ、まずはお客様たちに挨拶だ。
フェルザー家といえば名門中の名門であり、うちのような「たまたま近所にいる低い爵位の一般国民」とは大きく違う。
以前は常に氷のような覇気?をまとっていたランベルト・フェルザー侯爵。
最近は王立学園一位の成績という優秀な息子さんと、かの有名なペンドラゴンの名を冠する魔法使いを師とする娘さんを可愛がっているという噂だ。
なぜ詳しいのかというと、娘がどこからか噂を仕入れてくるのだ。騎士の嫁になるため立派な淑女になるのだと、連日妙な会合に通っている。
息子たちは成人して家を出ているし、妻も私も忙しくしているため、あまり構ってやることができなかった。懇意にしている商会の息子と仲良くしているようだから、安心していたのだが……。
「ホーホホホ! お父様! わたくしのオルは、いずこにいらっしゃるのかしら!」
「イザベラ、静かにしなさい。おとなしくしているという約束だろう」
「ホホホわたくし、じゅうぶん可憐で美しくてよ!」
「だからおとなしくしろと……まぁいい。問題だけは起こすなよ。さもないと二度と呼ばれなくなるぞ」
「ホーホホホ! おまかせあれ、ですわ!」
まったく分かっていない娘の様子に、来た早々後悔する私。
そこはかとなく只者ではない雰囲気の執事に案内され、会場に入るとダンスホールには、色とりどりの花々が美しく飾りつけされ、テーブルに並べられているのは小さな女の子が喜びそうな甘味で埋め尽くされている。
ああそうだ。今日はご息女ユリアーナ様のお誕生会であり、お披露目会なのだ。
「本日は我が娘、ユリアーナのためにお集まりいただき感謝する。これを機会にぜひ、ユリアーナの愛らしさをご堪能いただきたい。私を見れば微笑み、抱き上げれば恥ずかしそうに俯き、そして……」
「では、ご息女ユリアーナ様にご登場いただきます! 付き添いはご子息のヨハン様です!」
口上を述べるフェルザー侯爵を遮るように、執事が会を進めていく。
早口でよく聞こえなかったが、どうやら噂通り子煩悩のようだ。
そして、父親そっくりの美貌を持つ少年に手をひかれ、静々と歩いてきたのは……。
「これは……侯爵様が溺愛されるのも無理はない」
幼いながらも、美しく整った顔立ちは多くの人の目を惹いている。
蜂蜜色の髪は背中でふわりと揺れ、煌めく紫の瞳はまるで宝石だ。
瞳の色にも合っている薄紫色のドレスは、まるで彼女のためにあるかのようで。
「これは愛らしい。まるで伝説の天使様のようだな、イザベラ。……イザベラ?」
いつのまにか姿が見えなくなっている。おおかた商会の息子を探しに行ったのだろう。
まったく、うちの娘はいくつになっても落ち着きがない。困ったものだ。
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