29、好奇心は幼女をも苛む
「きゅきゅーきゅきゅっ!(いや、我も悪かったとは思う。でもな? 精霊界にいる我の前に突然清浄なる気が満ち溢れれば、出番がキター!! と思うものだろう? な?)」
「うん、でも、じきがちがうって」
「きゅきゅ……(だからそれは、間違えてしまったと言っておろう……)」
「だれにでも、うっかりはある」
「きゅ(うむ、反省はしておるぞ)」
私の膝の上で、お目々をくりくりさせているモモンガさんは、一生懸命言い訳をしている。
だがしかし、残念なことに彼?の言葉は、私にしか通じていないようだ。
なぜ意思疎通が出来るのかというところについては、相性がいいのだろうということで納得されてしまった。
この世界の精霊獣あるあるらしい。知らんけど。作者なのに知らんけど。
「ユリアーナ、その小さな精霊獣は何を話している?」
「せいれいおうさまが、うっかりさんというおはなしです。おにいさま」
「そうか」
現在の私たちは、森の中で『精霊王が生まれて、すぐ消えてしまった場所』を調べている。問題がないようなら、獣人さんたちの居住地に戻ってお泊りの予定だ。
切り株に座っている私と、膝の上にいるモモンガさん。そして右側にはお兄様、左側にはセバスさんがしっかりとガードしてくれている。最強の布陣というやつだね。
ちなみに、オルフェウス君はお師匠様の奥さんと息子さんと共に行動している。
「それにしても、精霊王という存在は伝説だと思っておりました」
「勇者や魔王もいるという。ならば精霊王もいるだろう」
「きゅっ!(そのとおりだ!)」
いやモモンガさん、そんなキリッとしたお顔をされても、お兄様には通じてないですよ。
それにモモンガさんが「我が精霊王ということは言うな」って、私に口止めしたの、もしや忘れているとか……。
「き、きゅぅ……(わ、忘れてはおらぬ……)」
慌てて、私のポンチョの中に入り込むモモンガさん。雨が降っても大丈夫なように、フード付きなのが便利だ。今はモモンガさんの巣?になっちゃってるけどね。
セバスさんが周囲を警戒しながら、話を続ける。
「伝説というものは、歴史上起こった出来事を象徴するためのものだと思っておりました。たとえば魔王であれば、自然災害のようなものとか……」
「研究者たちの中では、その説が強かったようだ。しかし山や森の民たちの中には長く生きる種族もある。彼らはそれが何なのか知っているのだろうな」
「ああ、ヒト族至上主義の研究者のせいでしたか。まったく、アレらは害でしかありませんな」
ふむふむ、中の人がアラサーだから、ざっくりだけど分かってきたよ。
どの世界でも、差別っていうのは無くならないらしい。
幸いなことにフェルザー家は獣人さんとか差別をしないけれど、そうじゃない人たちもいるってことか。
「きゅきゅ(精霊界とは違い、ずいぶんと小さなことで争うものなのだな)」
「みんな、こわがってる。かわいそうなの」
「ユリアーナは優しいな」
お兄様に頭を撫で撫でされて、顔がふにゃっと緩んでしまう私はハッとする。
「おにいしゃま、あたまをこっちに」
「む? 頭か?」
不思議そうにしながらも、屈んで私の前に頭を出してくれるお兄様。サラサラとしたお父様譲りの銀髪が、日の光でキラキラと輝いている。ふぉ、すごく綺麗。
「おにいしゃまも、がんばってるの、なでなでー」
「!?」
私だけじゃない。お兄様も「あの女」の犠牲者だ。
ユリアーナにはアラサーの私が入ったから、寂しさには耐えられた。それにお父様とお兄様、たくさんの人が優しくしてくれている。
お兄様にも優しくしてくれる人はいるだろう。でも、家族はお父様と私しかいないし、あと数年で成人する男子の頭を撫でてくれる存在は居ないと思うんだ。
「……ユリアーナ」
「あい?」
「……ありがとう。兄は、嬉しい」
「あい!」
撫でているとお兄様の耳が赤くなるけど、そこは見なかったふりをする。セバスさんも「ふむ、あの雲ですと夜半に雨が降るようですね」なんて知らんぷりしてくれている。
え、ちょっと待って、夜半に雨が降るの? 森の移動は大丈夫なの?
幼女特有の雑さで、お兄様の髪はクチャクチャになってしまったけど、本人はご満悦といった感じだから良しとしよう。髪を整えようとするセバスさんを止めてたくらいだし。
見回りから戻ってきたオルフェウス君に、しこたま笑われたお兄様が結構な攻撃を繰り出していたけれど、それは些末な事なのだろう。うむ。
「きゅきゅっ!!(というわけで、我はユリアーナについていくぞっ!!)」
「なぜ」
「きゅーきゅっ!!(いつも世界の危機にしか出てこれないのだし、平和な時期を満喫したいのだっ!!)」
「つまり、あそびにきちゃったやつ」
「きゅ!(そうとも言う!)」
「ばつとして、おなかをもふもふ」
「きゅっ!?(ちょ、それは!?)」
自称、精霊王のモモンガさん。ドヤ顔が鬱陶しいので、お腹の柔らかい部分をモフモフしてやることにしました。
え? なに? そこは弱い? ふにゃふにゃになっちゃう?
ふははは聞こえんなぁ! さぁ、幼女の容赦ない手技に酔いしれるがいい!
「ユリアーナ……それほどまでに精霊獣のことを……くっ!!」
「ぷっ、ヨハン様、そんなちっこい動物に妬いてんのかよ」
「おにいしゃま、あとでいっぱいなでなでしましゅ!」
「ユリアーナ! 兄は嬉しいぞ!」
「ぶっはー!!」
「何やってんですか、アンタたちは……」
ひと通り森の中を調べ終えたお師匠様の息子さんは、呆れ顔でツッコミを入れている。
お兄様の言動がツボに入ったオルフェウス君は、口の中に魔力の氷を突っ込まれていたけど、ガリゴリ噛み砕いてしまう。すごいね。歯が丈夫なんだね。
「ほらほら子どもたち! 雨が降りそうだから帰るわよ!」
いえす! まむ!
鳥の奥さんのひと声で、私たちは背筋をピシッと伸ばしました。
「この場合、子どもたちの中に私も入るのでしょうか?」
ぽつりと呟くセバスさんに、同情を込めた視線を送る私、ユリアーナでしたとさ。
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