33、ちょっと休憩する幼女
あたたかい。いい匂い。
この絶対的な安心感。
まるで子どもになって、お母さんに抱っこされてるみたいな感じだ。
「んー?」
目を開くと、白いシャツからこぼれる大胸筋。
思わず息を止めて凝視する。
だめだめ、これ以上はいけない気がする。
なんとか視線を外して見上げれば、眠るお父様の麗しいご尊顔が目に飛び込んできた。
「んーっ」
呼吸が止まる。(継続中)
いつもある眉間のシワが無いせいか、ちょっと可愛く見えるお父様。
寝顔も美しいとかもう、本当にずるいと思う。
あ、やば、息が苦しい。どうしよう。
「……ユリアーナ、呼吸を」
「ぷはぁっ!」
すぅー、はぁー、死ぬかと思った!
お父様いつから起きていたんだろう? ちょっとくんかくんかしてたのバレてないかな?
「昨日の服のままだからな」
「はっ! ベルとうしゃまの、おようふくをつかんでたの。ごめんなさい」
「気にするな」
そして私も昨日の服のままだ。フードの中にいたモモンガさんはどこにいったんだろう?
「アレはセバスが世話をしている」
「そでしたか」
「屋敷で飼ってもいいが、寝室には入れないように」
「あい」
小さなモモンガさん、ああ見えて精霊王だから、飼うとかペット扱いしたら怒られるかもね。連れて帰るにしても、彼?の意志を尊重するようにしよう。
そんなことを考えていたら、ふんわりと抱き寄せられる。ふぉ、やわらかい。
「ユリアーナ、すまない」
「う?」
「離れるべきではなかった」
いやいや、お仕事でしたからね? お父様が謝ることなんてないのですよ?
それにしても、こんなに早く会える予定じゃなかったような……。
「ベルとうしゃま、おしごとは?」
「終わらせた」
「おしごとは?」
「……終わり、ということにした」
なんということでしょう。
うっかり私が罠にハマったせいで(主にお父様の部下の人たちに)大変なご迷惑をかけてしまったようです。ぐぬぬ。
しょんぼりしている私を、お父様が優しく撫でてくれる。
「大丈夫だ。我が国の騎士団長は優秀な男だ」
「……あい」
「それに、この近くに湯が湧く場所がある。居住区の共同浴場として開放しているのだが、行ってみるか?」
「ふぉ! おふろ!」
お風呂好きな私が書いた小説だから、もちろんお風呂はあるし、トイレも水洗で清潔だ。
でも、温泉があるなんて設定はなかった気がするのだけど……。
ん?
この流れ、もしや、お父様と一緒にお風呂?
そんなラッキーホニャララは、ございませんことよ。
誰にとって、とか、口が裂けても言えませぬ。ほほほ。
「ユリアーナちゃん、お風呂のお作法を知ってるなんてえらいわねぇ」
「あい」
ふわふわな羽毛ドレスを脱いだ?鳥の奥さんは、ナイスなバディをおしげもなく見せてくれる。
洗い場には他にも何人か女性がいて、小さな子の耳や尻尾を丁寧に洗っている様子にほのぼのとした気持ちになるね。
私もちゃんと体を洗って、綺麗にしてから乳白色のお湯にゆっくりと入る。
「ふぁぁぁ……」
「温泉はお肌もツルツルもちもちになるから、ユリアーナちゃんがもっと美人さんになっちゃうわねぇ」
「びじん!」
そうだ。ここは異世界。
温泉の効能にすごい何かがあってもおかしくはないのだ。
とはいえ私は美幼女のはずだし、これ以上美しくなっても……。
「意中の殿方をメロメロにできちゃうわねぇ」
「めろめろに!?」
なんと、それなら話は別だ。ここに滞在中は温泉に入りまくらねば。
「あらあら、急にどうしたの?」
「おんせんいっぱい、おはだつるつる」
お湯をすくっては顔にパシャパシャしてたら、鳥の奥さんにクスクス笑われてしまった。
「そんなに急がなくても、ユリアーナちゃんはゆっくり大きくなったらいいわ。絶対に美人さんになるもの」
「すぐ、なりたいの」
「あら、意中の殿方がいるの?」
「あい!」
そう、忘れかけていたけれど、私はいつお父様から嫌われるか分からない。
今は甘やかしてくれるし嫌われてはいないようだけど、私のふわふわした設定から作られた小説の世界だ。どこに嫌われシリアスルートが隠れているか分からないからね。
拳を握りしめた私がふんすと気合を入れていると、隣の男湯から何か大きな物音が聞こえてきた。どうしたんだろ?
「あらあら、分かりやすいこと」
「う?」
「なんでもないわ。のぼせちゃうからそろそろ上がりましょうか」
「もう?」
「この温泉から作った、お肌にいいクリームがあるのよ」
「おはだ、つるつるもちもち?」
「ええ」
「あがりましゅ!」
流れてくる冷んやりとした空気と、騒がしい男湯が気になるけれど、ツルツルもちもち肌になるクリームは気になる。
お父様がいるから問題はないだろうけど、後で何があったか聞いてみようっと。
お読みいただき、ありがとうございます。




