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3、お家に帰る……の?


 予想に反して、宮廷魔法使いである師匠とは会うことなく、王宮内にある屋敷から、フェルザーの屋敷に戻ることになった。


 あるぇええぇー? おっかしいぞぉぉー?


なにゆえ屋敷から屋敷へ? うちって、いくつあるの?


「屋敷に着いても、しばらくは安静にしていなさい」


「はい」


 目の前にいる執事のセバスに助けを求める視線を送るも、がんばれって視線しか返してもらえない。解せぬ。


 あるぇええぇー? おっかしいぞぉぉー?(二回目)


 私は今、美丈夫なお父様もとい、ランベルト・フェルザー侯爵にしっかりと腰を抱えられ、おひざ抱っこをされているところであります。

 不義の子である私を抱っこするとか、ちょっと何を言ってるのか分からないですって思うかもしれませんが、ありのままを話しております吐血。


「どうした?」


「あの、ユリアーナは、ひとりですわれます」


「馬車は揺れる。それで具合が悪くなったら迷惑だ」


「ごめんなさい」


「いや、その、迷惑というか、大変だということだ」


「ごめんなさい」


「ぐっ……!!」


 この状態だと顔が見えないので、機嫌がいいのか悪いのか分からない。

 とりあえず謝罪しちゃう(前世)生粋の日本人ですが何か?


「お嬢様、旦那様はご心配されているのです。甘えてよろしいのですよ」


「でも……」


「大丈夫です。何かあれば、後でセバスが代わりに怒られますから」


「セバスしゃ、おこられる?」


「怒らないから、おとなしくしていろ」


「はい」


 お父様の苛々したような声に怯えながらも、怒らないと言っているから大丈夫かなと少し安心する。

 甘える云々はともかく、セバスさんがそう言うのなら大丈夫だろう。

 ほっとして体から力が抜けると、眠たくなってきた。


「眠っておけ。まだ屋敷まで時間がかかる」


「はい……」




 



 気がついたら朝だった。

 お父様の安定感のありすぎる膝抱っこと、実は鍛えているだろう胸板の厚みによって、すさまじい睡魔に襲われたのである。あれはヤバイよ。色々な意味で。

 成人女性ならともかく、体力のない幼児には抗えぬものであったと主張する。


「お目覚めですか、お嬢様」


 セバスさんじゃない、女性の声に安心する。

 この声は侍女のマーサだ。


「おはようマーサ。いっぱいねちゃったの」


「無理もございません。お嬢様は怪我をされておりましたから」


 ふむ。

 お父様のお膝抱っこにメロメロになっていたのではなく、あくまでも怪我で体力がない幼女として認識されていたのね。

 よしよし、これなら大丈夫かな。


 周囲を見渡せば、ついこの間まで暮らしていた物置部屋ではない、ちゃんとベッドのある部屋に寝かせてもらっている。

 パステルカラーの、女の子が好きそうな色合いの家具やカーテンになっている。


「ここは、どこ?」


「お嬢様の部屋ですよ」


「まえと、ちがう」


「……以前より、旦那様が用意されていたお部屋だそうです」


 声を震わせ、涙ぐみながらマーサが教えてくれる。

 産後の肥立ちが悪く、体調不良だった(ということにした)お母様。もしかしたら、うつる病気かもしれないと、私を連れて離れで暮らしていた。

 まぁ、お母様は貴族として不自由なく暮らしていて、私は物置部屋で監禁されていたんだけどね。


 どうやらお父様は、本邸に部屋を作ってくれていたみたい。

 血の繋がりは無いのに、大丈夫なのかな?


 まぁ、いいや。

 魔力暴走のおかげで体内に構築された『魔力回路』は、この先強い力を得る助けになる。

 侯爵邸であれば、魔力や魔法に関する本があるだろうから、師匠に学ぶ前に予習するのもアリだよね。


「ほん、よみたい」


「本ですか? ダメですよ。まずはしっかりと怪我を治さないと」


「うー、わかった」


「パン粥があります。召しあがりますか?」


「はい」


 パン粥! 実際に食べるのは初めて!

 オニオンスープみたいに、チーズとか入っているのだろうか!


 ……と思ったら、なんかドロッとした白いものだった。ミルクとほのかにハチミツの香りがする。くんかくんか。

 そうだった。ユリアーナは栄養のある食べ物をもらえてなかったんだ。最初は消化しやすい流動食を主に出されるだろう。


「あまくて、おいしい」


「それはようございました」


 それでもお皿に出された全部を食べることができない。

 もったいない精神で無理に食べようとすると、察したマーサがお皿を取り上げてしまった。


「また後ほどにしましょう。お医者様からは日に何度か分けて食事をとるように言われておりますからね」


「はい。マーサ」


「お薬を飲みましょうか。痛み止めです」


「うう、おくすり……」


 お城でも飲んだけど、あの粉薬はめちゃくちゃ苦かった。この世界では薬の味なんて考えてないんだろう。とにかく苦味とエグ味で、飲むとしばらくの間は舌がおかしくなる。

 フワッとした世界観で小説を書いていた弊害が、まさに今、私に襲いかかってきているのだ!(ばばーん!)

 ……ほんと、設定厨の作家さんを尊敬しますわ。やれやれ。


「ちゃんと飲めましたら、ご褒美をいただけるようにしますよ」


「ごほうび?」


 なんだろう?

 お父様から……は無理だろうから、甘いものとかもらえるのかな?

 このパン粥でもユリアーナの体は喜んでいたから、本を読んでもいいとかそういうのかもね。


 苦い薬に悶絶した私は、痛み止めの効果でふたたび眠りに落ちたのだった。





お読みいただき、ありがとうございます!


明日も更新できそうです…

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