27、生命の輪と幼女
バッサバッサという羽音と共に、強い風が一気にぶわっと吹いて思わず目を閉じてしまう。
「ふぉっ!?」
「大丈夫ですよ、お嬢様」
背中を優しくポンポンと叩くセバスさんに、しがみついていた私は恐る恐る目を開くと……。
「ふわぁ! びじんさん!」
「あら、嬉しい言葉をありがとう」
そこに居たのは、真っ白なドレスを身にまとった麗人だ。
ボンキュッボン(死語)の体にぴったり合わせたドレスは鳥の羽根で作られていて、マーメイド風に裾は長い羽根で広がるようになっている。
真っ白な髪と、同じ色の長い睫毛に縁取られた瞳は輝く琥珀色だ。
そして私は、ようやく気づく。
さっきまで飛んでいた、大きな白い鳩がいないことに。
「おっきぃとりしゃ、びじんさんだった?」
「そうよ。小さいのによく気づいたわね」
任せてください。中身はアラサーですから、ばっちこい?なのです。
そしてその真っ白な羽根は、どこかで見たことがありますよ。
「おししょ、おくしゃ」
「正解よ。ふふふ」
なるほど。希少種と聞いていたけれど、あの大きな鳩だったとは……勝手に孔雀みたいなのをイメージしていたので、申し訳ない気持ちになる。
「ペンドラゴン殿の奥方、お久しぶりです」
「フェルザー家の子ね。うちの息子が迷惑かけたみたいで……」
「いえ、森の異変を知らせてくれました。魔力不足のようですが……」
丁寧に一礼しながら会話するお兄様の格好よさに見惚れていると、鳥の奥様はオルフェウス君の頭を呆れたように見る。
「修行不足ね」
「クル……」
美女の言葉に身を縮こませる小鳥さんは、さらにまんまるの大福状態になっている。
ふぉぉ、めっちゃさわりたい。もちもちしたい。
「黒髪君、息子の巣になってくれて感謝するわ」
「巣になったつもりはないし、黒髪じゃなくてオルフェウスだ。オルでいい」
「ありがとう、オル君」
息子!?
あんなに大きな鳩さんが、小鳥さんのお母さん!?
鳥の奥様の案内で、お師匠様が施したというフェルザー家専用の移動魔法陣から居住区へ入ることができた私たち。
応接室として使っているツリーハウスで、ゆったりとティータイムすることになった。
手のひらに息子さん(小鳥大福)をのせて、「クルクル、クルッポー」などと会話をしている姿はとても微笑ましい。
実際の彼らは真剣に会話しているのだろうけど……あ、大福が膨らんだ。
目をキュッとさせれば、魔力が移動しているのが見える。魔力をいったりきたりさせるのって結構難しいらしいけど、親子ならわりといけるってお師匠様が言ってたよ。
どんどん大きくなる大福。やがてそれは風船のようにポフンと弾けた。
「ありがとうございます。もう大丈夫です」
現れたのはお兄様と同年代の美少年だった。鳥の奥様と同じく真っ白だけど、前髪だけ虹色になっている。
母親はドレッシーな感じだったけど、彼が身にまとうものはチュニックとズボンというシンプルなものだった。
息子はお母さんと違って、鳥になると小さくなるのかぁ。また抱っこさせてくれないかなぁ。
「ことりしゃ、いないの」
「おい、ユリアーナが寂しがっている。今すぐ鳥になれ」
「ヨハン、性格が変わりましたか?」
呆れ顔の元小鳥さんに、オルフェウス君は苦笑しながら二人の会話を遮る。
「それよりも、何があったのか説明が先だろ」
「ああ、そうです。精霊の森に王が生まれました」
「なんですって!?」
大きな声を上げる鳥の奥様に、思わずビクッとしてしまう私。セバスさんに背中をぽんぽんされて落ち着きました。すんませ。
……あれ? 今気づいたんだけど、私ずっとセバスさんに抱っこされたままだった?
「お気になさらず」
腕とか疲れてないの? と抱っこされている腕を撫でれば、ふむふむ、これはなかなか良き筋肉をお持ちですねと納得。さすセバ。
ところで精霊王が生まれるのは重要なことだとは思うけど、鳥の奥様と息子さんの慌てっぷりを見ると、獣人さんたちにとって大事件なのかな?
そんな私の気持ちを代弁するかのように、お兄様が鳥の奥様に問いかける。
「精霊王は、危険な存在ではないと書物にあったが?」
「森に住む者たちにとって、精霊王は何よりも尊ばれる存在なのよ。でも、生まれるには色々な条件があって……」
うーん、うーん、ユリアーナの中にいる私、今すぐ設定を思い出すのだー。
精霊王は、その名の通り精霊の王。
精霊の生まれる条件は人が少ないこと。
森とか山とか湖とか、分かりやすく言えば空気の綺麗な場所。
そんな綺麗な場所にいる精霊たちの王が生まれるには、めっちゃくちゃ綺麗な空気が広範囲にないとなんだけど……。
「ふむ、魔獣を狩り過ぎたか」
「んんーっ! 悔しい! 絶妙なバランスで魔獣を狩っていたのにっ!」
「新規で入った獣人たちが、張り切ってしまったようです。それを止めようとしたのですが、魔力が切れて……」
「新しい子たちって狼族ね。アレは私と夫の二人じゃないと、止めるのは無理よ。あの子たちには説教(物理)するとして、さてどうしたものかしら……」
はぁ……と悩ましげに吐息を漏らす美女。
「せいれいおう、だめなの?」
「生まれてしまうと、大変なのよ。ほら、尊い存在だから、それなりにお世話しないといけないし」
「おせわ……」
なるほど。
東京の本社のお偉方が突然、地方の支店に「ご来訪!」みたいに来ちゃうと、急な接待でクソ面倒だなこちとら通常業務と並行でアンタの相手するんだマジで迷惑なんだけどってやつですね。すごくよくわかります。
おっといけない。急に会社勤めしてたころの記憶がフラッシュバックしちゃった。
「ユリアーナ、大丈夫か?」
「あい、おにいしゃま」
こくりと頷く。そして、セバスさんの腕をタップして、某獅子アニメ映画のように高く掲げてもらう。
「せいれいおう、あいにいきましゅ!」
ばばーん! 噛みました!
お読みいただき、ありがとうございます。
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え?仕事のストレス?
大丈夫ですよ。
確定申告も期間も延びたので、ゆったりしておりますよ。(大丈夫じゃないやつ)




