28、森の奥で生まれしモモ
精霊王に会いに行くという私の案は、すんなり許可された。
例のごとく「留守番させたら暴走して追いかけてくる」という、お兄様の的確?な判断だ。
だからさ、暴走はしないって言ってるのに。言ってないけど。
静かに粛々と追いかける所存。結果、追いかけるけど。
獣人さんたちから『精霊の森』と呼ばれている場所は、元々普通の森だったらしい。
特定の条件が重なり、精霊や精霊獣が集まるようになって、一種の神聖な地が出来上がってしまったと鳥の奥さんが教えてくれたよ。歯を食いしばりながらだけど。
「弱い魔獣まで狩ってしまったら、精霊王が生まれやが……お生まれになる。でも、時期が早すぎるのが問題なの」
「じき?」
「悪しきものが集まって、生まれる魔王。同じ時期に精霊王が生まれて、勇者に聖剣を授ける……それが、世界の営みというもの」
「まおう、まだ、いない?」
「ふふ、さすがフェルザー家の子ね。とても聡いわ」
いえいえ中身がアラサーなだけですから、おかまいなく。
そうそう、うっかり忘れていたけれど、この世界では「魔王」や「勇者」がいる。
彼らは役割としているだけで、私の作品では重要なポジションではないのだけど……。
「せいれいおう、でばん、まだだった、ざんねん」
「ぶほっ!!」
「んぐっ、ゲホゲホ、ユリアーナ、さすがにその発言は不謹慎、だ」
オルフェウス君が噴き出す横で、不自然に咳き込んでいるお兄様。はい、ごめんなさい。
私を子ども抱っこしているセバスさんの、上腕二頭筋から微振動を感じますよ。何ですかそれは。笑うなら思いきり笑ってくださいよ。
「ふふ、では、遠慮なく、ぷぷっ、くすくす、ぷすすーっ」
ぐぬぬセバスさんめ。私のこと笑うなんて、さては馬鹿にしているのか? 許さんぞ。許さんぞー。
精霊王の居る場所まで馬で半日と言われていたけど、なぜかあっという間に到着。
森に住む獣人と精霊が一丸になれば、造作もないことらしい。
「父さんなら魔法で移動を短縮させたりするでしょうね」
「おししょ、しゅごい」
「ユリアーナ、兄も移動を早めることくらいはできるぞ」
「ヨハン様、なにも国一番の魔法使いと張り合わんでも……」
そうだよ。魔法と向かい合う真面目さで比べたら、ダントツお兄様がトップだと思うよ。
獣人たちと精霊によって、開かれていた森が閉じる。
それまで薄く青みがかった森の景色が、色濃く緑を滲ませていくのは圧巻だ。
「こうやって、森は開いたり閉じたりするのよ。あと、精霊のいない森は眠りについているから、精霊と仲良くなれば起こしてくれることもあるわ」
「もりが、おきると、どうなるの?」
「魔獣がいっぱい出てくるから、楽しいわよ」
それが楽しいのは貴女だけですから! 残念!
ちなみに今私たちのいる森は、とある獣人さんたちが魔獣を狩りまくったので、数ヶ月は魔獣が出てこないそうだ。
オルフェウス君が舌打ちしている。うんうん、そうだよね。冒険者から見れば、お仕事取られちゃった感じだよね。
「きゅっ!!」
「むぎゅっ!!」
突然、薄茶色のかたまりが目の前に飛び込んできた。しかも、顔全体にフェイスパックのように貼り付いてきたので、息が、息がくるし……。
「ユリアーナお嬢様!」
「むぐぐ、むぐぅ」
セバス剥がして、と言ったつもりの私。
言葉は通じずとも息苦しさは伝わったのか、顔に貼りつく物体をベリッと剥がされる。やっと呼吸ができるよ。すぅーはぁーすぅーはぁー。くんかくんか。
「なんだろ、これ」
セバスさんの指で首根っこを摘ままれ、ぶらーんとぶら下がっている薄茶色の生き物。
クリッとした黒目と、ぴこぴこ動く鼻と口元に思わず顔が緩んでしまう。
さらに言えば、真っ白な毛に包まれたお腹と、手足についている……これはもしや、モモンガ? モモンガなのか?
ちなみにムササビには尻尾にも飛膜がついていて、モモンガよりもデカい。
「かぁいい、このこ、かぁいいねぇ」
「精霊獣……で、ございますか……」
そう言いながら、持っていたモモンガを私に渡してくれるセバスさん。
私(幼女)の両手サイズのモモンガ、どうやら害はないようだ。モフモフ小さくてやわらかくて、ほんわりとあたたかい。
「なんだか悔しいです」
「ユリアーナの愛玩動物にはなれず、残念だったな」
「え、なにそれ? 愛玩されたかったのか?」
獣化すれば小鳥になるお師匠様の息子さん、なぜか悔しそうだ。
そんな彼を慰めるお兄様と、ドン引きするオルフェウス君。
「ちょっと息子、どこに精霊王がいるの? ここで生まれた形跡はあるけど、気配を探っても見つからないのよ」
「おかしいですね。確かにここで生まれた精霊王が……」
精霊の好きそうな濃い森の空気に包まれながら、私も辺りを見回す。
森の中にポツンとある、開けたこの場所には綺麗な泉があって、水晶で出来た卵の殻のようなカケラが、そこいらにたくさん散らばっている。
両手で包みこむように持っていた私は、手をペチペチと叩かれる。
はぅっ! ペチペチ叩くモモンガちゃんカワユス!
「きゅ」
「ん? なぁに?」
「きゅきゅ」
「え、せいれいおう、かえっちゃったの?」
「きゅー」
なんとなく頭に入ってくるモモンガちゃんの言葉。
言葉が話せなくても通じるこの感覚って、もしかしたらお父様が私の心を読むみたいなのと同じかしら?
いや、今はそれどころじゃないか。
「とりのおくしゃま、このこがおしえてくれまし」
「あら、小さくてかわいい精霊獣ね」
「えっと、いまはでるときじゃなかった、まちがえた、だからいったんかえります。……だって」
「間違え……ね。確かに、精霊王ほどの強い存在が、順番を守らず出てしまうのは危険極まりないわね」
「きけん?」
「大きな力ほど、動かすのは危険なのよ。世界の理に背くことになりかねないから」
世界の理に……背く!?
もしやそれって、私のしていることもヤバいのでは!?
お読みいただき、ありがとうございます。
もんがもんがー!!




