35、幼女の覚悟と主人公
ところで、モモンガさんの言ってた「主」っていうのは何?
精霊王っていうくらいだから、普通の精霊よりも偉いのだろうし、私みたいな幼女が主と呼ばれるのは変だと思うのだけど。
「きゅきゅ(王といっても、名誉職みたいなものだからな)」
「めいよしょく」
「きゅー(精霊界にいた我の近くに、たまたまこの世界に渡れる扉が開いただけだ)」
「たまたま」
「きゅ、きゅきゅー。きゅきゅ(それに、我と話せるということは、我の主として素質があるということだ)」
お父様は森の探索隊の指揮をとるため、セバスさんを残して出て行った。
共同浴場から蜂の巣のようなツリーハウスへと移動すると、まだ疲れているだろうとベッドに戻されてしまった。眠くはないので、モモンガさんと会話をしている。
一見、小動物と話す不気味な幼女に見える私だけど、セバスさんは精霊獣だと分かっているから気にすることはない。でもさっき、ピクッと少しだけ反応していた。何か気になることでもあったのかしら?
「モモンガしゃん、いっしょにいる?」
「きゅ? きゅきゅ!(いいのか? ぜひ頼む!)」
ふわっと光るモモンガさんと私。
おや? これは……。
「ユリアーナお嬢様、この精霊獣と契約をされたので?」
「う?」
さっきまで離れた場所でお茶の用意をしてくれていたセバスさんが、気づけばベッドの横でモモンガさんをつまみ上げている。
「きゅきゅー!(何をする離せー!)」
「このような弱小精霊獣ごときが、お嬢様と契約をしようなどと?」
「きゅ……?(弱小……だと?)」
セバスさんに首根っこをつままれたモモンガさんの雰囲気がガラリと変わる。
さっきまでのほのぼのとした口調から、小さい体ながらに毛を逆立て、まるで獰猛な肉食獣といった雰囲気に……。
……なるわけがなかった。
「きゅー!!きゅー!!(しまったー!!本来の力は精霊界に置いてきたのだったー!!)」
「まったく、油断も隙もないですね」
「セバシュ、ゆるしてあげて」
「お嬢様……」
「モモンガしゃんは、くらいなかでもいっしょにいてくれたの」
森に設置された罠にかかった時、もしモモンガさんが居なかったら私はどうなっていたか分からない。
体は大丈夫でも、あんなに私のトラウマを刺激する状況に一人でいたら、きっと心は壊れてしまっただろう。
「よわくてもいい。わたしが、つよくなる」
「きゅ……!(主……!)」
「……さようでございますか。お嬢様にそれほどの覚悟があるのでしたら、私は何も言いますまい」
「ん。ありあと、セバシュ」
優しく微笑むセバスさんに、私はたくさん感謝をこめて礼を言う。
きっと、これはセバスさんの優しさだ。
ふわふわ生きている私が、強くなろうとする覚悟を持つ機会を与えてくれた。だから、今後の私はうっかり罠にハマったりするわけにはいかない。
モモンガさんのためにも、強くならないとね!
「ですが、それはそれとしてユリアーナお嬢様の契約する精霊獣が弱小とは、フェルザー家として見過ごすことはできません」
「きゅ!?(なに!?)」
「我一族に古より伝わる『武宇闘喜屋武布』を、この小動物に課せましょう。なに、数回ほど死の瀬戸際までいきますが、運がよければ強くなれますよ」
え、死ぬ思いしたら強くなれるかもしれないとか怖いんですけど。
セバスさんの鬼畜発言に震えている私とは違い、なぜかモモンガさんは「我が強くなれるのか!?」なんてつぶらな瞳を輝かせている。かわいいけど違う、そうじゃないのだよモモンガさん。
「セバシュ」
「大丈夫ですよ。お嬢様のご苦労に比べたら、これくらいなんてことないでしょう」
そうは言ってもセバスさんのことだから、私が悲しむようなことはしないはずだ。大丈夫だろう……たぶん。
とりあえず仮契約はしました。私から名前をもらえたら本契約になるんだってさ。
私も強くなれるように頑張ろうっと。
森へハイキングしよう企画から湯治旅行に変更となって一週間、私は毎日のように甘やかされ、温泉に入り、甘やかされ、魔法の訓練や勉強をしたりしている。
甘やかしを二回言った気がするけど、これでも控えているほうだ。本当はもっとたくさん甘やかされている。
森に設置されている罠や犯人の痕跡はいくつか見つかったようだけど、それが『ハイイロ』だという決定打にはならないようだ。奴らは巧妙に足取りを消していたのだ。
一週間目の朝、恒例のお父様からの甘やかしの「あーん」攻撃を受けた私がサンルームでぐったりとしていると、セバスさんから来客があると告げられる。
「嬢ちゃん、無事でよかった!」
「おししょー!」
しゅたたたっと走った私が飛びついたのは、虹色の髪をしたイケオジなペンドラゴンお師匠様だ。
「おお、ちょっと重くなったか?」
「せいちょうき!」
「ははっ、そうだな、成長したんだな!」
お馴染みの真っ白な羽根をあしらったローブは、もふもふであたたかい。
お父様とは違うけど、安心する匂いがする。お久しぶりのくんかくんかタイムだ。
そんな私を見て満面の笑みを浮かべるお師匠様は、しがみつく私を抱っこして顔を向き合わせてくれる。
「嬢ちゃん、ありがとうな。俺の息子を助けてくれたんだって?」
「たすけ?」
「獣化してるところを拾ってくれたんだって?」
「じゅうか……ことりしゃ?」
「そうだ。魔力を失っている時の獣化は危険なんだ。森の獣に襲われていたかもしれない」
「ことりしゃ、きけんだった」
ただ拾っただけなのに感謝されて、ちょっとくすぐったいきもちになる。
私がしまりのない顔をしてエヘヘと笑っていると、不意にお師匠様は真面目な表情になる。
「ところで、扉の外にいるのは嬢ちゃんの護衛か?」
「ふぇ?」
「黒髪の、ちょい目つきの悪いやつだ」
「ふぇぇ?」
え? どういうこと?
慌てて師匠の腕から抜け出し、しゅたたたっと走ってドアを開けると、そこに居たのは無表情のオルフェウス君だった。
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